「化学教育ジャーナル(CEJ)」第15巻第1号(通巻28号)発行2014年2月7日/採録番号 15-1/2013年10月10日受付,11月27日受理
URL = http://chem.sci.utsunomiya-u.ac.jp/cejrnl.html

教材開発 水素産生菌と燃料電池を利用したバイオ水素エネルギー学習の教材化

Development of the kit for biomass energy teaching which use hydrogen fermentation fungus and fuel cell.


川村 幸嗣1,*, 和泉恵介2, 本間 弘明11光明理化学工業(株),2元 光明理化学工業(株))

Koji KAWAMURA1,*, Keisuke IZUMI2 , Hiroaki HONMA1(1Komyo Rikagaku Kogyo, 2Former staff of Komyo Rikagaku Kogyo K.K.)

*kawamurakomyokk.co.jp


Abstract:Teaching biomass energy are important parts of science education. Then, we developed the experimental kit for biomass energy which consists of fermentation vessel, fuel cell and fan motor. We used apple pomace as a substrate of hydrogen fermentation. Hydrogen was produced by indigenous fungus of apple (Rhodosporidium toruloides) which is non-pathogenic microbial without any additional microorganisms, and introduced into fuel cell. Fuel cell generated electrical power and fan motor worked several minutes. This kit will be carried out easily to make students understand about biomass energy, and it can be used safely in the junior high and high school.
Keywords:Biomass; Hydrogen; Apple pomace; The kit for biomass energy learning 



1.緒論

  近年、中学校や高等学校などの教育現場において、エネルギー教育に対する関心は高まっており[1]、燃料電池などの実験キットを用いたエネルギー教育が実施されている。[2] なかでも、バイオマスエネルギーなどの再生可能エネルギーによる発電は中学理科の教科書でも取り上げられ、[3] 自由研究などのテーマとして中学生や高校生に学習機会が与えられることもある。[4] しかし、バイオマスエネルギーに関する実験を行い、発電までの工程を実際に経験するためには、専門的な微生物設備や技術が必要とされ、中学校や高等学校での実施は困難であった。
  一方、筆者らは実験を伴ったエネルギー環境教育手法を確立する観点から、微生物の専門設備がないような、通常の中学校、高等学校における教育現場でも簡単にバイオマス発電を実施できる学習教材の研究開発を行い、製品化に成功した[5]。利用する微生物については、病原性がないとされるバイオセーフティレベル1で、かつ水素発酵を行い、発酵過程により硫化水素やアンモニアなどの有害ガスを発生しないリンゴ常在菌 R. toruloides[6] を採用した。すなわち、水素産生微生物が含まれ、かつバイオマスでもあるリンゴ果実搾り粕を用いて発酵を実施し、発生させた水素を含む気体を燃料電池に導入して発電し、この電力でファンモーターを回転させるバイオマスエネルギー学習教材用のキットを作製した。本報では開発した装置の実験条件や検討結果と、微生物により生成された水素を用いたバイオマスエネルギー学習方法について示す。

2 開発した実験教材の概要

  リンゴ(Malus pumila)果実の搾り粕をバイオマスとして用いて水素発酵を行い、得られた水素を含む発生気体を燃料電池に導き、発電試験を行う。水素発酵とは嫌気性微生物が行う発酵のうち、最終生成物が水素であるものを言う。水素以外にも、有機酸やアルコール、二酸化炭素なども生成する。また燃料電池とは、外部から陰極に供給された水素と空気中の酸素を電極上の触媒で反応させ、電力を取り出すことができる発電装置である。なお、燃料電池を用いた方法は発電後に副産物としては水しか生成されず、環境負荷が少ないことから、将来におけるエネルギー産生方法として期待されている。発電は燃料電池に接続したファンの回転やLEDの点灯から確認する。水素産生菌としてはリンゴ常在菌を利用するため、種菌(発酵スターター)の投与などの微生物学的な技量は必要ない。発酵時間は4〜7日程度かかるが、発酵の仕込みに必要な時間は30分程度、発電試験に必要な時間は10分程度である。

