「化学教育ジャーナル(CEJ)」第2巻第2号/採録番号2-18/受理1998年11月25日
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html
ダイヤモンドの燃焼の教材化

左巻 健男
東京大学教育学部附属高等学校

0. はじめに

 化学の授業で、「ダイヤモンドは、炭素原子だけからできていて、燃やすと全部二酸化炭素になる」という話をすることがある。これを、講議だけではなく実際にやって見せられないか、それもできるだけ簡易に。これが本稿の主なテーマである。

 まず、直径1,2ミリ程度の原石を入手した。ガストーチで、強熱後すぐに酸素ガスを吹きかけることを、何回か試みた。しかし、何の変化もおこらない。これらの経験をふまえて、今回は、ダイヤモンドを燃焼させようとした動機、パソコン通信やインターネットの理科教育MLを通しての情報交換、ダイヤモンド燃焼実験、さらに簡易化への試みについて、報告したい。

1. 研究の動機

 盛口襄さんが提案した中学校・高校の理科室で行えるレベルの「気相法」1)で、中学校3年生有志とダイヤモンドの合成にとりくんでから、ダイヤモンドに対する興味が強くなった。私も編集・執筆に参加している教科書2)では、コラムで「ダイヤモンドを燃やす」を紹介している。これを取り上げるとき、「同素体の話のところで何かないか・・・」と言うので、「ダイヤモンドを燃やす話がいいんじゃないの」と編集会議で言った記憶がある。しかし、ぼくはやったことがない。でも、授業でダイヤモンドを燃やして見せたい。昔の化学者の本を読むと、講義で燃やして見せた、などと書いてある。日頃の授業でも、ダイヤモンドを燃焼させるのを見せると、中学校でも高校化学でもインパクトがあるのではないか、そう思ったものだった。

 「ダイヤモンドは、炭素の同素体の一つで、燃焼させると全部二酸化炭素になる」という話はよくされている。しかし、実際にダイヤモンドを燃焼させて確認することは、意外となされていない。そこで、安価に入手できる工業用ダイヤモンドを用いて、中等教育レベルで、できるだけ簡易に行えるダイヤモンドの燃焼の方法を開発したいと考えた。

2. パソコン通信・インターネットによる情報入手

 以下は、パソコン通信(ニフティサーブ FCHEM「教育」、FSCI「化学」、FKYOUIKUS「理科の部屋」)とインターネットの理科教育MLを通しての情報を整理したものである。(全員から転載了解をいただいている。)

3. 文献からの情報入手

 林良重編『化学雑話』(裳華房)の「ダイヤモンドを燃やす」という項には、「酸素を送り込みながらガスバーナーで強熱してもダイヤモンドは燃え出さなかった。それに対し、黒鉛は簡単に燃えた」とある。そこで、「太い試験管にらせん状ニクロム線ではさんだダイヤモンドを入れ、酸素を送り込みながら通電してダイヤモンドを加熱したら、赤熱状態から白く輝くようになり、通電加熱を弱くしても白く輝き続け、次第に形が小さくなり、石灰水は白濁し始めた」とある。

4. ダイヤモンドの入手

 どうしたらダイヤモンドを入手できるか?私は、ダイヤモンドの業界団体の電話番号を調べた。そのつてをたどって、ダイヤモンドの業者を紹介してもらい、ダイヤモンドを入手することができた。原石は、0.05グラム程度で無色透明である。

5. ダイヤモンドは簡単には燃えない 6. ついにダイヤモンドの燃焼に成功!

 三角架のセラミックの筒2本に挟み、1650℃の炎が出るバーナーで、高温にした。白く輝くぐらいに熱してから酸素を吹きかけたら燃えはじめた。成功のポイントは、熱が逃げにくくして高温を保ってから、酸素を吹きかけると言うことのようである。次には、砂皿の上に三角架のセラミックの筒(ダイヤモンドがすっぽり入るように穴を広げた)を立て、ダイヤモンドを置き、バーナーで強熱してから、酸素ボンベからの酸素を吹きかけるという方法で行い、燃焼させた。

7. 新たな方法への挑戦

 各種情報と第6節の結果3)から、ダイヤモンドを約1000℃に保って酸素を吹きかけるとよい、ということが予測できる。そこで、試験管での塩化ナトリウム融解実験4)を思いだした。試験管に塩化ナトリウムを入れ、ガストーチで熱すると塩化ナトリウムは融解する。融点は800℃だから、もう少し温度を上げればいいわけである。試験管に入れて熱するだけで燃焼させられれば、教科書2)や第3節の文献などよりも、方法を簡易化できる。

 パイレックス製試験管にダイヤモンド原石を入れ、酸素を送り込みながら底を強熱する。ガストーチ1台の炎では不足と考え、2台の炎を当てた。燃え出したら炎は遠ざけた。白く輝きながら燃焼してなくなった。これで、燃焼させることができるということがわかった。

