「化学教育ジャーナル (CEJ)」第7巻第1号(通巻12号)発行2003年 9月20日/採録番号7-10/受理2003年 3月 4日 URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


[転載]日本基礎化学教育学会「学会ニュース」第3号

日本基礎化学教育学会事務局
今井 泉(駒場東邦中・高等学校)
izuimai@med.toho-u.ac.jp

目 次

1.はじめに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥2
  基礎化学教育とは(宮田光男)
  学会設立の精神の確認と新指導要領実施への対応について(大井手幸夫)

2.高校部会報告 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥5
  高校部会の1年間の活動(山本孝二)

3.実践報告 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥6
  (1) 中高生対象のエネルギー・環境教育(渡部智博)
  (2) 有機化学実験を用いて実験レポートの充実をはかる(柏恭子)
  (3) 「総合的な学習の時間…化学の諸法則を探求する」を担当して(三島亮彦)
  (4) 物質の分離に関する実験(山本孝二)
  (5) ナフタレインを使った昇華・融解・凝固を試みる実験(山本孝二)
  (6) 気体の体積と圧力の映像化(今井 泉)
  (7) 溶解熱と中和反応熱の測定(兼龍盛)

4.身近な疑問 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥31
  身近な疑問シリーズ(宮本一弘)

5.事務局 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥32
  日本化学教育学会会報要旨(松岡雅忠)
6.おわりに ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥35
  転換点にたつ基礎化学学会(齋藤幸一)
7.会員名簿 ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥36


基礎化学教育とは

名誉会長 宮田光男

 今から12年前にこの学会が設立されたが、この時設立趣旨の中に次のようなことを書いた。
 「学会の名前にあえて『基礎化学』という言葉を使ったのは、それなりの理由があるからである。ところで現代医学では基礎医学と臨床医学にわかれている。臨床では実際に問題となったことを取りあげて、この問題を解決するために基礎医学で研究がおこなわれている。その研究成果を再び臨床の現場で実際に応用して、その成果を確実なものにする。
 この医学の分野での臨床医学と基礎医学との関係は、あたかも教室内での教育現場と基礎化学との関係によく似ている。すなわち、教室内で問題になったことを取りあげて、これを解決するために基礎化学教育学会で研究し、その成果を教育現場で確認して、自然に生徒の心と目をとらえていく。これが、この学会の終極の目的である。
 この目的を達成するためには、多くの現場の先生方の参加が必要である。先生方の総力を結集して、生徒を主体とした化学教育改革に取りくんでいこうではありませんか。」
 この学会設立以後、多くの現場の先生の参加のもとにその成果が着実に実を結んでいることは実に喜ぱしきことである。
 ところで、今現場で一番問題になっている事は教科書に記載されている実験が生徒の興味を引きつけない事ではないだろうか。限られた時間の中で実験の結果を出さねばならないために実験の面白さを味わっている暇がないので、味気ない実験になってしまうのであろう。せめても2時間続きの実験ができればいくらかはこの問題は解決できるのではないだろうか。
 第二の問題は、最近の生徒たちはテレビっ子なので、「めんどうな実験なんかしなくてもテレビで実験を見ていればそれで満足だ。」という声をよく耳にする。これは実に大問題である。実験を見ているだけで、本当の面白さがわかるものだろうか。長時間テレビでサッカーを見ているだけで、サッカーの面白さはわからない。実際にサッカーボールを扱ってみて、始めてシュートの快適さを実感することが出来る。同じようにビーカーや試験管を使って面白い実験をしてみて、その鮮やかな変化を味わって、その面白さを体験できるのではないだろうか。それには何といっても面白い実験の開発がまず必要である。
 第三の問題は、受験教育のいき過ぎの問題である。受験教育はどうしても知識の詰め込み教育となってしまうので、生徒実験をはしょってしまい教師実験や黒板の説明実験でお茶をにごしてしまうということになりかねない。これは化学教育にとって何ともやりきれない問題である。これをいくらかでも解消するためにいろいろと工夫する必要がある。かつてこんな事を実施したことがある。高3の夏休みに1週間朝から晩まで生徒による自由実験を実施した。この実験は平常授業ではとても時間が足りなくて実験できなかった系統的無機化学分析実験や有機合成実験が主体であった。いくつかのテーマの中から自由に選んで実験させたところ、この1週間の期間に実験の面白さを味わった生徒が数多く出たので、この試みは十数年続いた。時間にもテーマにもある程度束縛されずに実験でき、その結果を自分の目で確かめられるところにメリットがあったのであろう。やはり生徒の立場に立った実験の開発が今後さらに望まれる。


