ようこそ定時制の実験室へ( 本 文 )
私が定時制工業高校二校で化学を教えて19 年になります。生徒達は、昼間働いて夕方5時半頃から9時過ぎまで勉強する生活を四年間送ります。この様な生活は私自身の高校生活とはかけ離れており、戸惑いも多くありました。私の高校時代の経験はまったくと言っていいほど役に立たず、強引に行うと反発が返ってくるという状況の中、はじめの数年間は「何を、どう教えるのか」の自問続きでした。
20年前の生徒の大半は、全日制を不合格になり仕方なく定時制に来たという生徒で、その中におとなしいが、学力が不十分な生徒が数名いるという状況でした。そのような生徒達が、昼の労働で疲れ切って学校にやって来ます。予習、復習あるいは宿題という授業以外の勉強の場は期待できません。生徒や先生方との会話の中で、徐々に内容の精選、時に内容の変更を行い、授業の形を作り上げていきました。1学期は周期表と分子式の読み方、化学反応式の意味の説明。2学期は周期表にそっていろいろな物質の紹介。3学期は教科書を離れて生徒の興味のある事柄の説明( アルコール・たばこ等 )、といった具合です。化学の入り口程度の内容ですが、「 何が何だかわからない教科 」となる事だけは避けようと思いました。
上記のような生徒であり授業内容であるため、実験の内容は少しでも化学に興味をもち積極的に授業に取り組むように、化学変化を楽しむことを主眼としました。
例えばエステル( 香りの作成 )、スライム作成、炎色反応、アルカリ金属・アルカリ土類金属の性質、発光現象、ナイロン合成、ウレタン合成、ポリエチレンの性質( 熱可塑性 )などです。その他に、生徒の興味や能力に合わせて硫黄の同素体、バター・カッテージチーズ作成、ガムの分析、繊維の見分け方などもおこなっています。
このホームページでは、これらの実験のうち生徒の関心の高かったものを QuickTime 映像として紹介します。
化学発光
水素爆発
炎色反応
アルカリ金属と水との反応
ナイロン合成
金貨・銀貨・銅貨(メッキと合金)
エステル
発泡ウレタン
( 各実験項目の最後に記されている試薬の値段は、1999 年度カタログからの参考価格です。)
化学発光( ルミノール発光 )
定時制向きの実験です。夜、実験室の暗幕を引くと真っ暗になります。その暗やみの中で一滴落とした水滴が黄緑色、青色、紫色とさまざまな色を発しながら三角フラスコの中に広がり、消えていきます。実際の実験では 50 ml 程度の三角フラスコで行いますが、ここでの映像はスクリュー管( 容量 30 ml )を使用しています。
この実験は 1985 年( だったと思います )都立大学での「講義実験」に参加して刺激された実験です。その後、実験書で調べ、まとめたものですが、14 年前のことでどの実験書だったかは不明です。
溶液を一度に多量に加えると発泡が起こり、あふれ出しますので注意が必要です。
ルミノール( 1g ) 2,400 円

水素爆発
爆鳴気の実験です。大学時代、理科教育法の先生が大きめの缶で演示したことを思い出し、アンモニア水の容器を使うことを思いつきました。
この実験は毎年一学期の早い時期に演示実験で行っています。生徒はたいしたことはないと考えているのでその音の大きさに驚き、実験に興味を持つようです。半透明の容器のため、部屋を暗くすれば容器中での反応の様子が観察でき、水素と酸素の割合をいろいろと変えての反応が、目と耳で確認できます。
かつては水素ペレットを使い水素ガスを発生させて実験していましたが、最近は実験用気体として市販されている容量 620 ml のボンベを利用しています。
水素ボンベ( 620 ml ) 1,900 円
酸素ボンベ( 620 ml ) 680 円

炎色反応
いろいろな実験方法がありますが、白金線を使った一般的な方法で行っています。1クラスが10人前後ですので、各試薬を2〜3本ずつ用意してみんなで持ち回りをして実験します。生徒同士のコミュニケーションもとれます。炎に色がつくこともおもしろいのですが、この実験は試験管と白金線とガスバーナーを使い、結果をレポートに書き込むという過程を通して「化学実験をやっている」という雰囲気が出ます。

