「化学教育ジャーナル(CEJ)」第5巻第1号(通巻8号)発行2001年7月28日/採録番号5-5/2001年4月 11日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


普通の公立中学校でできる古くて新しい化学変化実験の教材化
〜エステルを使用した化学変化のイメージを深める教材開発〜



吉田安規良 北海道滝川市立開西中学校
E-mail: whelk@seagreen.ocn.ne.jp

1.はじめに

2.身の回りの物質としての“エステル”の教材化

3.準備

(ア) PETのアルカリによる加水分解

(イ) 酢酸エチルの合成

4.操作方法と結果

(ア) PETのアルカリによる加水分解

  1. よく水ですすいだペットボトル(写真1、84KB)をはさみで切り、展開する側面を1面ずつ切り離し、5mm以下に細かく<引用4>切り刻む(写真2、93KB)
  2. (1)で切り刻んだPETボトルの重量を測定し、それと同重量の粒状水酸化ナトリウムを用意する。今回の実験では、コーヒー飲料が入っていたペットボトルの上部1/3程度13.7gを利用した。
  3. 試験管にPETボトルをチップ状にしたものと水酸化ナトリウムを入れ(写真3、72KB)、そこにメタノールを加える(写真4、72KB)。混合比は、PETボトルをチップ状にしたもの1.0gに対してメタノールを10mL入れる。普通、理科室で用いられる試験管は30mL程度の容量のものが多いので、PETボトルのチップ状のもの0.5g、水酸化ナトリウム0.5g、メタノール5mL程度の分量で行う(メタノールの毒性が気になるのであれば、価格は3倍ではあるが、エタノールで代用しても同じ結果が得られる)。
  4. 65℃の湯浴で、試験管をよく振り混ぜながら30分程度反応させる。この時、PETボトルを細かく切り刻んでおけば反応時間の短縮につながる。逆に大きなかたまりで反応させれば、時間がかかるが、表面が少しずつ変化している様子を観察できる。反応が進むについて溶液は白く濁ってくる(写真5、68KB)。溶け具合が悪い場合、5〜10分おきに一度溶液のみを取り出し、別なビーカーなどにとりわけ、試験管内に残った固形物に新しくメタノールを加えて再度湯浴で反応させる。その際、ガスバーナーよりもアルコールランプの火力の方が弱いので操作しやすい。普通教室など加熱装置のない場所で行う際には、70〜75℃の湯を用意し、それに試験管をつける(500mLビーカーにお湯を1/2程度注ぎ、それに入れる試験管は、せいぜい3本程度にする)。湯の温度は時間とともにぬるくなり、10分程度で60℃以下になるので、5分〜7分おきにお湯を取り替えると良い。
  5. 反応後の溶液にpHが1以下になるまで濃塩酸を加える。これによってテレフタル酸の白色固体が沈殿する。この操作は、子どもたち各自の試験管の中身を一度1つのビーカーに移し替えてから行った方が良い。
  6. 上澄みをデカンテーション(傾斜ろ過)で捨て、沈殿を大量の水(500mL〜1000mL)で3回程度すすぐ。このとき、0.1M硝酸銀水溶液があれば、廃液に滴下し、塩化物イオンが残留していないかどうかチェックする。
  7. 沈殿物をろ過し、ろ紙ごと乾燥させる。得られた白色の粉末がテレフタル酸である(写真6、77KB)。今回の実験では、3.45gのテレフタル酸が得られた。<注釈**>
(イ) 酢酸エチルの合成
  1. 最初に、酢酸、エタノールそれぞれのにおいを嗅いでおく。
  2. 試験管にエタノール1mLを入れ、酢酸1mLをそこに加えた後、濃硫酸0.5mLをさらに加える。
  3. 80℃の湯浴で15分間反応させる。反応の際、試験管をよく振り混ぜる。
  4. 試験管を湯浴から取り出し、室温まで冷ます。水を2mL加え混ぜ、静置する。未反応の酢酸とエタノールは加えた水に溶けるが、合成された酢酸エチルは上層に分離している。
  5. パスツールピペット(スポイト)で上層のみを吸い取り、短冊状に切ったろ紙にしみこませる。
  6. エステルをしみこませたろ紙のにおいを嗅ぎ、もとの酢酸やエタノールとのにおいと比較する。

5.おわりに

6.謝辞


<注釈>

<引用>
  1. 文部省,中学校学習指導要領,大蔵省印刷局(1998).
  2. 文部省,中学校学習指導要領解説(理科編),大日本図書(1999).
  3. 安斎育郎・滝川洋二・板倉聖宣・山崎孝,理科離れの真相,朝日新聞社(1996).
  4. 産経新聞社会部編,理工教育を問う,新潮社(1995).
  5. 浅野仁,ペットボトルのアルカリ加水分解によるテレフタル酸の回収,化学と教育,47,pp. 270〜271(1999).
  6. 栗岡誠司,ペットボトルを用いる簡易再生繊維づくり,化学と教育,47,pp. 268〜269(1999).
  7. 河野晃,ペットボトルのペンダント,
      http://www2.hamajima.co.jp/~nisiki/indexgara.html
  8. 中学理科第1分野(下),教育出版,p. 67,(1997).


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