「化学教育ジャーナル(CEJ)」第5巻第1号(通巻8号)発行2001年7月28日/採録番号5-13/2001年5月 16日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


ティーム・ティーチングを生かした
少人数集団による理科指導と化学実験の実践



杉山美次 横浜市立港商業高等学校
CYL05532@nifty.ne.jp

1 研究のテーマと設定の理由

   研究テーマ
      ティーム・ティーチングを生かした
       少人数集団による理科指導と化学実験の実践

   研究テーマ設定の理由
    私が勤務する横浜市立港商業高等学校は、商業科目を系統的に学習し、商業の専
   門性を深めることを目的とした生徒が集まった学校であり、普通科目の学習時間は
   少なくなってなっている。このため、理科の学習時間も少ない。また、本校に入学
   する生徒の特徴として、理科に対して苦手意識を持った生徒が比較的多い。このよ
   うな状況の中で、ティーム・ティチーングによる指導法の工夫と、学習集団を少人
   数に編成してきめ細かい指導を個々の生徒に行うことによって、化学実験への積極
   的な参加を援助し、日常生活と関わる事物や現象への関心を引き出すことを目標と
   した。

2 研究の方法と内容

  1. ティーム・ティチングを取り入れた指導法の工夫として、少人数での指導と実習教諭と協力・連携を行うことによって、生徒一人ひとりの質問や疑問に応ずるとともに興味・関心を引き出す。
    * グループの編成の仕方(港商業高校3年生、6クラス:1クラス40名)
    2クラスを3グループに分けて、1グループを26名程度の少人数にして、3人の教師が、それぞれ物理分野、化学分野、地学分野の内容を指導した。今回の報告は、杉山が担当した化学分野。
  2. 実験を取り入れた授業展開方法の工夫
    生徒自ら、体を動かす実験を通して、理科(化学)の面白さを体験させるとともに、日常生活に役立つ知識や考え方を身に付けさせる。
  3. 生徒に興味・関心をおこさせる実験の開発

3 研究結果の概略

  1. ティーム・ティチングを取り入れた指導法の工夫として、少人数の指導と実習教員との協力・連携
     化学実験を中心とした授業において、以下の成果があった。
      (1) 実験内容についての、個々の質問や疑問に、きめ細かく応ずることができ
        た。また、そのことによって、学習内容に対しての興味・関心を深められた。
      (2) 実験操作の質問や援助に素早く対応できた。特に、ガラスづくりでガスバ
        ーナーの火力を最大限にするときは、全部の班に対しての援助が必要となる
        が、このとき2人の指導者がいることが大変有効であった。
      (3) 学校を休んだり、授業中の学習意欲に欠けることが目立った生徒に対して、
        実験への参加意欲を持たすことができた。
  2. 実験を取り入れた授業展開方法の工夫
     次の(1)〜(3)の教材の実験において、授業展開の仕方の改良・工夫を行った。この結果、実験内容に興味を示すとともに、あぶり出しの原理や、染め方や繊維の種類などについて理解させることができた。









     

     単    元 :「色と光の化学」
      項     :「 紙に色をつける」、「布に色をつける」
     実験教材   :(1)あぶり出し  、(2)透かし染め

     単    元 :「染料の化学」、
      項     :「植物染料」
     実験教材   :(3)多繊交織布を用いた、
                タマネギの皮による草木染め
     









     
  3. 生徒に興味・関心をおこさせる実験の開発。
     次の(1)、(2)の教材の実験の開発を行い、ほとんどの生徒に、興味・関心を持たすことができた。





     

     単    元 :「色と光の化学」、
      項     :「花火の仕組み」、 「光の種類」
     実験教材   :(1)超簡単インス  (2)ダイコンを使っ
              タント線香花火   たルミノール発光
     





     

    *全体の指導計画は、次の資料を参照してください。
    独自のカリキュラムでおこなっています。
      3年化学 IA 指導計画  (指導計画.PDF 16 KB)


        単元

       項

        実 験 教 材


      色と光の化学

          (13時間)















     

    (1)色をつける
    紙に色をつける


    ・あぶり出し

    布に色をつける

    ・透かし染め

    ガラスに
       色をつける

    ・色ガラスづくり
     

    結晶に色をつける

    ・尿素の華

    (2)光をつくる
    光の種類
    ・蛍光、リン光、
         化学発光


    ・ルミノールの化学発光
    ・ダイコンを使った
      ルミノールの化学発光

    色のついた炎
     ・炎色反応

    ・炎色反応ろうそく
     

    花火の仕組み
     

    ・超簡単インスタント線香花火
    ・本格的な線香花火



      染料の化学

          (8時間)