3 実験方法および材料

3.1 水素発酵の方法について
  バイオマスとしては、年間を通じて入手が容易で安価なリンゴ果実を用いた。これを家庭用おろし金を用いて搾汁し、台所の三角コーナー用ネットを用いて搾り粕を得た。
  この搾り粕1〜2個分(約50〜100g)、市販ミネラルウォーター、およびpH 緩衝剤を発酵槽に入れて培養液を調製した。水素発酵には特に種菌を用いずに、リンゴの常在微生物であるR. toruloides による水素発酵能を利用した。
  自然界には大腸菌(Escherichia. coli)やクロストリジウム属(Clostridium. sp)など、様々な水素を産生する菌が知られているが、[7,8] その多くはバイオセーフティレベルが2であったり、1であったとしても人からの分離例があり、日和見感染をおこす可能性のある菌種とされている。[9] これらの菌種に関しては、病原性が否定できないことから、教材の材料として使用するには危険が伴うため、採用することができない。
  そこで、本研究では1)使用する微生物に病原性がない、2)水素産生能が確認されている、3)身近に入手できるバイオマスが活用できるもの、の3つの条件を満たすものを選定した。 本研究で利用するR. toruloides は 1)バイオセーフティレベルが1で病原性が無く、通常の理科室でも取扱いが可能で、2)水素を産生することが確認されており、3)身近に入手できるバイオマスであるリンゴを活用でき、バイオ水素エネルギー教材として都合が良い。なお、リンゴ搾り粕はリンゴジュース製造時に食品工場からの廃棄物として産出されている。土壌改良材などに活用されているか、付加価値が低く、バイオマスとしての利用が検討されている。[10] このことからも、リンゴ搾り粕はバイオマス学習のモデル教材として都合がよいため、本研究でのバイオマス試料として選定した。



3.2 発酵槽・水素貯蔵塔および水素産生試験
  発酵槽および発生水素回収装置として、図1に示した装置を作製した。すなわち、ガラスおよびアクリルフタからなる容器(350mL容)のフタ部分に穴を開け、継ぎ手(ニッタ・ムアー社 ケミフィットCPコネクタ CP-C6-R1/8 17mmΦ)を接続して発酵槽とした。この発酵槽に50〜100gの搾り粕、市販ミネラルウォーター約330mL、および3種類のpH 緩衝剤を入れて発酵液を調製した。







  pH緩衝剤は図2に示すように、予め必要量を容器に充填しておいた3種類のpH緩衝剤(リン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、炭酸水素ナトリウム)を準備しておき、実験直前に容器内の試薬全量を発酵槽に投入するという方法をとった。これにより、実験時に試薬を秤取る手間を省くことができ、短時間で効率よく実験操作を行うことができる。なお、この3種類のpH緩衝剤は400mLの精製水に溶解後、中性付近となる量(濃度として、23mMリン酸二水素カリウム、37mMリン酸水素二カリウム、36mM炭酸水素ナトリウム)が容器に封入されている。
  リンゴ果実搾り粕は、そのままの状態で発酵槽に投入すると、発酵によって気体とともに水素貯蔵塔への配管内に入り込み、配管を塞いでしまう事例が見られた。このため、搾り粕は図3のように球形の茶こしの中にいれた状態でpH緩衝液に浸して発酵を実施した。



  発酵槽は水を張った浮屋根式の水素貯蔵塔内に接続して、発生した気体を貯蔵した。水素貯蔵塔は500mL用ガラスビーカーおよびアクリル製浮屋根からなり、200mLの発生気体を水上置換の原理にて貯蔵することができる。浮屋根には容量の目盛りを印字し、発生した気体の量が確認できる。発酵槽と水素貯蔵塔の間には三方コックを接続しておき、発酵終了後にはシリンジ(テルモ プラスチックシリンジ 針無し 5mL)を用いて、コックから発生気体を採取できるようにした。
  採取した気体は燃料電池に誘導して発電試験を実施するとともに、北川式ガス検知管(光明理化学工業(株))やガスクロマトグラフ(GC)((株)島津製作所)を用いて発生気体の成分組成も確認した。すなわち、水素はGC-TCD 法により、メタン関してはGC-FID 法により、その他の成分に関しては北川式ガス検知管法により分析した。
  培養は室温放置(25℃程度)もしくは図4に示したような水槽((株)GEX マリーナガラス水槽S、315×185×244mm、12L)の中に、は虫類飼育用の完全防水ヒーター(みどり商会 スーパー1 S 180×150mm 5W)を入れて簡易的に作製したチャンバーの中にいれて40℃程度に保温した2種類の方法で実施した。水素が貯蔵するまでに必要な時間は実験条件にもよるが、リンゴ2個分の搾り粕(約100g)を使用した場合では、培養温度が40℃では2日、25℃では3日程度である。