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学会設立の精神の確認と新指導要領実施への対応について

大井手 幸夫

1.学会設立の趣旨と活動の現状
 「日本基礎化学教育学会」は、成立してより今年で12年目を迎えました。学会設立の趣旨は、当時学会の会長(現在は名誉会長)宮田光男先生が述べられているように、医学の臨床医学と基礎医学の関係は、教育の現場においても考えられ、すなわち授業を通して起こり得る様々な問題点を学会で取り上げ、それらを検討しその結果を授業の現場に還元していくといった基礎的な役割を果たす必要があるということであえて「基礎」の名を付けたと言っております。
 具体的には、中学・高校で生徒が興味をもち、心を引き付けるような授業、日常生活の身近な材料を扱った実験、生徒の立場に立った授業などを目指して出発したものであります。
 発足当時の「化学実験研究会」「教材開発研究会」は合併してそれぞれの「中学部会」「高校部会」で取り扱われ、今年度からは、中学・高校の部会がさらに融合して「中学・高校部会」として新しく活動しております。途中から設定された「化学史部会」は化学上の有名な法則や原理などの誕生までの思考錯誤や苦労などその人物を通してまとめ、授業で活用することにより「化学史」が単なる暗記でない探求学習の一つであることを教える必要から生まれました。
 さらに、海外の視察研修旅行も企画し、平成5年(1993 年)学会主催のヨーロッパ化学(科学)史博物館視察研修旅行を実施しました。この化学(科学)の源流をヨーロッパに訪ねる旅は、化学(科学)史を飾った人々の功績をじかに体験したことにより、学校教育の場でも大いに活用できると好評でした。次回「北欧」を中心にした研修旅行を計画しておりますが、ここ1〜2年のうちに実現することを願っております。
 「津田化学現代化委員会」は現代中断しておりますが、この委員会もなんとか数年のうちに活動を再開できればと思っております。

2.新指導要領への対応
 新指導要領は、小学校、中学校で本年(平成14年度)から、高等学校は平成15年度から学年進行で実施されます。
 改訂のねらいは「自ら学び考える力、生きる力を育てる」ことを目標にしており、ゆとりのある教育活動(授業内容は3割削減)の中で、体験を通しての学習や自ら学び考える力の育成を目的とする「総合的な学習の時間」が導入され、学校が独自に創意工夫を発揮して行なうことが求められており(その内容は解説書や教科書もなく、すべて各学校にまかされている)、ますます現場教師の裁量の手腕が問われます。
 授業内容の3割減では、中学理科の教科書から化学分野において、酸性、アルカリ性の中和の実験や、イオンやイオン反応式などが削除されており、これ等の取扱いについてどうするか検討の必要があります。
 特にイオンは、我々の身の回りにもアルカリイオン水とかマイナスイオンなどの用語が使われております。「イオンの内容を含む現象を扱えないなら、酸・アルカリの話や、食塩の溶解や酸化・還元の話もいっさい書けなくなってしまう。今回の教科書検定には疑問がきわめて多い」と東大生産技術研の渡辺正先生が「教科書検定にみる理科教育の危機」と題して「化学と教育」誌に寄稿されております。
 また、高校の理科では「理科基礎」「理科総合A」「理科総合B」のうち少なくとも1科目は必修ということです。
 学会としても「総合学習」の内容の検討や「環境教育の学習」なども視野に入れてどう取り組むべきか早急に考えて行かねばならない。