     

    (1)物資の色
     

    ・プリズムを使って虹をつくる
      (演示)

    (2)色素

    ・インキをつくる

    (3)天然染料
    ・植物染料
    ・動物染料

    ・多繊交織布を用いた、タマネギの 皮による草木染め
     

    (4)合成染料

    ・インジゴの合成と藍染め

    (5)食品に使用される
      合成着色剤

    ・アゾ染料の合成
     


      水と水溶液の性質
       
          (5時間)


     

    (1)水の三態変化
     

    ・水の過冷却
    ・ヒヤロンをつくる

    (2)水溶液のpH

    ・雨のpHを測定する

    (3)コロイド溶液の
           性質

    ・豆腐づくり
     


     もの作り

           (4時間)

     

    (1)鏡

    (2)合金

    (3)セピア写真
     

    ・鏡をつくる

    ・青銅鏡をつくる

    ・セピア写真をつくる
     

4 研究内容

  1. 少人数集団の指導と実習教員との協力・連携
    1. 方法
      1. 少人数グループの編成
         横浜市立港商業高等学校の3年は、6クラス(1クラス40名)である。1組と2組、3組と4組、5組と6組の、それぞれの2クラスを出席番号順に3グループに分けて、1グループを27名程度の少人数にした。下の表のように、各クラスの出席番号の1番から13、14番までをAグループ、次の14、15番から26、27番までをBグループ、27、28番から40番までをCグループとする。3人の理科の教師が、A、B、Cグループを分担して受け持ち、それぞれ物理分野、化学分野、地学分野の内容を指導した。
         * 学期ごとに、A、B、Cの3つのグループの指導する内容と担当する教師がローテーションするので、1年間で生徒は全員、物理分野、化学分野、地学分野を学習することになる。
        ** 今回の報告は、杉山が担当した化学分野を中心に行う。

                各グループの学期ごとの学習内容


















         
              1 学期 2学期 3学期


         A

         
        1組 (No. 1〜No. 13)
        2組 (No. 1〜No. 14) 27人
        授業内容
        担 当
        物 理
          泉水
         地 学
          藍葉
        化 学
          杉山
        3組 (No. 1〜No. 13)
        4組 (No. 1〜No. 14) 27人
        授業内容担 当 物 理
         泉水
         地 学
          藍葉
        化 学
          杉山
        5組 (No. 1〜No. 13)
        6組 (No. 1〜No. 14) 27人
        授業内容
        担 当
        物 理
         泉水
         地 学
          藍葉
        化 学
          杉山





         
        1組 (No. 14〜No. 26)
        2組 (No. 15〜No. 27) 26人
        授業内容
        担 当
        地 学
          藍葉
        化 学
          杉山
        物 理
          泉水
        3組 (No. 14〜No. 26)
        4組 (No. 15〜No. 27) 26人
        授業内容
        担 当
        地 学
          藍葉
        化 学
          杉山
        物 理
          泉水
        5組 (No. 14〜No. 26)
        6組 (No. 15〜No. 27) 26人
        授業内容
        担 当
        地 学
          藍葉
        化 学
          杉山
        物 理
          泉水





         
        1組 (No. 27〜No. 40)
        2組 (No. 28〜No. 40) 27人
        授業内容
        担 当
        化 学
          杉山
        物 理
          泉水
        地 学
          藍葉
        3組 (No. 27〜No. 40)
        4組 (No. 28〜No. 40) 27人
        授業内容
        担 当
        化 学
          杉山
        物 理
          泉水
        地 学
          藍葉
        5組 (No. 27〜No. 40)
        6組 (No. 28〜No. 40) 27人
        授業内容
        担 当
        化 学
          杉山
        物 理
          泉水
        地 学
          藍葉