  なお、本研究において使用した材料・器具は、注記しない限り加熱や消毒剤を利用した滅菌的な処理は一切実施していない。また、実験には事前に種菌の選択培養などの微生物学的な技量が必要とされるプロセスも含まれていない。これは、専門的な微生物学的手段が必要とされるような方法は、中学校・高等学校での実施は困難であり、学校での実験手法として成立しにくいからである。

3.3 発生水素による発電確認試験
  発酵終了後は発酵槽と水素貯蔵塔間に設置した三方コックを通じて、水素貯蔵塔内に蓄積された発生気体をシリンジで採取した。この採取した気体を理科実験用の小型水素燃料電池(Hレーサー用燃料電池(株)ナリカ社製 電圧 0.4〜1.0V 電流 最大1000mA 水素消費量 1000mAの電流を流した時最大7mL/min 大きさ 52×32×12mm)に投入して発電試験を実施した。燃料電池の水素投入口は2箇所有るため、両方に発生気体を満たしたプラスチックシリンジと空のシリンジを図5のようにそれぞれ接続し、導入した水素が燃料電池に消費される前に散逸しないようにした。発生気体に水素が数十%の濃度で含まれている場合は、この水素によって燃料電池による発電できる。ファンモーターやLED灯などの製品を燃料電池に接続しておけば、ファンの回転やLEDの点灯などが確認され、気体により発電したことが視認できる。


3.4 発酵槽中の微生物について
  本研究では実験中の発酵液中からの微生物も分離した。これはエネルギー教育実験を行う上では実施する必要性はない事項であるが、開発した教材で水素発酵を行っている微生物を確認するために行った。
  分離は水素発酵開始から48 時間後に実施し、分離培地にはリンゴ寒天培地(pH7 に調整) を使用した。発酵液1mL を滅菌済みマイクロピペットで採取し、これを滅菌水で任意の濃度に希釈した後、寒天培地に0.1mL 塗抹した。培養は30℃の好気条件で行い、塗抹3日後に出現コロニーの観察とカウントを行った。

4 実験結果および考察


4.1 水素産生について
  開発した教材を用いて水素発酵を実施した結果を図6に示した。発生した気体の量はリンゴ1個、25℃での発酵条件で、5日間で200mL以上であった。またリンゴ2個、25℃での発酵条件で2日で200mL以上の気体が蓄積された。さらに、発酵速度は室温放置よりも、ヒーターでの加温培養の条件の方が速かった。




  発酵槽および水素貯蔵塔を用いて、発生気体が200mL程度蓄積された時点での水素濃度を確認したところ、50〜65%程度であり、燃料電池を駆動するのに十分な濃度であることがわかった。教材用の燃料電池は水素濃度が50%の場合、1mL程度投入すれば約1分間はファンが駆動することを確認した。(川村 私信) これから発生濃度50%程度、発生量200mLという結果は、エネルギー教育に必要な水素量として十分なものであることがわかる。

4.2 発酵時pHと使用するリンゴ果実の品種・産地
  表1には、pH緩衝剤の量を変化させ、培養開始時の培地pH条件が4.9〜9.1の条件での結果について示した。その結果、pHが6.5〜7.9の中性付近で実施した場合は、リンゴの産地・品種にかかわらず、十分な量の水素(数十mL以上)が発生した。




