4.2 分配係数の実測値


 Leo ら[10]は5800の水ー有機溶媒間の分配係数Pi’のデータを整理して、水ーオクタノール間の分配係数Pi,octとの間に成り立つ次の経験的な関係

  log Pi’ = a log Pi,oct + b                (3)

のパラメータa,bを、計算機による回帰分析を行って有機溶媒別に決定している。溶媒によっては溶質をプロトン供与性とプロトン受容性に分類して別々にパラメータを決める方が(3)式による相関精度は向上した。プロトン供与性溶媒として、おおよそ、表3のグループ1、2の溶媒が含まれている。
 図4には飽和脂肪酸に対して水ー飽和炭化水素間の分配係数から求めた溶媒間移行エネルギーと炭素数の関係を示した。Leoの文献中[10]には分配係数はモル濃度の比として定義されているので、これを分配係数として(1)式から移行エネルギーを求めた場合(白丸)と、溶質のモル濃度と20Cにおける溶媒のモル体積からモル分率を求めて式(2)から決定した分配係数を用いた場合(黒四角)について示した。実線は図3の関係であり、脂肪酸についてみると、(2)式の分配係数から求めた場合(黒四角)とおおよそ一致しているが、モル濃度の比を分配係数として求めた場合(白丸)とは大きく違っている。すなわち、溶質分子と溶媒との分子間相互作用を反映する移行エネルギーには、モル分率を用いて(2)式で定義される分配係数を用いる必要がある。

   図4 飽和炭化水素ー水間の飽和脂肪酸の移行エネルギー

 図5にはGoodmanのデータ[11]に基づいてオクタン酸に対する水ーヘプタン間の移行エネルギーとヘプタン相におけるオクタン酸の濃度の関係を示した。溶質濃度の高まりとともに溶質ー溶質間相互作用の影響は強まるが、溶質ー溶媒間相互作用は溶質の無限希釈状態においてのみ移行エネルギーに反映される。
   図5 オクタン酸の濃度とへプタンー水間の移行エネルギーの関係

 図6にはLeoらのデータ[10]に基づいて、水ー飽和炭化水素間の移行エネルギーを飽和脂肪酸と他の溶質についても示した。移行エネルギー(あるいは水相中の水素結合との親和性)は

 アルカン<アルケン<アルカジエン<芳香族<脂肪族ニトロ化合物<脂肪族アルコール<飽和脂肪酸

の順に高まり、図1の溶質ー溶質間相互作用の順と似ている。Leoらのデータにはエステル、エーテル、アルデヒドに対する水ー飽和炭化水素間の分配係数は報告されていない。

図6 水ー飽和炭化水素間の移行エネルギー(プロット)と水ーへプタン間移行エネルギー(実線)

 図7にはLeoらのデータ[10]に基づいて、各種溶質に対する水ーオクタノール間の移行エネルギーを示す。オクタノールを有機溶媒とする場合には接触する2つの相のいずれにも水素結合が含まれるので溶媒間の類似性が高まる。その結果、溶質が異なっても移行エネルギーは類似している。

図7 水ーオクタノール間の移行エネルギー(プロット)と水ーへプタン間の移行エネルギー(実線)