      2. 実習教員との協力・連携
         化学実験の生徒実験において、実習教員とのティーム・ティーチングをおこない、より個人の質問や疑問に応ずるとともに興味・関心を引き出すことをねらった。また、学校を休みがちだったり、授業中の学習意欲に欠けることが目立つ生徒に特に気をつけて働きかけをして、実験への参加意欲を持たせることに努めた。
    2. 結果
      1. 1グループ26〜27人と少人数なので、1つの実験の班は2人または3人にすることができ、実験準備や実験操作などに、班の全員がかかわることになり、見ているだけの生徒はいなくなった。
      2. 少人数と指導者が2人いることにより、実験内容についての、個々の質問や疑問にきめ細かく応ずることができた。
      3. ガスバーナーの火力を最大限にするような難しい実験操作の援助や、突沸をおこしたとき、事後処理に素早く対応できた。
      4. 学校を休みがちだったり、授業中の学習意欲に欠けることが目立つ生徒については、まず授業の欠課がほとんどなくなった。また、実験にも自らすすんで参加するようになった。(生徒のアンケート結果参照)

        生徒(Aグループ)のアンケート結果
             (平成13年2月6日実施、総合理科(化学)期末試験より)

      総合理科の授業について、どう思いますか。自由に答えてください。
      (i)、実験中心の授業について、どう思いますか。
      (ii)、実験のときは、斉藤先生と2人で授業をおこなっています。このことについ
        てどう思いますか。また、よかったことは、どんなことでしたか。

       
              ◆2学期の理科の欠課の多い生徒の回答をすべて載せました。

      A さん:
      1. 化学は3学期だけだったから、授業数が少なかったが、全部楽しく実験でき、たいくつしなかった。
      2. ちょっと実験のことで聞きたいことがある時とかに、そばに先生がいてくれるとすごく安心する。
      Bさん:
      1. 実験は楽しいものばかりでよかった。
      2. 斉藤先生が教えてくれたこともあったし、2人でいいと思う。
      Cさん:
      1. 実験はとても楽しかったです。聞くだけの授業だと頭に入りにくいが、自分で実験をすることによって頭に入り、わかりやすく学べました。いろいろな薬品を使い、ガラスを作ったり、染め物をしたりと、とても楽しく授業に取り組めました。
      2. 3学期は授業日数が少なかったぶん、説明を聞いて、すぐ実験に入ったのでわからないところもあったが、先生が2人いたので、1人の先生が忙しいときは、もう1人の先生に聞いたりして、スムーズに実験が進んだと思います。
      Dさん:
      1. 実験中心で楽しかったけど、実験の説明がはやくて、結局1つ1つの実験をくわしく理解できないです。
      2. 斉藤先生にもいろいろと実験のアドバイスをもらったので、先生が2人いると得があるなと思った。
      Eさん:
      1. 実験の方が頭に残るから良かった。授業だと1人でやんなきゃいけないけど、実験はみんなでやれるからいい。
      2. 実験の時は、分からないことや手伝ってもらうことが多いので、先生が2人いると早い。それに火を使ったり薬品を使うので先生が2人いた方が安全だと思います。
      Fさん:8/29(2学期欠課時数) → 0/10(3学期欠課時数)
      1. おもしろかったです。時間があっという間に過ぎました。ただ、説明が実験の後だったりして、たまにややっこしかったです。
      2. 一人で目のとどかないところがあると思うので良いと思います。気づくとどちらかの先生がいるので、私たちも安心して実験ができます。
      Gさん:14/29(2学期欠課時数)→ 3/10(3学期欠課時数)
      1. 1時間の間で、実験と説明をやらなければいけないために、理解できないところがある。私の理想では、まず1時間使って実験の説明などをし、実験をした次の授業で理解したかどうかの小テストをやった方が良いと思われる。その方が身につくし、勉強は学校だけで済ませたいと思うので。
      2. 斉藤先生がいたことによって、うちの班はスムーズに実験を行うことができた。 後ろにいたので、少しでも何かわからないことがあったらすぐに気安く質問がきるし、また詳しい話も聞かせてもらえるので、安心して実験することができてとても良かった。
      Hさん:
      1. 今までの理科授業は寝れたのに、毎回実験で寝れなくて残念でした。毎回の準備・片づけはちょっと嫌だったけど、実験はそれなりにおもしろかったから、まあ良かった・・・・のかな。実験とか化学は本当に嫌いってゆうか、わからないから本当ダメ。テストもそうだけど全くわかりません。
      2. やっぱり先生は2人いた方がいい。うちの班は2人でわかんないことあったら、うしろの先生に聞いたし、実験のときのあの紙が燃え火がすごいときとかは、私怖くてその先生にやってもらったし、1人だったら1班につきっきりなんてできないじゃないですか。だから2人がいいんじゃないんですか。
      Iさん:
      1. 初めての実験ばかりだつたからおもしろかった。発光の実験が、すごく感動した。私たちは授業数が少なくて、時間がなかったから、ちょと速かったけど(授業の進め方)、もう少し余裕をもってやればほんとうに楽しい授業なると思う。ガラスを作ったり、あぶり出しをしたり、あまり実験が好きでない私も楽しくできた。
      2. 化学の授業は実験が多いから、先生が2人いた方がスムーズにできるし、いいと思う。杉山先生が説明しているときに、斉藤先生が薬品の準備をしたから、時間がかからなくいいし、そのぶん実験を楽しむことができる。2人の先生がいた方がやりやすくていいと思う。
      Jさん:
      1. 実験たのしかったから、いいと思う。普通に授業するよりも、頭に入りやすくて、よかったとおもう。自分はあぶりだしが楽しかった。
      2. よかったと思う。斉藤先生が、いなかったら、スムーズに実験できなかったと思う。(ビーカーとか出してくれたし)
      Kさん:
      1. 実験がすごく楽しかったので、授業を受ける気になりました。 実は、化学の授業イヤになりそうと思ったけど、2回目くらいのはじめての実験からすごく楽しくて、理科が楽しみでした。ノートばっかりで書いて説明されるよりも、実験の方が楽しいし、方法もよく覚えている。でも、器具とかの名前をしっかりと覚えていないので、レポート提出という形にした方がよかったかも。その方が、しっかりと頭の中でも、手でも(書くこと)復習できるから。
      2. 先生が2人いると、何かあった時にも先生がすぐきてくれたし、準備も後ろと前で2人の先生に分かれてできたので、すばやく正確できて良かったと思います。

