「化学教育ジャーナル(CEJ)」第12巻第2号(通巻23号)発行2009年12月28日/採録番号12-10/2009年10月29日受理
URL = http://chem.sci.utsunomiya-u.ac.jp/cejrnl.html

溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス
−ミョウバンとその関連物質の溶解度−


芦田実*,吉田茂,越智晴香
埼玉大学 教育学部
〒338-8570 埼玉県さいたま市桜区下大久保255
E-mail: ashida@mail.saitama-u.ac.jp


Automatic Services of Calculating Data and for the Preparation of Solutions
by Using Internet - Solubilities of Alums and Related Substances -


Minoru Ashida*, Shigeru Yoshida, and Haruka Ochi
Faculty of Education, Saitama University
255 Shimo-ohkubo, Sakura-ku, Saitama, Saitama, 338-8570 Japan

1.はじめに
 本研究室では,インターネットを利用して学外との双方向の交流を目指し,利用者の立場に立ってそのニーズに応えるためのホームページ[文献1]を開発している.そのために,化学の質問箱を開設したり,溶液の濃度計算と調製方法のサービス等[文献2〜12]を開始している.質問箱は閲覧数や質問の回答数が最盛期を過ぎたように思える(閲覧数は最盛期に約54000件/年,最近の2008年度は約29500件/年で,回答数は最盛期に141件/年,2008年度は70件/年である)が,その他のサービスは利用者がまだまだ少ない.そこで,多くの人に知ってもらい,また利用してもらうために,本報告で紹介することにした.今,学校では理科離れが進んでいる.理科(化学)の面白さは実験を通して伝えられることが多いと思われる.そこで,理科離れを少しでも減らすために,また学校で少しでも多く理科(化学)実験を行ってもらうために,化学系実験の基礎である水溶液の作り方(濃度計算と調製方法)[文献2〜9]の自動サービスを行っている.コンピュータに弱い人でも何の予備知識もなしに,いつでも必要なときに使用できる.さらにダウンロードサービスも開始しているので,圧縮ファイルをダウンロードして解凍すればこのプログラムはパソコンの中だけ(オフライン)でも実行できる.
 前報では,塩化ナトリウム水溶液[文献2],酢酸,塩酸,アンモニア水,水酸化ナトリウム水溶液[以上が文献3],硝酸,硫酸[以上が文献4],9種類の固体無水物の溶解度[文献5],二酸化炭素と石灰水[文献6],シュウ酸水溶液,シュウ酸ナトリウム水溶液[以上が文献7],塩化カリウム水溶液,塩化アンモニウム水溶液[以上が文献8],炭酸水素ナトリウム水溶液,炭酸ナトリウム水溶液[以上が文献9] について報告し,ホームページですでにサービスを開始している.本報告では,ミョウバン(4種類)とその関連物質(4種類)の溶解度(溶解度曲線)に関する自動サービスについて述べる.ミョウバンは小学校の理科実験「ものの溶け方」でホウ酸の代わりに使用されつつある.このサービスでは溶液の濃度,溶解量,析出量(沈殿量)を計算できる.さらに,溶液の温度を上げたときの追加溶解量や温度を下げたときの析出量等を計算できる.

2.溶解度(濃度)の定義
 Java Appletプログラムを呼び出すためのhtmlファイルに,下記の溶解度(濃度)の定義を載せている.実験操作に都合のいいような,通常使用しないような定義も含めているので,それらの違いに注意してほしい.
 溶解に使用した純水の量をMb(g,mL),溶質(含水物)の全質量をMt(g),その中の無水物としての質量をMa(g),結晶水の質量をMc(g)とする.さらに,溶質の無水物としての質量と溶質(含水物)の全質量の比をR,水溶液の密度をD(g/mL)とする.溶液全体に対する無水物としての溶質(ミョウバン等)の質量%W(mass%),溶解用の純水と結晶水を合わせた全ての水100gに対する無水物としての溶質の質量 X(g無水/100g全水),溶解用の純水(溶解水と呼ぶ)100gに対する水和物としての溶質の質量Y(g含水/100g溶解水),溶液100mLに対する水和物としての溶質の質量Z(g含水/100mL溶液)はそれぞれ