  この結果から、本方法は発酵溶液のpHを中性条件に調整しておけば、入手したリンゴの産地・品種にかかわらず、エネルギー実験に必要な水素量を得られることがわかった。[11] このように、品種・産地を問わずに実験することができるため、実験教材の準備が容易であるという観点から、本教材は都合が良い。なお培養終了時には培養液のpHは、いずれの試験条件でも4〜5付近と酸性となった。

4.3 発酵槽中の微生物について[12]
  発酵液中からの微生物を分離したところ、リンゴ寒天上からは、赤色のコロニーを形成する優占種と、少量の白色のコロニーを形成する種類の、2種類のコロニーが出現した。それぞれのコロニーをさらに分離して、PCR法により同定したところ、赤色コロニーはR.toruloidesであり、白色コロニーはEnterococcus faecalisCandida dubliniensisPaenibacillus odoriferの三種混合であることが確認できた。塗抹3 日後の寒天培地の写真を図7 に示す。(なお、図7の試験時では赤色コロニーのみ形成されたものであり、白色コロニーは写っていない。)



  通常、リンゴ表面には多種多様な微生物が常在菌として存在しており、さらにR.toruloidesは優占種ではないことが報告されている。[13] このためリンゴ由来の搾り粕を培養すれば、様々な微生物が培養されるはずであるが、表2に示すように、本開発教材の発酵槽中からはR.toruloides以外の微生物はほとんど検出されなかった。これは、通常リンゴ常在菌の培養至適pHは酸性域であるが、今回の方法では中性域で培養しているため、R.toruloides以外の微生物が増殖しにくく、R.toruloidesが選択的に培養されたためと推察される。




  なお、高圧蒸気滅菌を施したリンゴ果実搾り粕とpH緩衝剤の溶液に、表2で得られたコロニーを投入したところ、R.toruloidesである赤色コロニーを投入したものでは水素発酵が確認されたが、白色コロニー(E. faecalisC. dubliniensisP. odorifer)を投入しても、水素は発生しないことを確認している。[6] 以上のことから、開発教材において水素を産生している微生物はR.toruloidesである考えられる。

4.4 発生気体を利用した発電試験
  発生気体(水素濃度50〜80%)を5mL 導入したときのファンモーターの駆動時間と燃料電池電圧の関係を図8に示す。図8 には、発生気体投入1 回目、50 回目および100 回目に発電試験を実施したときの結果を示した。ファンモーター駆動時における電圧はいずれも0.8V程度であり、使用回数の増加に伴って電圧が低下するなどの燃料電池の劣化現象はみられなかった。燃料電池の電極には白金触媒が使用されており、導入気体中に硫化水素等の被毒ガスが含まれている場合は触媒が被毒し、発電しなくなることが報告されている。[14] しかし、本教材では図8の結果から、繰り返し100 回発電試験を行っても、発生気体成分に起因する電圧特性の変化はなく、発生気体による燃料電池の損傷作用はみられなかった。
  なお、燃料電池に接続して駆動する電気製品であれば、LEDや温湿度計などのファンモーター以外のものでも使用可能である(図9)。




4.5 発生気体の組成[15]
  発生気体中に含まれるガスの分析の結果を表3に示す。発生したガスとして水素(20〜80%) に次いで高濃度であったのは二酸化炭素(20%以上) であった。酢酸は臭気として感じることができ、液相中に生成することも確認されている[6]が、ガス濃度としては検知管の検出下限値(0.2ppm)より低いために検出されなかった。アンモニアや硫化水素などの悪臭ガス(有毒で、触媒毒にもなる)は、臭気として感じることは無く、また検知管を用いても検出されなかった(検出下限値はそれぞれ0.2および1ppm)。酸素は微生物の増殖に使われたためか、ほぼ消費されていた。また、メタンは検出されなかった。この結果から、発生気体中の主要成分は水素および二酸化炭素であることがわかる。また分析はしていないものの、発酵前に発酵槽中上面に含まれていた空気中の窒素も、気体中には含まれていると考えられる。
  微生物の発酵試験時には有害ガスである高濃度のアンモニアや硫化水素が発生することが多い。しかしながら本方法ではこれらのガスは発生しておらず、安全に実験することができ、教材として都合が良い。