3.週5日制の問題
 今年4月から「完全学校週5日制」が全国の公立の小、中、高校で実施されました。毎土曜日が休日となり、子供の生活にゆとりをもたせ、家庭や地域での生活体験を重ねてもらおうとする狙いです。
 これに対し、私立の小、中、高校で完全5日制を実施するのは、文部科学省の調査によれば、全体の55%にとどまり、東京や大阪など大都市ほど実施に慎重な傾向が強く、土曜日の休みが「学力低下につながる」という心配を浮き彫りにしており、実際に東京では、高校で6割、中学では7割近くが見送るという現状です。
 少子化が進み、競争が激化している学習塾は、新制度を追い風として、それぞれ独自の方法を打ち出し生き残りをかけております。
 一方、都立の高校の一部は、土曜日に補習授業や、自習室を開放して、卒業生を相談役に勉強や進路のガイダンス、先輩を招いての講演会などを実施しているとのことです。
 テレビでは、この4月よりNHKが土曜日に、科学する心を育成するさまざまな実験を試みる子供向け番組「科学大好き土よう塾」が放映されており、このように色々な分野での土曜日の活用を試みております。
 文部科学省は、私立技での完全5日制の実施を促しており、各都道府県知事あてに「今後も私立校の完全実施に向けての取り組みを進めていくよう」通達を出したそうです。遠からず、私立学校も完全5日制の実施を強いられることになると思われます。
 これに対応して、学会も土曜日の活用について具体的に考えていくべきで、現在中断している「高校生の研究会」や実験材料をワゴン車に積んで教育センターでの実験を行った「出前実験カー」の活動などの再現も考えられます。

4.おわりに
 一つは、現在迄、学会での研究会で発表された創意工夫がみられる数多くの実験や授業の場で使える貴重な資料など、学会内部だけにとどまらずもっと公の場で発表し、全国の先生方にも活用してもらうことが必要と思います。
 例えば、日本化学会が行っている春、秋の年会(来年度からは春の年会だけになるそうです)で「化学教育・化学史」のセクションが与えられております。別に、日本理化学協会主催の日本理科教育大会(今年は宮崎で、来年は北海道札幌で行われます)などで、是非発表していただきたい。
 もう一つは、地方の学会員の方です。東京で行われる研究会には参加が難しい現状では、学会の事務局の方に、研究した成果や学会に対しての要望など、どしどし寄稿して下さい。
 学会は会員一人一人のものです。活性化のためにご協力を切にお願いします。


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高校部会の1年間の活動

山本 幸二

 高校部会では、ほぼ月に1回程度の割合で例会をもち、教材開発・教育情報の交換等を行ってきました。例会は基本的にはみんなで集まって、疑問や教材などについて思った事などを気軽に自由に話し合える雰囲気で行ってきました。教材開発においては、いろいろな実験教材の開発・検討や、パソコンを使った教材の開発なども手がけてきました。これらのいくつかについては、夏の全国私立中学高等学校研修会で発表もしてきました。まだ、課題をいくつか残しているものもあり、今後の諸先生方の努力に期待したいと思います。また、授業等で疑問に思った話題をもちより、みんなで話し合いももってきました。これは、今後とも続けていきたいと思います。会員の皆様も疑問に思ったことなどお寄せください。疑問が完全に解消されなくとも、何かヒントが得られることもあると思います。教材開発はもちろんのこと、持ち寄った疑問については会報で会員の皆様にお知らせしていますが、今後は、これらの活動内容をできるだけまとめていく方向を考えています。
 教育情報については、新教育課程を中心に話し合いをもってきました。また、これからは、中学の理科との関係も重要になってくるので、中学そして大学のことも視野にいれながら、幅広く情報を集めて話し合いをもっていきたいと思っています。この点については、会員の皆様からの幅広い情報を特に期待しております。
 実際に物を生産している工場の見学の報告もあり、私達が教科書などではあまり良く知らないで過ごしているが、現場では最先端の技術ばかりでなく、いろいろな工夫がなされ、私達にとって新鮮な話題となる報告もされました。実際に工場を見学するのは、非常にいい研修にもなるので、できれば学会でも企画できればと考えています。また、会員の皆様においても、このような経験をされたらぜひ報告していただきたいと思います。
 本年度もいままで行ってきたことを継承し、さらに発展させていければと思います。また、中学と高校の部会を統一して行っていきますので、中学や高校を含めた内容を扱っていきたいと思います。できるだけ多くの会員が参加でき、意見を述べ合っていけるような会にしていきたいと思いますので、ぜひ、協力をお願いします。