アルカリ金属と水との反応
金属が水と反応して燃え出す、たいへんドラマチックな実験です。水の上に直接落とす方法もありますが、私はビーカーにたっぷりの水で濡らした濾紙(ろし)を敷き、その上にアルカリ金属を落として観察しています。
アルカリ金属の量は、多すぎないように注意をして下さい( 米粒大、以下 )。また、ビーカーにアルカリ金属が直接つくとビーカーが割れる恐れがあります。
金属ナトリウム( 25 g ) 2,600 円
金属カリウム ( 25 g ) 8,600 円

ナイロン合成
学生時代からよく話に聞く高分子化合物の実験ですが、私が高校生の時には学校の実験では行いませんでした。教員になってからおもしろい実験を探していたときに、高分子関係の本で見つけました。
液体から固体が出来る界面重合のおもしさは生徒も感じるようです。ただ、長いナイロンが出来るようにしないと興味が無くなってしまうので、切れにくいナイロンを作るため実験書を何冊か調べ、いろいろと試してみました。溶液の温度も影響するようで、冷蔵庫で冷やした溶液を取りだしてすぐに使うと切れやすくなるようです。
この実験方法は東京書籍株式会社「化学の世界 I A」を参考にしましたが、平成 10 年発行の教科書から溶媒が変わりました。上層にヘキサン、下層に水を使っています。
アジピン酸ジクロリド ( 25 g ) 9,000 円
ヘキサメチレンジアミン( 25 g ) 2,000 円

金貨・銀貨・銅貨( メッキと合金 )
銅板の表面を亜鉛メッキし、次に加熱して銅と亜鉛の合金( 真鍮(しんちゅう))を作る実験です。この実験はいろいろな実験書に載っています。あまり興味なかったのですが、丸善「実験による化学への招待」で 1セント銅貨を利用する方法を見て、取り入れました。
生徒は大喜びで何枚も銅貨を欲しがり、表面のサビはクレンザーで一生懸命落として実験します。銅と聞いて連想するのが十円玉。生徒も十円玉でやっていいか聞いてきます。法的な規制があるのでやらないように注意する必要があります。もっとも、残念ながら十円玉には少量のスズが含まれており、1セント銅貨のようにきれいにはできません。五円玉のような光沢で、安っぽくなってしまいます。
この実験は多量の1セント銅貨を手に入れなくてはならないので( 少なくともひとりに3 〜 4枚程度 )日頃から収集を心がける必要があります。

エステル
私の気に入っている実験のひとつです。
教員になる以前、2年間食品会社に勤めていました。この時は香料は香料会社から仕入れていましたので、自分自身で合成することはありませんでした。教員になって生徒の興味を引く実験を探していたとき、勤めていたころを思い出し、香料を調べているうちに見つけだしたものです。
酪酸は、生徒の表現を借りると「うんこのにおい」「はき古したくつのにおい」だそうです。このにおいが、パイナップルやイチゴを連想するにおいに変化します。この落差が驚きとなります。
できた当初の酪酸エチルは、温度が高くかなり強くにおいます。手で軽く風を送ってにおいを嗅ぐか、細く切った濾紙にほんの少し染み込ませて嗅ぐようにして下さい。
この香料は安いガムなどに入っているようです。また、芳香剤に使用している場合もあり、生徒からは時として「…( 商品名 )の香りだ」という発言があります。
n - 酪酸( 500 g ) 2,600 円

発泡ウレタン
膨らませる実験ではカルメ焼きが有名です。縁日で実際に見られるし、何より実験後「食べられる」のは大きな魅力です。発泡ウレタンは食べられませんが、手触りを楽しむことが出来ます。また、カルメ焼きよりずっと簡単にそして失敗なくできます。
以前は実験でプラスチックや硬質のウレタンを作っていましたが、たまたま東急ハンズをぶらぶらしているとき、この「発泡ウレタンソフト」を見つけ、実験に利用しました。
主剤と硬化剤を混ぜるだけで気体が発生し、膨らみます。現在は商品名「発泡ウレタンソフトN」となりました。内容も変わり、発泡倍率があがったようです。個人的には以前の「発泡ウレタンソフト」の感触の方が好きだったのですが…。
主剤・硬化剤とも有害物質です。取り扱い時には製品安全データシートを取り寄せ、有害性及び応急処置等を確認して下さい。
反応の仕組みを問い合わせたのですが、残念ながら教えては貰えませんでした。
発泡ウレタンソフトN(1 Kg set ) 4,200 円

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