    3. 考察
       生徒のアンケートが期末試験の中でおこない、無記名でないとの問題があるが、2学期、休みがちだった生徒の授業へ欠課時数の激減からだけをみても、今回の取り組みの効果はあったと思われる。今後の課題として、実習教員との協力・連携をより一層深めるとともに、実験のおもしろさを教えるだけでなく、日常生活に役立つ知識や考え方をどのようにして身につけさせるかの研究が必要と思われる。

    授業風景の写真

  2. 実験を取り入れた授業展開方法の研究
    1. はじめに
      生徒の大多数が、「理科は難しく、つまらない」という先入観を持っている。生徒みずから、体を動かす実験を通して、理科(化学)のおもしろさ、不思議さを体験させて、まず、かたくなに持っている「理科にたいする先入観」をうち破りたいと思った。続いて、単に面白いだけでなく、日常生活に役立つ知識や考え方がすこしでも身につくような、授業展開の工夫を考えた。




       

       単    元 :「色と光の化学」
        項      :「 紙に色をつける」
       実験教材   :あぶり出し

       
                
                
                

       
      1. あぶりだし
        ・授業展開の仕方の改良・工夫
        1. みかんなどの汁(酸)であぶり出しができることは、よく知られている。まず、導入として、身近なあぶり出しの経験を思い出させた。
        2. 酸として、希硫酸を用いた。これは、濃度を簡単に調整でき、あぶったときに鮮明な黒色を出すことができるからである。
        3. あぶるとき、ガスバーナの火を用いた。これによって、ガスバーナの火のつけ方の指導を兼ねるとともに、化学実験の時の事故に対する注意と、そのときの処置の仕方を教えることができる。
             例1:緊急時のガスバーナの火の消し方。
             例2:あぶっているとき、紙に火がついたとき、どのようにして火を消すか。
        4. あぶる動作は、実験操作を機敏におこう練習としても有効であった。
        5. 塩化コバルト六水和物の水溶液を用いると、水色の文字があぶりだされる。あぶり出しに、黒以外の色もあることを知るとともに、他の色もないかと興味を持たせた。
        6. あぶりだしの優秀(面白い)な作品を廊下に掲示することによって、描いた生徒の達成感を引き出すとともに、他の生徒や、授業を受けていない生徒にも関心を持たすことができた。
        7. あぶり出しの実験の授業を、透かし染めの原理につなげた。(透かし染めも木綿を、希硫酸で脱水して焦がしている)







         

         単    元 :「色と光の化学」
          項      :「布に色をつける」
         実験教材   :透かし染め



         
                  
         
                   
                   
                   
