「化学教育ジャーナル(CEJ)」第5巻第1号(通巻8号)発行2001年7月28日/採録番号5-7/2001年5月 21日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


「なんでもpH」



静岡県立島田工業高等学校 寺田光宏
wbs07509@mail.wbs.ne.jp

1 pHの計測実験の現状
 pHという言葉は、CMでも盛んに使われたり環境教育の広がりなどのため、一般社会人だけでなく小学生でも知っている。pHは現代社会で一般的な用語になり、日常生活でも水溶液の酸性、アルカリ性の程度を示す非常に大切な指標となっている。
 ところが、pHを学習する高等学校化学における扱いは、大学入試に計算問題が中心的に依然出題されていることもあり、進学校を中心にして未だpHの計算を中心に扱われる傾向にある。以前普通高校に勤務していたとき、pHの計測実験を行わず計算問題を中心にしていたため、生徒はpHを求める計算はできても、身近な物質のpHは知らないし、「どうしてpHなんてやるの」と必要性すら理解させられない現状があった。また、高校化学TBの教科書を調べてみてもpHを測定する実験を掲載しているのは14種類中6種で全体の4割強しかなく、少なくとも私の周りではpHの計測実験はほとんど実施されていない。これは、教師は、もののpHを計るような非常に簡単な実験はやっても意味がないと考えているのかもしれない。

2 簡易pHメーターの利用の推進を
 pHの計測実験を掲載している6種類中pH試験紙のみを使用しているのが3種で、pHメーターも含めて使用しているのが3種で全体で2割である。また、pHメーターの紹介を全くしていない教科書が1種あった。実験はなくても写真でpHメーターを紹介している8種も大型で、どの学校に1台あればよいような演示実験・教師用のもので生徒実験用ではなかった。
 最近は、比較的安価で手に入る、簡易pHメーターが販売されるようになった。そのため、生徒実験用にある程度数を揃えることが可能になった。この簡易なpHメーターは、器械により誤差があることや測定方法がよりブラックボックスになるなど問題点があるかもしれない。しかし、pH試験紙に比べ、非常に簡単に計測できる利点がある。まして、pH試験紙とは異なり色の付いたものや粘性の大きな液体も前処理など不要で計測でき、大変便利な計測器である。特に、ガラス電極でないセンサを利用しているpHメーターは少量(1滴)の資料で計測が可能である。

簡易pHメーター例の写真
左側:新電元工業株式会社 pH BOY−P2
右側:堀場製作所 COMPACT pH METER B-212

3 pHの計測実験の意義
 pHメーターで身近な物のpHを計る実験をここ数年実践し、非常に単純ではあるが「あまりにも意外な?結果」に生徒の評判がすこぶる良い。ちょっと計ってみるといろいろなことが分かり、次へのステップの興味や関心を喚起できる可能性をもつ簡単で本質的な実験である。
 また、最近論議が盛んな平成15年度からの高等学校学習指導要領解説理科編理数編の化学Iにおいて、pHについて以下のような記述がある。
「pHは測定実験を中心に、指標としての便利さ及び実用性を扱う。pHと水素イオンとの関係については触れる程度にとどめる。」
 平成15年度からの指導要領を最低基準と考えても良いとすれば、上記の文を以下のように読み替えpHの学習目標とする。
「pHは、身近な物質の測定実験を中心に、指標としての便利さ、有効性及び実用性を扱う。さらに、pHを学ぶ意味を理解し興味がでた生徒や受験で必要に迫られた生徒は、pHと水素イオンとの関係について計算問題も含めて学習させる。」

