化学物質の色の数値化 (Determining the values of RGB color code of Chemical Species)

「化学教育ジャーナル(CEJ)」第2巻第1号/採録番号2-9/1998年4月24日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html



化学物質の色の数値化

Determining the values of RGB color code of Chemical Species

○吉川 光宏、  横山 三楽、  岩田 雅弘、  芦田 実、   吉田 俊久 
Mitsuhiro Yoshikawa,  Yokoyama Sangaku,  Masahiro Iwata,     Minoru Ashida,  and Toshihisa Yoshida

埼玉大学教育学部 〒338-8570 浦和市下大久保255
Faculty of Education, Saitama University  Urawa 338-8570 Japan

[要旨]  現在、理科教育では、観察・実験の重視が叫ばれている。本報告は、化学実験の一例として無機系統定性分析( 第1族〜第6族 )を行い、その際に生じる化学物質(種)の測色について検討を行ったものである。その結果、測色に裸眼とコンピュータを併用することによって、本物により近い化学物質の色のデータを集めることができた。実験履修時間の少ない教員養成学部の学生に対しても 効率的な 理科(化学)実験教育に役立つ有効な資料が得られたと結論した。
[キーワード]化学実験教育、無機系統定性分析、化学物質(種)、測色

1 研究の目的
 先の学習指導要領の改訂後、観察・実験教育の重視が打ち出され、免許法の改正により実験教育にコンピュータの活用が薦められている。一方、教員養成学部では教科専門教育よりも教職専門教育に多くの時間がさかれる傾向があり“理科の観察・実験”の履修に十分な時間が与えられてはいない。卒業後に小、中学校教師として理科の指導を行うためには、少ない時間でも効率的に実験教育を受けている必要がある。一方、化学の魅力の一つに、水溶液内の簡単な化学反応における色の変化があるが、化学書に記載の色の表現は極めて曖昧なものが多い。化学物質についての色の認識はかなり重要なものであり、曖昧な色の認識では卒業後の化学系実験の指導に支障をきたす。そこで効率的な実験教育の視点で化学物質(種)の色を調べることにした。化学実験として“無機系統定性分析”を取り上げ、生ずる沈でん、水溶液色を調べたので報告する。

2 研究の方法
 取り上げた実験の無機系統定性分析については、本学で実施されている方式1)に従うものとする。そのとき用いた一般試薬とその調整法を表1に、また、陽イオン定性分析用試料原液を表2に示す。化学物質(種)の測色については、以下の2つ(IおよびII)の方法で行った。
I 裸眼による測色
 裸眼による測色については、(i) 東洋インキ( TOYO 88 Color Finder 1050カラーチップ )(ii) 大日本インキ( Color Guide第13版カラーチップ )(iii) 河出書房新社のカラーチップ の3つそれぞれの中から反応後の溶液・沈殿の色に最も近いと思われるカラーチップを抜き出しその色を確定色とした。この実験の再現性を高めるための条件設定は、試料およびカラーチップと裸眼の距離を約30 cm、周辺の照度約500 Lux(456〜569 Lux)とした。
II コンピュータによる測色
 コンピュータによる測色は、(i) Epson社製「カラリオ・フォトCP 200デジタルカメラ」により反応後の試料溶液とIで求めた測色結果、すなわちカラーチップの色をコンピュータに取り込む。さらに (ii) Hewlett Packard社製「 HP Scanjet 3cスキャナー 」から (i) と同様にカラーチップの色をコンピュータに取り込む。(i), (ii) で取り込んだ画像についてAdobe社製「 簡易版photo shop 2.5.1 」により、level調整( 明度と色相調整をkodak社製グレイスケールを基準として使用 )を行い、(i) と (ii) を比較して画像の表示色がカラーチップの色に最も近くなるようにRGB値を決定した。

3 結果
 測色実験Iにおける確定色、すなわち東洋インキおよび大日本インキのカラーチップコードと測色実験IIで求めたRGB値を、無機系統分析に基づいて表3に示す。また、その該当色の和名および英語名を色名事典2)に基づいて決定した結果を表4に示す。