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3.実践報告

4.身近な疑問シリーズ


日本基礎化学教育学会 会報要旨

日本基礎化学教育学会事務局

   2000 年度,1999 年度に開催された部会での発表要旨を掲載致します。

会報  部会  発表内容
 88  中高  日本ヒューレット・パッカード株式会社の特定非営利活動法人設
        立に関する情報(大妻 渡辺)
        ABCEJホームページの充実・拡張についての提案(駒東 松岡)
        タンパク質の結晶化実験公募について(開成 斎藤)
        電子レンジを使った色ガラスづくりと金属の還元実験(開成 宮本)
 87  高校  野依先生受賞講演パネルディスカッションの報告開成(開成 斎藤)
        銅の電解精錬工場の見学報告(駒東 今井)
        授業に使える話題(攻玉社 小松)
        「お父さんの技術が日本を作った」茨木宏子著(小学館)
        正露丸中のフェノール類を用いたアゾ染料の合成(駒東 松岡)
        身近な食品に含まれる銀の分離・確認実験(駒東 根岸)
 86  高校  (1) 「ナフタレンを使った昇華・融解・凝固」
        (2) 「鏡をつくる」実験の紹介(船橋古和釜高 山本)
        銀鏡反応に関する疑問(桜美林 柏先生)
    総会  大井手幸夫会長挨拶,斎藤幸一副会長挨拶,各部会報告
 85  高校  パセリ,ビデオテープ中の鉄イオン(Fe3+)の確認(駒東 根岸)
        あっと驚く酸化還元反応((1)・(2))の紹介(開成 齋藤)
        (1) Cu(NO3)2 + Fe → Cu 析出はしない
        (2) 過酸化水素水と過マンガン酸カリウム水溶液を用いた実験
        (1) フェーリング反応についての実験紹介と (2) 高分子が確立する歴
        史についての報告(七里が浜高 西方)
 84  高校  医薬品を用いた生徒実験の紹介(駒東 松岡)
        うがい薬を使った簡単な実験の紹介(國學院 騨矢)
        コンピューター図鑑 3D結晶カタログ(無機編)の紹介(験台
        予備学校 大橋・大川)
        授業構成を支援するデータベースソフトを用いたカード作成の紹
        介(中大杉並 野附)
 83  中学  ポピュラーサイエンスシリーズ 201「やってみよう・見てみよう
        楽しい化学5分間実験」(新潟県化学を楽しむ会編)より「14..試
        験管の中のカミナリ」(攻玉社 小松)
    高校  「ミリカンの油滴」の実験装置について(開成 宮本)
        物質の分離や精製の実験
        メタアルデヒドの昇華(船橋古和釜高校 山本)
 82  中学  過マンガン酸カリウムを加熱する実験(桐朋 横井)
        シャボン玉と二酸化炭素(ICU 高校滝川先生考案)(攻玉社 小松)