  W=100Ma/(Ma+Mc+Mb), X=100Ma/(Mc+Mb), Y=100(Ma+Mc)/Mb, Z=100D(Ma+Mc)/(Ma+Mc+Mb)

さらに,これらの溶解度等の間の換算式は

  X=100W/(100-W), Y=100W/(100R-W), Z=DW/R, R=Ma/Mt, Mt=Ma+Mc

3.ミョウバンとその関連物質の溶解度曲線
 作成したJava Appletプログラムで計算に使用しているミョウバン(4種類)の溶解度曲線を図1(g無水/100g全水単位),図2(質量%単位),図3(g含水/100g溶解水単位)に示す[文献13].これらの溶解度曲線は見かけの形や値が違うが,同温・同物質なら本質的に同一の溶液である.さらに,それらの数値を表1(g無水/100g全水単位),表2(質量%単位),表3(g含水/100g溶解水単位)に示す.
 ミョウバンの関連物質(4種類)の溶解度曲線を図4(g無水/100g全水単位),図5(質量%単位),図6(g含水/100g溶解水単位)に示す[文献13].さらに,それらの数値を表4(g無水/100g全水単位),表5(質量%単位),表6(g含水/100g溶解水単位)に示す.

4.利用者の操作方法
 実際のホームページ内の「溶液の作り方(濃度計算と調製方法)」[文献14]のメニューから「ミョウバンとその関連物質の溶解度」[文献15]をクリックすると,最初の画面(図7)が表示される.プログラム実行画面のテキストボックスに数値を入力するときは全て半角文字で入力する.例えば,5.432E-1や1.234e5のような指数形式での入力も可能である.ただし,半角E(またはe)の後ろに半角空白を入れるとエラーになる.チェックボックスをクリックすることにより8種類(ナトリウムミョウバンNaAl(SO4)2・12H2O,ミョウバンKAl(SO4)2・12H2O,アンモニウムミョウバンNH4Al(SO4)2・12H2O,アンモニウムクロムミョウバンNH4Cr(SO4)2・12H2O,硫酸ナトリウムNa2SO4・10→0H2O,硫酸カリウムK2SO4・1→0H2O,硫酸アンモニウム(NH4)2SO4,硫酸アルミニウムAl2(SO4)3・16H2O)の中から薬品を選択する.硫酸ナトリウムは32.4℃で,硫酸カリウムは9.7℃で水和水を放出して無水塩に変化する.市販の硫酸アルミニウムは十四〜十八水和物Al2(SO4)3・14-18H2Oとなっているので,十六水和物と仮定して計算している.必要に応じて6つのテキストボックスの数値を変更して温度を設定する.溶質の質量(含水,g)と溶解用の純水の量(g,mL)を入力して「計算ボタン」をクリックすると,黒文字の計算値が表示(更新)される.全てのテキストボックスの数値を消すには「消去ボタン」をクリックする.アンモニウムクロムミョウバンNH4Cr(SO4)2・12H2Oの計算例を図8に示す.最初の温度が25℃のとき,溶解に使用する純水50.0gに100.0gのアンモニウムクロムミョウバン十二水和物を加えると,約16.0gのアンモニウムクロムミョウバン十二水和物が溶解し,残りの約84.0gが沈殿することが分かる.さらに,飽和濃度に調節するためには,沈殿した約84.0gのアンモニウムクロムミョウバン十二水和物を除去するか,約262.1gの純水を追加すればよいことが分かる.この溶液を10℃に冷却すると固体の析出量が約93.4gになること,35℃に加熱すると溶解量が約29.0gになることが分かる.設定温度における上澄み液の実際の濃度と飽和濃度(溶解度)も種々の単位で表示している.画面の下方にはアンモニウムクロムミョウバン十二水和物の式量,化学的性質,注意事項等を表示している.硫酸ナトリウムNa2SO4の計算例を図9に示す.32.4℃で水和水を放出して無水塩に変化することに注意する必要がある.それ以外は,アンモニウムクロムミョウバンの場合と同様である.

