「化学教育ジャーナル(CEJ)」第5巻第1号(通巻8号)発行2001年7月28日/採録番号5-15/2001年5月9日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html
水間武彦 東京都立小平南高等学校
tmf-take@mail.hinocatv.ne.jp
(1)はじめに
私たちの住む地球は、その表面の約70%が水でおおわれている。広い宇宙空間の中で地球のみが表面に満々たる水や海水を保持している。地球上に水という物質は多くあるが、河川水はそのうちの0.0001%に過ぎないといわれている。この河川水は生物体が存在していく上で必要不可欠なものであり、今日のわれわれの生活そのものは河川水の恩恵の上に成り立つものである。水道の蛇口をひねるとあたりまえのように水が出てくるが、多くはこの河川の水を浄水場へ引き各家庭に分配したものである。もともと自然界の水は自浄作用を受けている。例えば、河川に汚染として少量の分解可能な有機物が混入したとしても、河川に生息する微生物の働きにより分解され、もとのきれいな状態に回復する。しかし、河川流域の都市開発により住宅や工場が建ち並び浄化されないままの汚水が河川の自浄能力を上回る量で投棄されるようになると、河川の汚染が目につくようになった。身近な河川を観察したときにほぼ間違いなく「汚染」という現実がそこに存在し、最近では世間でも頻繁に取り上げられるようになった。「人間活動」と「環境」という観点に立てば、「人間活動」の代償として「環境」の汚染があり両者のバランスが崩れている状態である。河川にどのような汚染があるかを把握し汚染源が何であるかを考察することは環境学習への取り組みの第一歩であると考えられる。
一般的に河川の汚染物質を定量する方法として、汚染の度合いを示す指標の一つであるCODについては、測定方法が簡便なパックテストという市販キットが用意されており比較的取り組みやすい。これはアルカリ水溶液中における過マンガン酸カリウムの酸化力を利用した測定法である。その他にパックテストによる水質調査ができる項目としては硝酸や亜硝酸、リン酸等の濃度を定量することも可能である。
生徒は具体的な体験活動・実験として身近な河川の水を採取し前記の手法により水質検査を行うことができる。その結果を通して学習展開ができ、問題解決への見通しを持つことが可能である。これらの水質検査を実施することにより、汚染を実感し汚染をなくす方法を学ぶことができるものと思われる。
(2)指導計画 (指導計画.PDF 28 KB)
本研究は、現行学習指導要領での化学氓`における単元「(1)自然界の物質とその変化」を指導することを目的として行った。下記の指導計画は、2単位で実践する場合の一例であり、3週(6時間)にわたり展開したものである。
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指導項目・内容 |
学習活動 |
留意点 |
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「環境問題における水質検査」 |
・地球上の水の分布や人間の利用する水について理解し、汚染の実態について考える。 |
・具体的な数字を出し理解を深める。 |
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・試料の提供場所である「川 |
・測定場所の雰囲気をつか |
・パックテストを用意し実物を見せる。 |
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まとめ |
・次回実験「河川の水の採取」について予告する。 |
・採取方法を学び汚染源になりうるものについても考える。 |
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「実験:河川の水の採取」 |
・川口川を試料提供地点として選んだ理由を理解し、試料採取する上での注意点を学ぶ。 |
・緊急時の連絡方法の確認 |
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・各班と連絡をとりながら、一つの班に付き添い、試料採取の方法や測定地点の印象を確認し適切なアドバイスを行う。 |
・各班ごとに測定地点へ向かい、河川水を採取しpH・COD・亜硝酸・水温・流速等を測定し試料を持ち帰る。 |
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・五感を使った汚染状況や生き物の有無を確認しながらどの測定地点の汚染が大きいかを把握させる。 |
・採取後、実験室へ集合し黒板へ測定結果を班毎に板書し、水温や流速・五感を使った汚染度の確認結果について情報交換する。 |
・後で結果をプリントにまとめる。 |
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「実験:採取した河川水の水質検査」 |
・パックテストによる水質検査の概略を学び、メリットやデメリットを把握する。 |
・判定するまでの時間を項目毎にそろえる。 |
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・8地点の試料についてpH・アンモニア・亜硝酸・COD・リン酸をパックテスト法により水質検査する。 |
・採水地点ごとに測定項目にしたがって試料の測定を行う。 |
・判定時間がそろうよう机間巡回を行う。 |
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・水が源流から下流部分へ流 |
・採水地点ごとに、各測定項目データを黒板に列記し、汚染の実態を認識した上で汚染源に関してディスカッションを行う。 |
・後で結果をプリントにまとめる。 |
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「実験:河川の自浄作用に関して」 |
・前回実験結果をもう一度見直し、汚染の進行の度合いと汚染源となる人間活動について考え、相関関係を探る。 |
・測定データを用意する。 |
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・河川に存在する活性汚泥について実物を観察させて、どのような環境の時に有効に働くかを考える。 |
・活性汚泥はどのようにし |