 次にさらに簡易化するためにガスバーナー1台とガストーチ1台で加熱し、また二酸化炭素の確認をふくめる実験を行った。ゴム栓に2つ穴をあけガラス管を通して、一方より酸素を送り込み、もう一方からの排出気体を石灰水に導いて二酸化炭素を確認するという方法である。しかし、この方法で、パイレックス製試験管はダイヤモンドが発火する前に、軟化し、底に穴が空いてしまった。連続8回とも穴が空き、ダイヤモンドを燃焼させることができなかった。たまたま最初の1回は穴が空く前にダイヤモンドが発火したに過ぎなかったのである。

 方法を再考しなくてはならなかった。熱に強い石英試験管を使い、1200℃まではかれるデジタル温度計のセンサー部分を底に差し込んで酸素雰囲気中で何℃でダイヤモンドが発火するか調べてみた。すると、800℃を少し超えたところで発火することがわかった(820℃では確実)。パイレックス製試験管ではぎりぎりでダメなのである。

 一つは、直径が5mm、長さが20cmの透明石英管の真ん中にダイヤモンドを入れ、一方より酸素を送り込み、もう一方からの排出気体を石灰水に導いて二酸化炭素を確認するという方法をとってみた。ガスバーナーの炎が最強になるように調節したら、それだけで発火した (Fig. 1)。発火したらバーナーの加熱は止める。石灰水は白濁した。石英管さえ入手できれば非常に簡単な方法である。ガスバーナーの火力が弱い場合には、ガストーチで加熱すればよい。

Fig. 1 細石英管でダイヤモンド燃焼

 もう一つ、第6節で述べた方法を改良して、二酸化炭素の確認もできるようにした。セラミックの筒にダイヤモンドを載せてガストーチで強熱してから、酸素を吹き付けて燃焼させるとき、酸素送り込みと二酸化炭素排出用のガラス管をつけたガラス筒をかぶせて燃焼を持続させる方法である。直径が18mmのガラスの筒(試験管を切断しても作製可能)にガラス管を2本通したゴム栓をつけたもの(そのガラス管には、一方より酸素を送り込み、もう一方からの排出気体を石灰水に導けるようにゴム管をつける)、セラミックの筒(三角架のものを1本使用。穴を同じセラミックのかけらで埋める。穴の上部はダイヤモンドがすっぽり入るようにスペースを空ける)、ゴム栓を用意する。ゴム栓には穴を空けてセラミックの筒1本を固定する。酸素送り込みと二酸化炭素排出用のガラス管をつけたガラス筒には、酸素ボンベから酸素を送っておき、二酸化炭素排出用のほうは、石灰水に入れておく。セラミックの筒の上部にダイヤモンドを入れ、ガストーチで強熱し (Fig. 2)、セラミックの筒の上部とダイヤモンドが真っ赤になったら、加熱をやめて、すぐにガラス筒をかぶせると燃焼が始まる (Fig. 3)。見る間に石灰水は白濁する。石英管がなくても行える方法である。

Fig. 2 セラミック筒加熱


Fig. 3 筒で燃焼

8. 最後に

 この研究をはじめる前、電子ネットはもとより、直接会った中学校・高校の理科教師にも「ダイヤモンドを燃やしたことはあるか」と聞いて回った。授業の「話」としてはよくされている内容だが、実際に自分が燃やしてみたという方はほとんどいなかった。となると、何とか燃やしてみたいと思うものだ。失敗に次ぐ失敗であった。それはそれでダイヤモンドの共有結合の強さのすごさを実感した。しかし、ついには今までの文献にある方法より簡単な方法を開発することができた。実際に行うには、原石1個が2千円程度というのが最大のネックである。さらに映像教材を作成し、ダイヤモンドの燃焼の様子を全国の生徒たちに見せてやりたい。

 本研究にあたり、96年度文部省科研費奨励研究(B)「ダイヤモンドの燃焼の教材化の研究」で補助をいただきました。

参考文献
  1. 左巻健男編著『理科おもしろ実験・ものづくり完全マニュアル』(東京書籍 1993.8)pp.142-146. 気相法によるダイヤモンドの合成法の紹介(盛口襄さん執筆「簡単なダイヤモンド合成」).
  2. 『化学の世界[IA] 』(東京書籍 H9年文部省検定済教科書)p.14「プロムナード ダイヤモンドを燃やす」
  3. 左巻健男編著『新理科の授業 情報入手・知的生産術』(民衆社 1997.7)pp.12-17, 27-28. 「知的生産のためのワープロ・パソコン活用法」にその具体例として電子ネットでのやりとりを含め、途中までの研究経過(第6節あたりまで)を時系列に沿って紹介.
  4. 左巻健男編著『たのしくわかる化学実験事典』(東京書籍 1996.3)pp. 64 - 66. 塩化ナトリウムの融解実験の紹介.

Burning Diamonds as a Classroom Project

Takeo SAMAKI
Senior High School Attached to the Faculty of Education of Tokyo University
E-MAIL:samakitakeo@nifty.com


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