4.6  他の果物での実験結果



  本実験と同じ方法で、リンゴ以外の果物での実験を実施した。モモ(Amygdalus persica)、セイヨウナシ(Pyrus communis)およびブドウ(巨峰 Vitis vinifera)果実で実験したところ、ブドウ果実では水素の発生はみられなかったが、モモおよびセイヨウナシ果実でリンゴ果実の場合と同様に水素の発生が確認された(図10)。水素発酵を行う微生物や発生気体組成の分析は実施していないが、リンゴ果実の場合と同様な機序であると推察される。これら以外の果物や野菜においても、同様な水素産生現象がみられる可能性があり、今後の研究が期待される。

5.結論


  本研究で開発した方法では、微生物学の専門技量や設備がなくとも、バイオマスであるリンゴ果実から水素発酵を実施できる。発生した水素を含む気体を燃料電池に投入することで、ファンなどの電機部品を駆動させることができた。これにより、バイオマスであるリンゴ果実から発酵によりバイオ水素を産生することができ、またその水素を利用したエネルギー学習も実施できる。水素発酵に使用する微生物には病原性がなく、また発生気体中にはアンモニアや硫化水素などの有害ガスは含まれていないことから、安全に実験することができる。さらに発生気体中には、燃料電池の触媒毒になる成分も含まれておらず、実験によって燃料電池を損傷してしまう恐れもない。これまで、実際にバイオマスエネルギーを用いた発電実験を、微生物学の専門設備がないような環境で簡単に実施できるような教材は存在しなかったため、本研究の手順を利用することで、エネルギー教育の一助とすることが可能である。リンゴ果実はいつでも安価に入手できるため、材料の入手に問題なく、実験上都合がよい。
  中学生・高校生を対象とした燃料電池および水素を利用した学校教材や教育方法の開発に関しては、様々な研究成果が報告されている。[16,17] しかし本研究のように、学校教材において果物の搾り粕などの身近に存在するバイオマスを利用し、バイオ水素を発生させるというものは、筆者らが研究開発を実施して、製品化したもの[5]を除いては、他研究において見あたらない。バイオマスに関連する教材としては、バイオエタノールに関する学習教材の開発が報告されているが、これはバイオエタノールを製造するプロセスの確認のみであり、エネルギー実験まで実施できるものではない。[18] また、バイオディーゼルを製造したり、[19] ディーゼルエンジンを利用した発電方法も報告はされている[20]が、ディーゼルエンジンや発電機の準備が容易ではなく、教育現場で実際に発電まで実施することは困難である。
  本研究で開発した方法は、リンゴ果実搾り粕をpH緩衝液中に投入して放置(培養)するだけであり、培養期間は若干長くなるが恒温槽などの加温設備を使用しなくとも実施可能である。また事前の種菌の培養や器具の滅菌操作も不要であり、通常の理科実験室において実施可能である。従来、中学校・高等学校では不可能であったバイオ水素の実験教材として有効であると考えられる。
  なお試験所要時間でみると、発酵に数日要するため、水素発酵準備と発電試験とで日を変えて試験する必要がある。本研究による方法は、簡単に実施することができるため、中学校、高等学校での環境教育に適しているが、バイオマスの種類をリンゴ果実以外のもので実施したり、培養温度や培地の組成(pH緩衝剤の種類や濃度)を変えることで、大学教育などでの微生物学に関する理解を深める手段としても活用が期待される。