4 実験方法、結果および考察

  1. 準備するもの
  2. 方法、結果および考察
    1. pHメーターを1点校正する。
      1. pHセンサ部を水道水で洗浄し水滴を取り除く。
      2. 付属のpH6.9標準液(青い容器)を1滴、滴下する。
      3. CAL1スイッチ・ボタンを押して、"CAL"マークを点滅させる。(校正開始)
      4. "CAL"マークの点滅が終わるとpH6.9の校正が終了する。
      5. pHセンサ部を水道水で洗浄して、水滴を取り除き、測定可能な状態にする。
    2. 各実験の方法、結果および考察
      1. 生徒が大好きな強酸のコーラ
        [方法・結果]コーラをpHセンサ部に1滴滴下し、pHを計る。褐色のコーラはpH試験紙では正確に計測しにくがが、pHメーターでは十分可能で約4.3であった。
        [考察]生徒が好んで飲んでいるコーラのpHが食酢の原液と同じくらいで、酸性が強いことにビックリする。

      2. アルカリ飲料でも酸性のポカリスエット
        [方法・結果]ポカリスエットをpHセンサ部に1滴滴下し、pHを計る。約4.8であった。
        [考察]アルカリ飲料とうたっているため、酸性でかつ強い酸なので生徒はかなりビックリする。アルカリ食品(飲料)は体の中で消化されて、アルカリ性になるものとされている。アルカリ飲料には、当然、酸を含むが酸化されると分解され、他にアルカリ金属やアルカリ土類のイオン多く含み酸化されると塩基性酸化物をつくるのでアルカリ性を示す。代表的な食物として梅干しがある。

           
      3. シャンプーとリンスで中和
        [方法・結果]シャンプーとリンスをpHセンサ部に1滴滴下し、pHを計る。着色してあり粘性が大きいのでpH試験紙では計測しにくいが、pHメーターでは十分可能であり、シャンプーが約8.5で、リンスが約6.2であった。
        [考察]まず、生徒はシャンプーがなぜ弱いアルカリ性であるのか不思議に思うようである。アルカリ性はタンパク質を溶かす性質があると分かると汚れを取るためであることが理解できる。さらに、これを中和するために弱酸性のリンスを使うことも理解できる。これは、展開の仕方によりどのようにもなるおもしろい計測対象物質である。また、最近は、中性のボディーシャンプーなどが発売されるなど多様な商品があり計測や考察に事欠かない。 
      4. 二酸化炭素は酸性雨の原因ではない
        [方法・結果]ビーカーにイオン交換水(水道の水でもかまわない)を入れ、それにストローで5秒ずつ息を吹き込みpHの変化を調べる。一般に空気中に含まれる二酸化炭素がきれいな雨水にとけたときのpHはおよそ5.6となる。この場合は、pHは徐々に小さくなるが約6.1で一定になってしまう。
        [考察]生徒は、上記の実験の結果もあり二酸化炭素が水に溶けて、酸性雨の原因になっていると考えている。水に息を入れると酸性になるけどpH6位しか下がらない。これにより二酸化炭素が酸性雨の原因物質ではないことが分かる。また、気体の溶解度や気液平衡への紹介にも応用可能である。
      5. 発展
        • 実際の雨を計る。特に最初降る雨としばらく降った後の雨のpHを比べる。
        • 車の排気ガスを水に溶かして計る。ガソリン車とディーゼル車を比べる。

4 おわりに
 本実験は、簡易pHメーターを使い、身の回りにある物質の酸や塩基の強さであるpHを計るだけである。しかし、計る対象物質を単純に塩酸などの濃度を変えた溶液ではなく精選した身近な酸・塩基の濃度が関係する物質を選ぶことにより生徒に驚きや感動を与えるだけでなく次のステップへ知的好奇心をかき立てることができた。このような実験が、単なる「おもしろ実験」ではなく、この本編集長でもある左巻先生が提唱される本質的な実験だと思う。これからも、生徒ともにさまざまな実験を行い、このような実験を(開発?)見つける努力をしていきたいと、この小文をまとめて自戒できたのが幸いであった。

5 参考文献

  1. 現在出版されている8社14種類の化学TBの教科書
  2. 文部省 『高等学校学習指導要領解説理科編理数編』
      p104−105(大日本図書,1999)
  3. 長倉三郎他 「探求A9 pHを測定する」『化学IB』
      p102(東京書籍,1997)
  4. 新電元工業株式会社「SHINDENGEN pH Meter pH BOY−P2」取扱説明書

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