         
      2. 透かし染め
        ・授業展開の仕方の改良・工夫
         透かし染めは、木綿とポリエステルでできた混紡の布に、硫酸をごく少量混ぜた糊 (オパール加工糊)で布に模様を描き、上からアイロンをかけると、硫酸の働きで 木綿だけが焦げる。布をもみ洗いすると、木綿が除かれて透かし模様ができる。
        1. あぶり出しのときの硫酸と同じ働きで透かし模様ができるので、関連して硫酸の働きを理解させるため、あぶり出しの説明の授業のすぐあとに、透かし染めの実験をおこなった。
        2. 絵の不得意の生徒のために、ステンシル用のカットの絵を印刷して配布した。
        3. 糊がにじんで、はじめから上手く描けないので、布を各生徒に2枚ずつ渡し、1枚は練習用とした。
        4. 染め方の工夫で、2色や3色染めができたり、染めた色が混ざると別の色になることに気づかせ、染色のおもしろさを体験させた。
        5. 小さな額などに入れれば一層見栄えがよくなり、飾り物になることを知らせて、生徒の作品づくりの意欲を高めた。
        6. あぶりだしの作品と同様に、優秀な作品を廊下に掲示した。優秀な作品を選ぶ方法として、生徒の無記名の投票できめた。これによって、生徒の作品づくりへの盛り上がりを作れた。






         

         単    元 :「染料の化学」、
          項      :「植物染料」
         実験教材    :多繊交織布を用いた、
                    タマネギの皮による草木染め

         
            




         
      3. 多繊交織布を用いた、タマネギの皮による草木染め
        ・授業展開の仕方の改良・工夫
        1. 媒染剤として、食酢、木灰汁、ミョウバン、塩化スズ、硫酸鉄、硫酸銅などを用いて、媒染剤による染色の違いを調べた。
        2. 媒染剤が同じでも、各繊維の布によって、微妙に染まり方が違うことを調べ、布の種類によって染まりやすさに違いがあることを、実験結果のサンプルの表から気づかせた。
        3. 応用として、各自が用意した未知の白い布と多繊交織布を同時に、繊維鑑別試薬(日本紡績検査協会:Bokenstain)に浸して、染まった多繊交織布と比較して、未知の布の種類を染まった色で見分けさせた。

        実験結果のサンプル表
        <媒染剤と染色例>  *タマネギの外皮による染色の場合
           媒染剤
        繊 維
        な し
         
        食 酢
         
        木灰汁
         
        ミョウ
        バン
        塩化スズ
         
        硫酸鉄
         
        硫酸銅
         
         綿              
         ナイロン              
         ビニロン              
         アセテート              
         羊 毛              
         レーヨン              
         アクリル              
         絹              
        ポリエステル              

        染色例の写真


    実験を取り入れた授業への生徒の感想

    1. たくさんの実験ができてよかったです。何か化学って神秘的ですよね。今までムズかしいから手をつけなかったというところがあったんだけど、先生になってから、授業が楽しくなりました。遅刻ばっかりしてごめんなさい。ありがとうございました。
    2. 3学期の化学の授業は本当に短かったけど、楽しい実験ばかりで、話の多い他の授業より充実感があったし、時間が早く過ぎていきました。化学はあまり好きではないけど、実験は好きです。もっといっぱい実験をやりたかったです。
    3. 化学は3学期だけなので、理科の中で一番短い授業だったけど、実験が楽しくて、化学か一番心に残っています。化学式とか、たくさんあって難しいものなのだろうけど、実験を沢山やったので、楽しくできました。もっと長く、授業を受けたかったです。
    4. 3学期になって、化学の授業を受けることになったのですが、休みがちになっていた私でしたが、ほとんどの実験に参加することができました。たのしかったのは、染料の実験です。かんたんだし、よかった。ただ楽しいかっただけでなく、プリントなどで、どうしてこのような結果になるのかとかも分かった。もっとたくさん授業があったらなあと終わって残念に思います。実験は本当に楽しく、みずからすすんでやっていき、よかったです。
    5. 実験は大好きなので、化学の授業はめちゃくちゃ楽しかったです。ただ、花火を作りたかった。それだけが心残りです。でも楽しかった。もっと長い時間やりたかったです。先生に感謝、カンゲキ、雨、嵐 です。
    6. 物理、地学、化学とやってきて、化学が一番授業日数が少なく、ちょっと残念に思います。ガラスをつくつたり、あぶりだしの絵を描いたりと、中学校の理科より全然楽しかったからです。社会に出たら理科というものを勉強することは、もうないので、本当に貴重な体験をありがとうございました。
    7. 1年間もやっていないけど、最後が実験で本当に楽しくできてうれしかったです。理科とかは、いつもやる気がなくて、あんまり授業に出なかったんですけど、実験はとても楽しみで、遅刻はしたんですけど、本当に楽しかったです。ありがとうございました。