附記
本稿は日本化学会第92春季年会(2012年3月、慶応義塾)での発表に加筆修正したものである。

<参考文献及び注解>


[1] エネルギー教育のための小中高連携カリキュラム, 中国・四国地区エネルギー教育推進会議カリキュラム・教材WG 平成23年2月
[2] 奥川雅之, ものづくりリテラシー教育と制御工学, 計測と制御, Vol. 46, No.9, 2007, p. 697-700.
[3] 東京書籍, 新編新しい科学, 1分野下, 科学技術と人間, 2008, 92-101.
[4] 土井正路, 理科から発信するエネルギー・環境教育, 啓林館website,授業実践記録(理科), 2007年4月
http://www.shinko-keirin.co.jp/keirinkan/j-kadaiscie/0704_2/index.htm
[5] 本研究で開発された発酵槽や水素貯蔵塔は、理科教材販売会社からキット化された製品として販売されており、購入することが可能である。
http://www.komyokk.co.jp/kweb/pbtop.do?pbno=1250&je=0#191
なお、発酵槽、水素貯蔵塔に関しては、工作が得意であればプラスチック製の市販の密閉容器やコップなどに穴を開け、チューブを接続すれば自作することも可能である。価格は選定する部材にもよるが5000円以下で、2時間程度の作業時間で作製できる。水素貯蔵塔の水を入れる容器には実験用のガラスビーカーを用いればよい。緩衝剤に関しては、1回の実験分あたりの費用は30円程度である。
[6] 川村幸嗣ら, 発酵スターターを用いないリンゴからの発酵による水素ガス産生方法, 日本化学会第92回春季年会, 2012年3月, 講演番号3D1-43
[7] 谷生重晴, 電子とイオンの機能化学シリーズVol 4 固体高分子型燃料電池のすべて, 第4 節バイオマス水素製造, p. 223-238, NTS, 2003
[8] 野池達也, 嫌気性廃水処理法の原理, 水質汚濁研究, Vol.10, No.11, 1987 p. 652-656
[9] 黄笑宇ら, 複合微生物系による生ゴミの水素発酵に関する研究, 環境技術, Vol. 37, No. 6, 2008, p. 421-427
[10] 青森県バイオマス活用推進計画, 青森県, 平成23年3月
"http://www.maff.go.jp/j/shokusan/biomass/b_kihonho/local/pdf/aomori_plan.pdf"
[11] 実験で使用したリンゴの種類としては津軽、サン津軽、フジ、サンフジ、王林、千秋、ジョナゴールド、紅玉において、産地としては青森県、岩手県、福島県、長野県、ニュージーランド産を用いた実験で、エネルギー教育が可能であったことを確認している。
[12] 実験後の培養液は、30分間の煮沸消毒を行うことで、微生物が死滅することを確認している。微生物の死滅は日本薬局方 無菌試験法に準じて確認している。実験後は高圧蒸気滅菌器などの設備を有していない学校でも、鍋を用いた煮沸消毒で殺菌処理が可能であり、実験後の廃液処理の問題も少ない。
[13] Swapan Kr. Ghosh et al., Study of antagonistic yeasts isolated from some natural sources of West Bengal, Agric. Biol. J. N. Am., 2013, 4(1): p.33-40
[14] 疋田知士, ロシアにおけるPEFC関連の研究開発状況, 日本エネルギー学会誌, Vol. 85 (2006) No. 12, p.958-963
[15] 発生した気体の主成分は二酸化炭素と水素である。これらの濃度は北川式ガス検知管によって測定することができ、理科教育の一助とすることが可能である。また、測定結果は水素発酵が実施できているかの指標とすることができる。
[16] 野曽原友行, 高校化学 高効率・簡易燃料電池の開発,平成18年,
http://www.toray.co.jp/tsf/rika/pdf/h18_03.pdf
[17] 仲井真梨ら, 燃料電池システム教材の開発と授業実践, 信州大学教育学部附属教育実践総合センター紀要 3, 2002, p.107-116
[18] 川村幸嗣ら, セルロースを利用したバイオエタノール学習の教材化, 化学教育ジャーナル, 第12 巻第2 号,(通巻23 号), 2009, http://chem.sci.utsunomiya-u.ac.jp/v12n2/kawamura/
[19] Hiramatsu Atsushi et. al., A Lesson Model Fostering Fine Ideas in Chemistry Concerning Biodiesel on the Basis of "Education for Sustainable Development": Potentialities for Collaboration with Social Studies , Chemical Education Journal, Vol. 13, No. 1, 2009, http://chem.sci.utsunomiya-u.ac.jp/v13n1/07_2p2_2.pdf
[20] 長野県駒ヶ根工業高校, 研究成果報告書, 小型バイオディーゼル発電機の製作, バイオディーゼル燃料の活用, 平成19年11月12日, http://sbc21.co.jp/corporate/shorei/2007/21.pdf


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