「化学教育ジャーナル (CEJ)」創刊号/採録番号1-6/1997年9月29日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


溶解=水分子との結合

H9.9.30

札幌星園高等学校 杉山剛英

1.はじめに

水への溶解とは溶質の分子やイオンと水分子が結合する化学反応であって、決して混ざることと同義ではないのだが、理屈で言っても生徒の頭の中には結合と混合の具体的違いがイメージできてはいない。しかし本実験指導で、感動を持って溶解が立派な化学反応である事を生徒は理解した。

2.反応理論

銅(II)イオンは硫酸塩(無水)の結晶では無色だがアクア錯体は青色,クロロ錯体は黄緑色である。塩酸を使う方法が(文献1)に記載されている。

......+H_(2)O.アクア錯体......+ Cl^(-) クロロ錯体

Cu^(2+) ←→ [Cu(H_(2)O)_(4)]^(2+) ←→ [CuCl_(4)]^(2-)
{無色} 青色{正方平面型} 黄緑色{四面体型}

この事を利用して以下の様に指導する。

3.方法
(1)無水硫酸銅小さじ山盛り1杯を乾いた50mlビーカーに入れ、色を記録。 {無色だが古いと青みがかっている,その理由も後で考えさせると良い}
(2)ここに純水を数滴たらしてみる。{かなりの発熱があり、湯気が出る}

{常温の水と常温の粉末が混ざるだけで熱は出てこない。この熱は銅イオン と水分子の間に何らかの結合が発生し、余ったエネルギーが放出されたも のと考えられる。}
(3)イオン交換水を20ml程度になるまで加えかき混ぜて溶かす。色を記録。 {青色}
無色の丸いビー玉に無色の四角いビー玉をまぜても青色にはならない
{この青色は銅イオンの周りに水分子が4つ結合した事により光の吸収反射 が変化したため発生した,配位結合の説明は必要ない}
(4)更に食塩を大さじ1杯加えて溶かす。色を記録{食塩の結晶付近はすぐに きれいな黄緑色になる。かき混ぜるといったん色は青になるがすぐに黄緑 色になる。食塩の量が少ないと青色のままである。}
{食塩のCl_(-)が多く存在してくると配位していたH_(2)Oが追い出され クロロ錯体に変化していく。この色の変化も結合の変化に起因する。青の ビー玉に無色のビー玉を混ぜても黄緑にはならない}
(5)ここで、この黄緑の溶液に純水を加えるとどうなるか予想させる。
{水分子が多くなるからCl_(-)は追い出されてもとより少し薄い青色のア クア錯体となるという答えが容易に予想されその通りになることに感動を 得る生徒が多く出る}

4.おわりに

食塩や水は常に身の回りにあるが、実験材料となる事はあまり多くはない。しかし、この様な実験を通して、反応の予測や意外性を感じさせると物質に対する興味が深まると考えている。

アクア錯体  クロロ錯体

文 献
1.「続・実験による化学への招待」{丸善,日本化学会訳編,P92}

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