  3. 実験の開発
    1. はじめに
        理科や実験に苦手意識を持つ本校の生徒に、本物の物質と直接触れさせ、しかも簡単で興味を持たすことのできる実験の開発をめざした。




       

       単    元 :「色と光の化学」、
        項      :「花火の仕組み」
       実験教材   :超簡単インスタント線香花火

       
               



       
      1. 超簡単インスタント線香花火
        ・開発の動機
         線香花火は安全な花火でよく知られている。生徒たちは、よく遊んでいる花火を自分で作るということに、大変強い興味と関心をみせた。今回、誰れにで失敗なく簡単に作れる花火をめざした。そして、鉄やアルミニウムなど様々な材料を使って、より魅力的になるようにしたいと思った。
        ・開発の方法
         すでに紹介されている線香花火のつくり方の文献を参考に、改良や工夫の研究をおこなった。
        ・結果
        1. アクリルの毛糸に直接、鉄粉とアルミニウムの粉をすり込むことで、たった3 分間で、安全で華やかな線香花火がつくれた。
        2. アクリルの毛糸にスティクのりをつけると、毛糸に付きにくいマグネシウムの粉も毛糸につけることができ、マグネシウムが燃えてパチパチと白い閃光生じる線香花火がつくれた。
        3. 鉄粉の変わりに、還元鉄の粉を用いると、しなやかな火花になった。
        ・生徒の反応
         線香花火が自作できて、手軽に楽しめることに、ほとんどの生徒が満足していた。
        ・課題
         火花の生じる原理などを理解させる授業展開を研究する。

        ・実験プリント  (インスタント線香花火.PDF 16 KB)


          3年化学実験
           インスタント線香花火をつくろう
         
            たった3分間で、安全で華やかな線香花火がつくれる。    
        目的 インスタント線香花火は安全で、子供から大人まで楽しめます。鉄やアルミ
           ニウム、マグネシウムの粉の華やかな火花が飛び散り、大変魅力的です。簡
           単で、手軽に作れる花火を自分で作って楽しもう。
        準備  鉄粉、還元鉄、アルミニウムの粉末、マグネシウムの粉末、アクリルの毛
          糸、硝酸ストロンチウム、スティクのり、ポリ袋(13.5cm×8.5cm)、薬さじ、
          ガラス棒、ピンセット、チャッカマン、バケツ、ビーカー





          実験1 超簡単、インスタント線香花火
        1.  アクリルの毛糸を30cmの長さに切る。
        2.  紙コップに、(a)鉄粉、薬さじ4杯とアルミニウムの粉末、薬さじ1杯を入
         れ、1の毛糸を紙コップに入れ、毛糸に金属の粉がつくように紙コップを振る。
        3. 毛糸の端をビンセットでつまんで取り出し、真っすぐに伸ばして、水を入れた
         バケツの上で、金属の粉が均等につくように余分の金属の粉をふるい落としてか
         ら点火する。
        4. 操作2において、鉄粉の代わりに(b)還元鉄を用いて、後は、(a)の場合と同様
         な操作をおこなう。
        (注意)安全のため、ピンセットは、30cm程度の長いものを使う。または、割箸を
           使う。
          実験2 白い閃光がでるインスタント線香花火
        5. アクリルの毛糸を30cmの長さに切り、紙の上に置いてスティクのりを半分程度
         の長さにまでにつける。このとき、のりをつけすぎない。
        6. 操作2において、(c)鉄粉、薬さじ、4杯とアルミニウムの粉末、薬さじ1杯とマグ
         ネシウムの粉末、薬さじ2杯を入れて、後は(a)の場合と同じ操作をおこなう
        7. 操作7において、鉄粉の代わりに(d)還元鉄を用いて、後は、(c)の場合と同様
         な操作をおこなう。
          実験3 赤い炎のインスタント線香花火
        8. 200mlビーカーに硝酸ストロンチウムの飽和水溶液100mlを作る。
        9. アクリルの毛糸ほ30cmの長さに切ったものを10本程度作り、9のビーカーに
           浸す。このとき、毛糸についている空気をガラス棒で突っついて追い出し、毛糸
         をよく湿らす。
        10. 次に、十分に湿らせた毛糸を軽く手で絞ってから、紙の上に1本ずつ並べ、セ
           ロテープで3カ所ほど止める。
        11. 一昼夜放置して乾燥させた後、実験1、実験2と同様な操作を行う。
         