2000年度
会報  部会 発表内容
 82  高校  総合的学習の時間について(開成 宮本・齋藤)
        気体の体積と圧力の映像化(駒東今井)
        実験の失敗談や疑問質問
 81  中学  炭酸アンモニウムの熱分解(攻玉社 小松)
        みかん電池の失敗原因について(開成 宮本)
        ろうそく燃焼による密閉容器の気体の体積変化(桐朋 横井)
    歴史  ソルベー法の実験(攻玉社 小松,桐朋 横井)
        「オランダ科学史」(K. ファン・ヘンケル,朝倉書店)の内容紹
        介(桐朋 横井)
        窒素定量法の開発者ケルダールの紹介(和洋九段 中込)
 80  高校  ハロゲン(塩素)と金属(スズ、鉄)の実験(国府台高 山本)
        炭酸アンモニウムの熱分解の実験(攻玉社 小松)
        「シャルルの法則より絶対零度を求める実験」(七里が浜南 西方)
    総会  各部会(中学・高校・化学史)からの報告
        <21世紀の学会の目標>
        化学I、IIの実験開発(特にIIの生化学的分野)
        授業Q&Aの集大成
        グリーンケミストリー的観点からの実験開発
        総合的学習の時間についてどうとりくむか
        インターネットの活用について考える
        積極的に学会発表をする
 79  高校  日本私学教育研究所夏期研修会の報告
        (無機化学の中のアルカリ工業、酸工業・プラスチックに関する実験)
        総合的学習の時間や「情報」の導入に向けての各校の情報交換
    歴史  植物学のリンネの発表(中大杉並 野附)
        吹管分析の実験に関する発表(大井手,横井,中込)
        北欧の科学者のなかで化学史に関わる人々の調査、報告
 78  高校  「塩化水素と金属の反応」(国府台高 山本)
        理科ミュージアムの紹介(開成 斎藤)
        リモネンのリサイクル(学芸大学附属高 岩藤)
        手軽にアミノ酸の検出が出来る実験(七里が浜高 西方)
 77  高校  「アルデヒド基を持つ物質の還元性」・「身近なもので発砲スチロ
        ールを溶かす」(開成 宮本)
    中学  新生出版「理科教室」記事紹介(桐朋 横井)
        粒子概念を大切にした授業において,NHKビデオの利用に関し
        て(桐朋 横井)
        黄銅づくり(開成 宮本)
        酢酸ナトリウム3水和物の結晶化、発熱の実験(攻玉社 小松)


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転換点にたつ基礎化学教育学会

日本基礎化学教育学会副会長 齋藤幸一
(開成学園化学科教諭)

 2002 年度から初等・中等教育の現場では、完全週休二日制が実施され小中学校では総合的な学習の時間など新教育課程もスタートした。2003 年度から高校も新教育課程がスタートし、総合的な学習の時間、情報などの新教科をはじめ理科化学分野も理科基礎、理科総合、化学I、化IIなどに振り分けられる。とりわけ化学IIでは選択ではあるが生化学分野が入ってくるなど近年にない大改訂である。このような状況の中で基礎化学教育学会の役割はますます重要になってきている。ある意味ではこの2〜3年が転換点だったと歴史的には評価されるであろう。会としても従来の中学部会を高校部会に統合し、中高一貫のカリキュラム開発に力を入れてきている。中学でのイオンの削減など文部科学省の指導要領のまずさを嘆いていても何も解決されない。要は指導要領などに左右されない普遍的な化学教育カリキュラムの開発こそがこの学会の責務ではないだろうか。酸と塩基の教材一つとっても小学校ではここまで、中学校はこのレベルまでという検討があってこそできる高校化学の教材研究であろう。そしてねらいは「判断の基礎としての化学」という視点である。「理科離れ」という言葉がいわれて久しいが、理系へ進む理科好きの子どもたちは昔と変わらない。問題は市民のサイエンスリテラシーの低下である。新聞のサイエンスに関係した報道がきちんと判断できるかどうか。われわれは早い時期に文部科学舎とは別に小・中・高を関連づけた「判断の基礎としての化学」という視点を持った化学カリキュラム開発に着手しなくてはならない。実は平素の研究会の活動の一つ一つがこのようなカリキュラム開発の材料になっており、すでにはじまっているのである。今回中・高の研究会の統合は以上の観点から必然的なものであり、大変有効な形態になった。今後も研究会の皆様の活躍を期待して筆を置くことにする。


7.会員名簿


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