「化学教育ジャーナル (CEJ)」第7巻第1号(通巻12号)発行2003年 9月20日/採録番号7-9/受理2003年 8月 5日 URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


液体窒素を使った意外な遊び

柿原聖治(岡山大学 教育学部)
kakihara@cc.okayama-u.ac.jp

1. はじめに

 液体窒素を使った実験は、科学の祭典や文化祭などの出し物として最も人気があり、広く行われている。花を凍らせたり、軟式テニスボールを凍らせ床に落とすというような定番のものばかりではなく、意外で特異な遊びをいくつか考えた。それを、これから示していく。

2. 遊びの例

2.1 ガラス管
 液体窒素の入った容器に、ガラス管(1m以上)の先を入れ、立てる。こんなに長いのに、液体窒素がガラス管の先からすぐに飛び出てくる。飛ぶ高さが非常に高く、白い飛跡を見ることができる。飛ぶ勢いは、時間の経過とともに弱まる。ガラス管が十分冷えてしまうと、飛び出さなくなる。つまり、ガラス管を液体窒素に浸して10秒間ほどの芸である。ガラス管を上下逆さにして、液体窒素につけると、同様な現象が再び起こる。
 液体窒素に入れると、激しく沸騰するものであれば、ガラス管だけでなく、ゴム管などでも構わない。
 液体窒素が生徒の目に飛び込まないように、ガラス管の先は人のいない方に向ける。

2.2 やかん
 小さめのやかんに液体窒素を入れ、ガスコンロの上に置く(ガスコンロは点火しない)。やかんは白煙を上げ、湯が盛んに沸騰しているように見える。コロンからやかんを取り出し、中の液体を手にかける。まるで熱湯をかけているようである。見かけ上、ものすごく熱そうに見えるが、実は逆で、ひんやりする。

2.3 タバコ
 途中まで吸ったタバコの先を液体窒素で冷やす。それを空気中に取り出すと、先から白煙が生じる。この白煙は、燃えて生じる煙と見かけ上同じである。
 これを利用して、科学マジックができる。液体窒素によって白煙を生じているタバコを、顔の頬に当てる。全く熱くない。しかし、聴衆は、煙が出ているのでやけどしないのかと思い、はらはらする。

2.4 空気砲
 段ボールをガムテープですべて閉じ、一カ所の面だけに穴を開ける(穴の直径は、面の長さの半分くらい)。その穴に液体窒素を流し込み、段ボールの側面を叩く。ドーナッツ状の白煙が飛んでいく。
 この白い煙の輪が、顔に当たると、かなり冷たくて気持ちよい。

2.5 ビニール袋、ゴム風船
 ビニール袋に液体窒素を入れ、口をねじってしっかり手に持つ。それを左右に振る。すぐに膨れ上がってくる。その圧力に耐えながら口を持ち続けられると、大きな音とともに破裂する
 ちなみに、ビニール袋の口に輪ゴムなどをする暇はない。液体窒素がすぐに気化して、ビニール袋が膨れ上がるからである。
 この実験で、液体が気体になると、非常に体積が増える(約700倍**)ことが分かる。
 平底フラスコに液体窒素を少量入れ、その口にゴム風船を取り付ける。風船は大きく膨れ上がり、やがてフラスコの口から外れ、飛んでいく。風船が破裂することはない。破裂しそうであるが、破裂はせずに飛んでいくところが面白い。
 しかし、この実験では700倍にも体積が増えているようには見えない。ゆっくり風船は膨れるし、フラスコには最初から空気が入っており、小さな体積から大きな体積に変化したとは見えない。ビニール袋で実験する方が分かりやすい。ビニール袋には液体窒素だけを入れられるので、最初小さな体積であることが確認できる。それが気体になるとビニール袋が大きく膨れ上がるので、体積変化が一目瞭然である。

2.6 口から白煙
 液体窒素を口に含み、すぐに吐き出す。霧を吹くように吐き出すと、口から大きな白煙が生じ、まるで怪獣が口から火を噴いているようである。演示実験としては非常にうける。
 注意する点としては、液体窒素を絶対に飲み込まない。口に含むだけである。飲み込むと、胃に入ってしまい、たいへん危険である。胃壁が凍ってやけどをしたり、前のビニール袋の膨張・破裂のように、胃が膨れ上がったりするであろう。
 筆者が被ったやけどの例:
 液体窒素を常時入れていたビーカーの側面に口を付けて液体窒素を口に入れようとしたら、下唇がやけどした。液体窒素を口に含もうとするとき、下唇がビーカー側面に当たる時間が長いので、やけどしたのである。液体窒素でやけどした訳ではない。いっぺんにたくさんの液体窒素を口に含まないように、恐る恐る行っていたので、下唇がビーカー側面に当たっている時間が長くなり、やけどをした。
 そうならないためには、液体窒素が常時入っている容器から、小さなビーカーに液体窒素をすくい取ってから、すぐに口に含む。小さなビーカーは液体窒素が常時入っていた訳ではないので、冷たくない。さらに、口に含む量だけすくい取るので、多量の液体窒素が口に入ることを心配する必要もなくなる。

