4.3 超臨界二酸化炭素/水分配系の特徴


 超臨界流体と水を接触させて溶質を分配させる系においても溶質に対する水ー超臨界流体間移行エネルギーから溶質ー溶媒間相互作用を検討することができる。しかし、このような検討を試みた例は極めて少ない[12]。図8にはベンゼンに対する水ー超臨界二酸化炭素間の移行エネルギーと水ーヘプタン間の移行エネルギーを比較した例[12]を示す。温度と圧力が変わると超臨界二酸化炭素の密度は変化するが、密度と移行エネルギーには相関が認められる。図8の温度・圧力の範囲では水の比誘電率は常温、常圧の値に近いので、水相の状態はヘキサンを溶媒とする場合と超臨界二酸化炭素を溶媒とする場合で同じであると仮定すると、超臨界二酸化炭素は強い疎水場(μi,org ー μi,aq= -22 KJ/mol)から弱い疎水場(μi,org ー μi,aq = -18.5 KJ/mol)まで実現できることがわかる。有機溶媒を用いる場合には図8に示されたヘプタンに代えて長鎖の飽和炭化水素を用いても移行エネルギーの値を-19.5 KJ/mol から低下させることはできないので超臨界二酸化炭素とベンゼンの間には著しく強い親和性が存在するものと予想される。事実、このことは超臨界流体中における溶質のクラスター形成と符合している[13]。

   図8 超臨界二酸化炭素ー水間のベンゼンと安息香酸の移行エネルギー