4 結論
 本来、実験については基本的に実際に行うことが必須である。また (i) 今回の測色の結果も試料溶液の濃度、実験室の明るさなど実験(測色)環境に影響されやすい欠点がある。さらに (ii) 色の認識についても個人差がある。したがって、カラ−チップコ−ドやRGB値についても本物に、より近い値という表現しかできない。そのようなデメリットもあるとはいえ、化学実験・観察について、少ない時間での効率的な実験教育の履修が可能となる点やコンピュータの導入およびそれに伴う周辺機器などの発達を考慮すると、今回行った測色のように、より本物に近い客観的なデータを求めることも十分に意味のあることと思える。得られた本測色結果のメリットは
 (i) 理科の授業時間数の減少による実験授業の減少を補填できること
 (ii) 実験の履修ができなかった学生への補助教材
 (iii) 将来的に、学生が教師として容易に実験指導を行えるための補助資料
 (iv) 実験シミュレーションCAIなどへのRGB値の利用
などが挙げられる(実際、(iv) に関しては本研究室のN88 Basic上での無機系統定性分析シミュレーションプログラムをWin 95用のVisual−Basicに移植できている)。
 以上のことから、本研究(測色)の成果について効率的な理科(化学)実験教育に役立つ有効な資料が得られたものと結論できた。

参考文献
1)丸田銓二郎著,「改稿・基礎化学実験」共立出版 (1981)
2)MANUAL of COLOR NAMES 色名事典 財団法人日本色彩研究所編 (1973)

 表3 測色によるカラーチップコードとRGB値
 NO   試料    東洋インキ  大日本インキ  コンピュータ測色値 
  R    G    B  
     第1族        
AgCl   255  255  255 □□□□□□□
AgCl(日射後)CF0710II2214 221  211  239 ■■■■■■■
Hg2Cl2   255  255  255 □□□□□□□
PbCl2   255  255  255 □□□□□□□
Ag2SCF1020582   0    0    0 ■■■■■■■
HgSCF1020582   0    0    0 ■■■■■■■
PbSCF1017582   0    0    0 ■■■■■■■
Ag2OCF0829346 107   81   45 ■■■■■■■
Ag2CrO4CF0802II2243  94    1   21 ■■■■■■■
10Hg+Hg(NH2)ClCF1016541  17   13   17 ■■■■■■■
11Hg2OCF1020582   0    0    0 ■■■■■■■
12Hg2CrO4+Hg2OCF0123645 168    4    1 ■■■■■■■
13PbCrO4CF0201II2540 237  236    1 ■■■■■■■
14PbSO4   255  255  255 □□□□□□□
15Pb(OH)2   255  255  255 □□□□□□□

 NO   試料    東洋インキ  大日本インキ  コンピュータ測色値 
  R    G    B  
     第2族        
21CuSCF1020582   0    0    0 ■■■■■■■
22PbSCF1020582   0    0    0 ■■■■■■■
23CdSCF0201167 241  246    1 ■■■■■■■
24HgSCF1020582   0    0    0 ■■■■■■■
25SnS2CF020433 243  244   45 ■■■■■■■
26Cu(OH)NO3CF035966  58  208  219 ■■■■■■■
27[Cu(NH3)4]2+CF0450185  47    1  156 ■■■■■■■
28CuCNCF0247365 106  174   21 ■■■■■■■
29[Cu(CN)4]3-CF0602II2057 255  238  222 ■■■■■■■
30Cu2[Fe(CN)6]CF0825II2071  65    1    1 ■■■■■■■
31Cu(OH)2CF0400181  64  161  255 ■■■■■■■
32CuOCF1014504  39   30   32 ■■■■■■■
33Cd(OH)2   255  255  255 □□□□□□□
34Cd2[Fe(CN)6]CF022910 227  255  134 ■■■■■■■
35HgCF1004546  70   72   71 ■■■■■■■
36Sn(OH)4   255  255  255 □□□□□□□

 NO   試料    東洋インキ  大日本インキ  コンピュータ測色値 
  R    G    B  
     第3族        
41Fe(OH)2CF0123II2526 176    6    1 ■■■■■■■
42Al(OH)3   255  255  255 □□□□□□□
43Cr(OH)3−NH3aqCF0636399 111  169  139 ■■■■■■■
44Cr(OH)3−NaOHCF0888II2359  48  108   92 ■■■■■■■
45FeSCF1019582   0    0    0 ■■■■■■■
46Fe4[Fe(CN)6]3CF0937II2395   1   19   43 ■■■■■■■
47Fe(SCN)3CF0095II2244 169   11   45 ■■■■■■■
48レーキCF008779 229    1   43 ■■■■■■■
49CrO42-CF0201II2539 249  255    1 ■■■■■■■
50PbCrO4CF0192125 255  225    1 ■■■■■■■
51Ag2CrO4CF0826646 127   31    1 ■■■■■■■