         
        参考文献 実験3は、埼玉県立飯能南高校 藤田 勲氏の資料を参考にした。
         





         

         単    元 :「色と光の化学」、
          項      :「光の種類」
         実験教材   :ダイコンを使ったルミノール発光

         
               



         
      2. ダイコンを使ったルミノールの化学発光
        ・開発の動機
         ルミノールの化学発光を起こす触媒にペルオキシターゼがある。非常によく作用するが、1g1万円以上と高額なのが難点であった。ある文献に、野菜の中にペルオキシターゼが含まれているとの記載があり、ジャガイモとダイコンで調べたところ、ダイコンでみごとに発光した。
        ・開発の方法
         ジャガイモやダイコンを1cm角に切ってシヤーレの中いれ、その中にルミノール液(ルミノール少量+5%炭酸ナトリウム水溶液3ml+過酸化水素水1ml)を振りかける。
        ・結果
         新鮮なダイコンを使用したとき、みごとに発光した。
         ジャガイモでは、発光はみられなかった。
        ・生徒の反応
         ダイコンが発光するという以外性に、驚きの声をあげていた。(感想参照)
        ・課題
         他の野菜で発光するものがあるか調べる。


    生徒の感想
    1. 久しぶりに実験をやった。実験というだけで楽しかったけど、やってみてより楽しくて時間がたつのが早かった。思った以上に光ってとてもおどろいた。でも、少したつとその光がなくなってしまうのが残念だった。最後にやったダイコンが光る実験は、今日やった中で一番驚いた。それに色もすっごくキレイで、部屋にこんな色の光があるといいなと思ったほどだった。
    2. 部屋を暗くした時に、試験管がきれいに光っていたのがとてもきれいだった。ダイコンでも光るなんて驚きです。光っているのが、ふんわりした、温かい光だったので良かった。
    3. いろいろな色に発光してすごくキレイだった。何か、デズニーランド(??)を思い出しました。化学とかって不思議ですね。・・・スキです。こういの!!
    4. すっごいキレイでした。でも発光のもとを入れすぎて、光るのが終わった後、試験管を見たら、汚くて。黄緑色に光ったのが一番キレイでした。ちょっと感動。
    5. ダイコンにルミノール液を入れたのが、すごくきれいだった。ブラックライトに反応する液もこんな感じのものかなと思った。すぐ消えてしまうのが残念だった。

    ・実験プリント  (あぶり出し.PDF 16 KB)


      3年化学実験

       あぶり出しの絵や文字を書く

    目的 いろいろな溶液を使ってあぶり出しの絵や文字を書いてみよう。

     準備 紙、筆、ガスバーナ、果物の汁、希硫酸、塩化コバルト水溶液

    方法
       1、筆を果物の汁につけ、紙に好きな絵や文字を書きます。
       2、書いた紙を、ガバーナの上にかざし、紙をかわかすようにあぶります。
      (注意)紙に火がついたら。すぐ耐熱板の上に置き、濡れ雑巾を被せて火を消す。
       3、同様に、希硫酸、塩化コバルト水溶液でおこなってみる。











     (解説)
      1、ミカン、ブドウ、ダイコンなどの汁では黄色。夏ミカン、リンゴ、タマネギ
       の汁では褐色になる。
      2、濃硫酸は水を吸収するばかりでなく、紙やデンプンなどの炭水化物から水素
       と酸素を水として吸収し、常温で炭素だけを残して黒変させる。しかし薄い硫
       酸では作用が弱く、常温では変化しない、これを火の上にかざして熱すると、
       紙上の希硫酸は濃硫酸に変わり、かみは炭化して黒色になる。
      3、5%の塩化コバルト水溶液を熱すると、110℃で水を放出し、青色の無水物に
       なる。                    
        CoCl2 ・6H2O(赤色)  →   CoCl2 (青色) + 6H2O

     

    ・実験プリント  (透かし模様.PDF 12 KB)