5.注意事項
 Java Appletプログラムを呼び出すためのhtmlファイルに,薬品の取り扱いに関する下記の注意事項を載せている.実験するときは十分に注意して欲しい.
 ナトリウムミョウバン(硫酸ナトリウムアルミニウム)水溶液,ミョウバン(カリウムミョウバン,硫酸カリウムアルミニウム)水溶液およびアンモニウムミョウバン(硫酸アンモニウムアルミニウム)水溶液は加水分解して酸性になる.目に入ったり,皮膚に付いたりしないように注意する.
 アンモニウムクロムミョウバン(硫酸アンモニウムクロム)水溶液は加水分解して酸性になる.目に入ったり,皮膚に付いたりしないように注意する.自然界で一部が酸化されて六価クロムになる恐れがあるので,実験廃液を流しに捨ててはいけない.再利用するか,保管しておいて廃液処理を専門業者に依頼する.
 硫酸ナトリウム水溶液が目に入らないように注意する.固体の十水和物は32.4℃で結晶水を放出し,その水に溶解する(温度標準の1つ).水中で固体が析出するときに,32.4℃より低温では十水和物(結晶芒硝,グラウバー塩)が,32.4℃より高温では無水塩(無水芒硝)が析出する.
 硫酸カリウム水溶液が目に入らないように注意する.
 硫酸アンモニウム水溶液は少し加水分解して弱酸性になる.目に入ったり,皮膚に付いたりしないように注意する.また,加熱するとアンモニアを一部失って,酸性が強くなる.
 硫酸アルミニウム水溶液は加水分解して酸性になる.目に入ったり,皮膚に付いたりしないように注意する.市販品には14〜18水和物および無水物がある.

6.計算方法
 Java Appletプログラムを呼び出すためのhtmlファイルに,下記のような計算方法の解説を載せている.
 最初に上のプログラムで,入力した温度における溶解度(飽和濃度,質量%) Wを上の表(表1表2表3表4表5表6)から内挿法で求め,これから他の溶解度X,Y,Zを換算する.実際に使用した溶質のうち溶解している含水物としての質量をMyg(g),溶解している無水物としての質量をMym(g),析出している含水物としての質量をMsg(g),析出している無水物としての質量をMsm(g),上澄み液の濃度をUw(mass%),Ux(g無水/100g全水),Uy(g含水/100g溶解水)およびUz(g含水/100mL溶液)とする.さらに,飽和濃度に調節するために必要な溶質(含水物)の追加・除去質量をMo(g),または飽和濃度に調節するために必要な純水の追加・濃縮量をVo(g,mL)とすると,次式のような関係がある.これらの式と既知の値を用いて未知の値を求めることができる.

溶解度に達しているとき  Uw=W, Ux=X, Uy=Y, Uz=Z, Myg=UyMb/100, Mym=RMyg

  Msg=Mt-Myg, Msm=RMsg, Mo=-Msg, Vo=100Mt/Uy-Mb

溶解度未満のとき  Uw=100RMt/(Mt+Mb), Ux=100Uw/(100−Uw), Uy=100Uw/(100R−Uw)

  Uz=DUw/R, Myg=Mt, Mym=RMyg, Msg=0, Msm=0, Mo=Mb(Y−Uy)/100, Vo=100Mt/Uy-Mb

7.使用したソフトウェア
 開発に使用したOSはMicrosoft社のWindows XP Professionalである.さらに,Microsoft社のWindows 98,2000 Professional,ME,XP home edition,Vista Home Premiumで動作確認を行っている.Java Appletは多くの書籍[文献16〜21]を参考にして,Borland社のJBuilder 6 Professional,2005 Developerで作成し,フリーソフトウェアFFFTP 1.88[文献22]でサーバーにアップロードした.HTMLファイルはIBM社のホームページ・ビルダー 11[文献23,24],またはマクロメディア(株)のDreamweaver MX[文献25]で編集・作成した.

8.おわりに
 埼玉大学および教育学部のサーバーだけでなく,学外のサーバーにも濃度計算と調製方法のプログラムを載せてサービスを開始した[文献1].学校の授業の準備や自由研究等でも利用できると思われる.今後はさらに,計算できる(水)溶液の種類を増やし,少しずつサービスを充実していく.

謝辞
 本研究は科学研究費(基盤研究(B),課題番号21300288)の助成を受けたものである.