 NO   試料    東洋インキ  大日本インキ  コンピュータ測色値 
  R    G    B  
     第4族        
61NiSCF1021582   0    0    0 ■■■■■■■
62ZnS   255  255  255 □□□□□□□
63Ni(OH)2−NH3aqCF034017 124  242  217 ■■■■■■■
64Ni(OH)2−NaOHCF0626II2120 167  255  169 ■■■■■■■
65[Ni(NH3)6]2+CF0442II2600  21   44  174 ■■■■■■■
66Zn(OH)2   255  255  255 □□□□□□□
67Ni2+(ジメチルグリオキシム)CF0067235 189    1   19 ■■■■■■■
68SCF1019582   0    0    0 ■■■■■■■
69Ni(CN)2CF0341II2140 185  245  229 ■■■■■■■
70[Ni(CN)4]2-CF0191125 249  226    1 ■■■■■■■
71Zn2[Fe(CN)6]CF0210II2087 239  253  151 ■■■■■■■
72Zn3K2[Fe(CN)6]2CF0211II2090 248  255  125 ■■■■■■■
73Zn2+(ジエチルアニリン)CF0180II2537 254  172    1 ■■■■■■■
74Zn(CN)2   255  255  255  

 NO   試料    東洋インキ  大日本インキ  コンピュータ測色値 
  R    G    B  
     第5族        
81BaCO3   255  255  255 □□□□□□□
82CaCO3   255  255  255 □□□□□□□
83SrCO3   255  255  255 □□□□□□□
84BaC2O4   255  255  255 □□□□□□□
85CaC2O4   255  255  255 □□□□□□□
86SrC2O4   255  255  255 □□□□□□□
87BaCrO4CF0192125 248  217    1 ■■■■■■■
88BaSO4   255  255  255 □□□□□□□
89CaSO4   255  255  255 □□□□□□□
90CaK2[Fe(CN)6]CF0229II2088 226  255  133 ■■■■■■■
91CaHPO4   255  255  255 □□□□□□□
92SrCrO4CF0207II2540 235  248    1 ■■■■■■■
93SrSO4   255  255  255 □□□□□□□

 NO   試料    東洋インキ  大日本インキ  コンピュータ測色値 
  R    G    B  
     第6族        
101K2Ag[Co(NO2)6]CF0180II2537 248  168    1 ■■■■■■■
102Na[Sb(OH)6]   255  255  255 □□□□□□□
103Mg[Sb(OH)6]2   255  255  255 □□□□□□□
104MgHPO4   255  255  255 □□□□□□□
105I-Hg-O-Hg-NH2CF0837307 118   33    1 ■■■■■■■

 NO   試料    東洋インキ  大日本インキ  コンピュータ測色値 
  R    G    B  
   試料原液・他      
111AgCl+Hg2Cl2
+PbCl2
   255  255  255 □□□□□□□
112AgCl+Hg2Cl2   255  255  255 □□□□□□□
113[Ag(NH3)2]+   255  255  255 □□□□□□□
114Cu2+CF0343II2152  98  209  185 ■■■■■■■
115Cu2++Pb2++Cd2+CF0342II2153 154  221  200 ■■■■■■■
116PbS+CuS+CdSCF1019582   0    0    0 ■■■■■■■
117Cu(NH3)4SO4
+Cd(NH3)4SO4
CF0440II2188 117  142  201 ■■■■■■■
118Fe3+CF0190125 252  216    1 ■■■■■■■
119Cr3+CF0937II2395   6   24   46 ■■■■■■■
120Fe3++Cr3++Al3+CF0861II2339  99  111   72 ■■■■■■■
121Fe(OH)3+Cr(OH)3
+Al(OH)3
CF0838329  86   20    5 ■■■■■■■
122CrO42-+Al(OH)3CF0209II2062 238  255   81 ■■■■■■■
123Fe(OH)3 H2SO4で溶解CF0652II2140 220  255  220 □□□□□□□
124CrO42- (ろ液)CF0209II2062 238  255   81 ■■■■■■■
125Ni2+CF0278II2122 131  235  146 ■■■■■■■
126Ni2++Zn2+CF0279II2118 163  232  159 ■■■■■■■
127NiS+ZnSCF1020582   0    0    0 ■■■■■■■
128Ca2+ (ろ液)CF0164II2532 255  167    1 ■■■■■■■
      
129第1〜6族の混合試料原液CF0638391  95   80   22  ■■■■■■■

(注意1)カラープリンタ等で表示色を印刷できるが、形は次のように正方形7個の並び で表示される。(”□□□□□□□”)また、画面上の表示色の方が印刷結果よりもより本物に近い。

(注意2) 表について  和名・英語名はいずれも、財団法人日本色彩研究所編「MANUAL of COLOR NAMES 色名事典」に基づいて表したものである。Noは、表3のNoと同じもの。色票番号は、色名事典に記載の色票番号である。該当JIS記号は、該当JIS一般色名における代表色のJIS記号である。色票番号が空欄のものは、P・C・C・S(日本色研配色体系 Practical Color Co-ordinate System)に基づいて表したものである。



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