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まとめ |
・窒素に着目したサイクルについて解説する。 |
・酸化還元反応が関わっていることを説明する。 |
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「河川の水質を汚染させるものは何か」 |
・ヒトに関わる水のデータをまとめる。 |
・資料を用意する。 |
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・資料を参考に河川の水質が汚染されてしまったらどのようにして回復させることができるのかを考える。 |
・与えられた資料をもとに |
・自由な発想を引き出す。 |
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・河川を汚染させない為に守 |
・今すぐできることについ |
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(3)授業実践と教材
(4)結果と考察 (実験結果.PDF 16 KB)
以上の見地から、今回の水質調査における測定項目をpH・亜硝酸・アンモニア・COD・リン酸に絞り都立A高等学校並びに都立B高等学校において水質検査を行った。測定結果は以下のようになった。なお、都立A高等学校では実験時間の関係でアンモニアとリン酸の測定項目は実施しなかった。
実験結果1 採水日2000.10.30(月)都立A高校3年生/検査日2000.10.31(火)都立B高校1年生
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(上流部) ← 川口川 → (下流部) |
浅川 |
都立B高校実験室 |
|||||||
今熊神社 |
牛頭橋 |
釜の沢橋 |
駒形橋 |
明治橋 |
新清水橋 |
川口川橋 |
浅川橋 |
水槽(魚) |
水道水 |
|
COD mgO/L |
3 |
0 |
0 |
10 |
5 |
5 |
3 |
0 |
10 |
2 |
COD-D mgO/L |
0.1 |
0 |
2 |
2 |
2 |
2 |
6 |
3 |
8以上 |
2 |
pH |
7.0 |
7.0 |
7.0 |
6.9 |
6.6 |
6.9 |
7.6 |
7.3 |
9.2 |
7.5 |
NO2 mgNO2-/L |
0.02 |
0.02 |
0.02 |
0.2 |
0.15 |
0.2 |
0.2 |
0.1 |
0.05 |
0.01 |
NO2-N mgNO2--N/L |
0.006 |
0.006 |
0.006 |
0.06 |
0.045 |
0.06 |
0.06 |
0.03 |
0.015 |
0.003 |
NH4 mgNH4+/L |
0.1 |
0 |
0 |
0.2 |
1 |
0.2 |
0.5 |
0.1 |
0.1 |
0 |
NH4-N mgNH4+-N/L |
0.08 |
0 |
0 |
0.16 |
0.8 |
0.16 |
0.4 |
0.06 |
0.08 |
0 |
PO4 mgPO43-/L |
0 |
0 |
0 |
0.2 |
1 |
0.2 |
0.5 |
0.2 |
10 |
0 |
P mgP/L |
0 |
0 |
0 |
0.066 |
0.33 |
0.066 |
0.165 |
0.066 |
3.3 |
0 |
|
(上流部) ← 川口川 → (下流部) |
浅川 |
||||||
今熊神社 |
牛頭橋 |
釜の沢橋 |
駒形橋 |
明治橋 |
新清水橋 |
川口川橋 |
浅川橋 |
|
採水時刻 |
9:15 |
9:30 |
9:45 |
9:20 |
9:00 |
9:30 |
9:25 |
9:30 |
水温 ℃ |
15.0 |
15.2 |
15.0 |
15.0 |
14.0 |
16.0 |
16.0 |
16.2 |
COD mgO/L |
5 |
5 |
0 |
5 |
10 |
50 |
75 |
75 |
COD-D mgO/L |
2 |
3 |
2 |
4 |
8以上 |
8以上 |
8以上 |
8以上 |
pH |
7.0 |
8.0 |
8.0 |
7.5 |
8.5 |
7.0 |
8.5 |
7.5 |
NO2 mgNO2-/L |
0.05 |
0.05 |
0.075 |
0.35 |
0.2 |
0.5 |
0.2 |
0.2 |
NO2-N mgNO2--N/L |
0.015 |
0.015 |
0.018 |
0.11 |
0.06 |
0.15 |
0.06 |
0.06 |
(5) 簡易COD測定法の取り組み
市販されているパックテストのキットを毎回使用するにはかなりコストがかかることから、材料も入手しやすくさらに精度も十分対応できるものを検討した。
ここでは、すでに実践されている実験方法があったのでそれを参考にして、都立C高校で実験を行った。
実験に必要な試薬等は以下の通りである。
薬品
ブドウ糖標準溶液(0,10,20,50,100,200mg/l)比色用に使用する。写真を撮る。
1.6g/l 過マンガン酸カリウム水溶液
6mol/l 水酸化ナトリウム水溶液
計測する試料
器具
試験管、試験管立て、三角フラスコ、点眼びん
操作
(6)おわりに
本研究において、生徒は授業・実験を通して、身近に流れる河川水の水質を検査することにより水質汚濁の実態を知り周囲の自然環境にも興味・関心を持つことができた。人類を含めた生物が活動をすれば必ず汚染物質が発生し周囲の環境を汚染してしまうという現実も知らせることができた。本稿の「(1)はじめに」でも触れた河川や湖沼が本来持つ汚染に対する自浄作用は、実験室においても再現することができ浄化作用を目の当たりに見たので生徒のほうも満足できたようである。
しかしながら、実際に流れる河川に実験で検証した浄化システムをフィードバックするまでには至らなかった。この点に関しては、この研究が学習指導要領「理科総合B」の「(4)人間の活動と地球環境の変化」の部分で取扱うこともできるので、さらに研究を継続していきたい。そして、定期的なサンプリングと水質検査を実施していくとともに河川水を浄化するシステム作りを模索していくことも必要である。
おわりに、人類がこの地球上で生きていくために自分自身の回りの環境と協調・共存していく必要があり、その方法や具体的な方策にかかわる問題解決能力を育てるような授業を実践していきたい。
(7) 参考文献