参考文献など(URLは全て2009年10月23日時点のものである)
[文献1] トップページアドレス 本館 http://www.saitama-u.ac.jp/ashida/
 新館   http://rikadaisuki.edu.saitama-u.ac.jp/~chem1/
 縮小版1 http://www1.edu.saitama-u.ac.jp/users/ashida/
 別館1  http://www.geocities.jp/ashidabk1/ (質問箱は閲覧のみ)
 別館2  http://ashidabk2.hp.infoseek.co.jp/
 別館3  http://www7.tok2.com/home/ashidabk3/
[文献2] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −塩化ナトリウム水溶液−』化学教育ジャーナル(CEJ),第7巻第1号(通巻12号),採録番号7-5(2003)
[文献3] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −酢酸水溶液,塩酸,アンモニア水,水酸化ナトリウム水溶液−』化学教育ジャーナル(CEJ),第8巻第1号(通巻14号),採録番号8-3(2004)
[文献4] Minoru Ashida, et al., Automatic Services of Calculating Data and for the Preparation of Solutions by Using Internet: - Nitric Acid Aqueous Solution and Sulfuric Acid Aqueous Solution-, The Chemical Education Journal (CEJ), Vol. 9, No. 2 (Serial No. 17). The date of issue: January 30, 2007./Registration No. 9-14/Received March 7, 2006.
[文献5] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −固体無水物の溶解度−』化学教育ジャーナル(CEJ),第10巻第1号(通巻18号),採録番号10-2(2007)
[文献6] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス − 二酸化炭素と石灰水 −』化学教育ジャーナル(CEJ),第10巻第1号(通巻18号),採録番号10-3(2007)
[文献7] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −シュウ酸水溶液およびシュウ酸ナトリウム水溶液−』化学教育ジャーナル(CEJ),第11巻第1号(通巻20号),採録番号11-4(2008)
[文献8] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −塩化カリウム水溶液および塩化アンモニウム水溶液−』化学教育ジャーナル(CEJ),投稿中
[文献9] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −炭酸水素ナトリウム水溶液および炭酸ナトリウム水溶液−』化学教育ジャーナル(CEJ),投稿中
[文献10] 芦田実ほか『定量分析シミュレーションのインターネットによる自動サービス −酸・塩基滴定−』化学教育ジャーナル(CEJ),第10巻第1号(通巻18号),採録番号10-4(2007)
[文献11] 芦田実ほか『定量分析シミュレーションのインターネットによる自動サービス −混合滴定−』化学教育ジャーナル(CEJ),第11巻第1号(通巻20号),採録番号11-5(2008)
[文献12] 芦田実ほか『定量分析シミュレーションのインターネットによる自動サービス −酸化・還元滴定−』化学教育ジャーナル(CEJ),第11巻第1号(通巻20号),採録番号11-6(2008)
[文献13] 日本化学会編『化学便覧基礎編改訂4版』丸善(株)(1993)
[文献14] http://www.saitama-u.ac.jp/ashida/cgi-bin/calgramc.cgi
[文献15] http://www.saitama-u.ac.jp/ashida/calcgrap/apadj013.html
[文献16] 高橋和也ほか『Java逆引き大全500の極意』(株)秀和システム(2002)
[文献17] 田中秀治『Jbuilder5で入門!Javaプログラミング』ソーテック社(2001)
[文献18] 松浦健一郎,司ゆき『はじめてのJBuilder6』ソフトバンク(株)(2002)
[文献19] 赤間世紀『Java2による数値計算』技報堂出版(株)(1999)
[文献20] 青野雅樹『Javaで学ぶコンピュータグラフィックス』(株)オーム社(2002)
[文献21] 中山茂『Java2グラフィックスプログラミング入門』技報堂出版(株)(2000)
[文献22] http://www2.biglobe.ne.jp/~sota/
[文献23] 『ホームページ・ビルダー2001ユーザーズ・ガイド』日本アイ・ビー・エム(株)(2006)
[文献24] アンク『HTMLタグ辞典』翔泳社(2000)
[文献25] 『Dreamweaver MXファーストステップガイド』マクロメディア(株)(2002)          元の本文位置に戻る

トップへ  CEJ, v12n2目次へ