      3年化学実験

       透かし模様の入った布をつくる

    目的 ポリエステルと木綿の50%混紡の布に、硫酸を混合した糊で模様を描き、
       硫酸の脱水作用で木綿を除き、透かし模様をつくる。

    準備 ポリエステルと木綿の50%混紡の布、オパ−ル加工糊、食紅、ナイロン筆、
        下絵、ドライヤ−、アイロン、直接染料、新聞紙、バケツ、ビ−カ−

    方法
    1、オパ−ル加工糊に食紅を入れて混ぜる。これは、布に糊をつけたところがわ
     かるようにするためにおこなう。
    2、ポリエステルと木綿の50%混紡の布を適当な大きさに切り、オパ−ル加工糊を
     つけたナイロン筆で絵や文字をかく。
    3、 布をドライヤ−で乾燥させた後、布の裏からアイロンをかける。温度は高くす
     る。しばらくすると、糊の中の硫酸の脱水作用により木炭が炭化する。茶色くな
     ったらやめる。アイロンをかけすぎて黒くしないように注意する。
    4、布をもみ洗いする。木綿が除かれ、ポリエステルが残るため、糊でかいたとこ
     ろが、透かし模様になる。
    5、布を染色する。ステンレスボ−ルに熱湯(85℃以上)を約500ml以上入れ
     染料0.5gと食塩5gを入れて溶かす。その中に布を2〜3分つけ、水洗後、乾
     燥する。










    参考文献  高野京子 日本化学会「化学と教育」誌46巻6号p.360(1998)

     

    ・実験プリント  (タマネギの皮による草木染め.PDF 12 KB)


      3年化学実験

       多繊交織布を用いた、タマネギの皮による草木染め

    目的 繊維の種類によっても染まりやすさに違いがあることと、媒染剤による染色の
       違いを調べる。また、未知の布の種類を繊維鑑別試薬を用いて見分けます。

    準備 タマネギの皮、多繊交織布、食酢、木灰汁(または、1%炭酸カリウム水溶液)
        ミョウバン、塩化スズ、硫酸鉄、硫酸銅、繊維鑑別試薬、ガスバーナ、ガーゼ、
        ビーカー、シャーレ、ピンセット
    方法
    1、細かく刻んだタマネギの外皮、数枚をビーカー(200ml)に入れ、水80mlを加え
      て10分間煮沸する。次に、煮だし汁ガーゼでろ過して100mlのビーカーに入れる。
    2、多繊交織布を1.5cm幅で切ったものを7本作り、1の煮だし汁の中に10分程度
      浸けておく。
    3、シャーレを6つ用意し、1%食酢、木灰汁(または、1%炭酸カリウム水溶液)、
      1%ミョウバン水溶液、1%塩化スズ水溶液、1%硫酸鉄水溶液、1%硫酸
      銅水溶液を入れる。
    4、2の各水溶液に、2、の多繊交織布を1つずつ浸す。10分程度たったら、取
      り出して軽く水洗して、固く絞らずに水分をきる。
    5、染まった各多繊交織布を、サンプル表にセロテープで張る。媒染剤の種類や繊
      維によって、染まり方の違いを調べる。
    6、繊維鑑別試薬を5mlとって、100mlの水の入ったビーカーに入れて加熱沸騰さ
      せる。
    7、多繊交織布と家から持参した、未知の布を6、のビーカーの中に入れて2分間
      煮る。
    8、多繊交織布と未知の布を取り出して、水洗いしたあと、染まった多繊交織布の色
      と比較して、未知の布の繊維の種類わ判断する。
     

おわりに

 理科の授業を本来の楽しくいきいきとしたものにするには、なんといっても実験だと考えます。自ら動いて、本物の物質と直接触れる。このような実験を通して、生徒はだれでも、自然に、物質の変化に驚き、その現象に興味や関心を持つようになります。
 私は、今年、横浜市立港商業高校に転勤してきましたが、実験に対する意欲や熱意は、前任校の生徒とまったく同じでした。むしろ、理科は難しいものという思いこみがあっただけに、実験中の物質の変化に素直な驚きの声を上げ、実験中の態度にも楽しいという感情が出ていました。
 今回の研究においては、少人数と実習教員との協力・連携を行うことによって、実験中の生徒の質問や疑問にきめ細かく答えられ、生徒との対話が十分にでき、その結果として興味・関心を持たせるとともに、学習意欲を高めることができたと思います。学校を休みがちだった生徒が、実験に意欲的に参加することになって大変うれしかったです。
 今後の課題として、ただ実験を楽しいものと終わらさないで、「本物」の物質と「直接」触れる体験(実験)を通して、「物質」に興味や関心を持ち、「物質」が持つ長所や欠点を知り、健康で文化的な生活を送るために必要な「物質」の知識を身につけた生徒を一人でも多く育てたいと思います。


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