2.7 花火
 激しく燃えている花火を、液体窒素の中に入れる。消えずに、燃え続ける。窒素には物を燃やす働きはないが、花火の成分に酸素を出す物質「塩素酸カリウム」(KClO3)を含んでいるので、周りに酸素が全くなくても燃え続ける。

2.8 等速円運動
 丸底フラスコに液体窒素を少量入れ、フラスコをかき回す。液体窒素が、フラスコの壁を回り続ける。少し浮いた状態で動くので、壁との摩擦が生じず、等速円運動のようである。

2.9 微粉末の飛び跳ね
 フィルムケースに硫黄の微粉末を少量入れ、液体窒素を少し加える。液体窒素が気化して減って底をついてくると、硫黄の微粉末がパチパチと音を立てて飛び跳ねる。まるでぐらぐら激しく沸騰しているようである。フィルムケースを床から引き上げると、その沸騰は弱まる。床に置くと再び激しく突沸する。ビーカーでもできるが、フィルムケースの方が激しく飛び散る。
 これは、粉末の大きさによる。酸化マンガン(IV)(MnO2)の微粉末でも、水酸化カルシウム(Ca(OH)2)の微粉末でも、同様の現象が起きる。食塩のような大きな粉末では起きない。

3. まとめ

 多少過激に思われるものまで紹介したが、ほとんどの遊びは、誰もが簡単に楽しく行うことができるものばかりである。大事なことは、液体窒素を必要以上に怖がらないことである。まずは、教師が演示者としてユニークな遊びをしてみせることで、生徒たちの目が輝き、液体窒素への興味付けをすることができる。
 実験と言えば、定番のものや教科書に出てくるものばかり、そしてそれは結果がはっきりしており、テスト対策として暗記すべきもの、というイメージに陥り易い。しかし、このような遊びを取り入れることで、まずは身近なところで想像力や好奇心を刺激し、型にはまらずに自らいろいろな実験を試みるきっかけをつくることができる。


脚注
*) 筆者が被ったやけどの例
 この実験では、陸上競技のスタート合図に使うピストルと同じような音がするので、同じ格好でビニール袋を持った。破裂するまでに少し時間がかかるので、その間ずっと、ビニール袋ごしに中の液体窒素が手に当たっていた。破裂するまではビニール袋の口を必死に握り締めているので、冷たいことも感じない。そして、破裂したあとになって、手がやけどをしていたことに気付いた。

 その他の安全上の注意:
 液体窒素で凍らせた氷は、口に含んではいけない。生徒は液体窒素で凍らせたジュースなどを食べようとするが、危険である。
 筆者は、液体窒素で凍らせた小片の氷を食べてみた。氷がすぐに舌にくっついてしまう。非常に冷たいので、すぐに取ろうとする。舌の皮膚も一緒に取れてしまい、出血した。液体窒素で凍らせた氷はあまりも低温なので、舌の上の液体をすぐに凍らせてしまい、瞬間接着剤の働きをする。


**) 液体窒素が気体になると、体積は700倍以上になる。

  【液体の体積V1 → 気体(常温25℃での)体積V3
1モルのN2は28.0gで密度が0.808g/cm3だから、液体の体積V1は、
   0.808g : 1cm3 = 28g : V1[cm3]  ∴V1 =28/0.808=34.7cm3
25℃での体積V3は、気体の状態方程式 PV=nRT より
   1×V3 = 1×0.082×(273+25)  ∴V3 =24.4×1000[cm3]
つまり、体積変化は、V3/V1 = 703倍。

  【液体V1 → 気体(沸点-196℃での)V2 → 気体(常温25℃での)V3
 703倍というのは、状態変化に伴う体積変化(V2/V1)と、その後の単なる熱膨張(V3/V2)の両方による。
沸点-196℃での体積V2は、気体の状態方程式 PV=nRT より
   1×V2 = 1×0.082×(273-196) ∴V2 = 6.31×1000[cm3]
状態変化による体積変化は V2/V1 = 182倍。
-196℃から25℃までの気体の膨張は、V3/V2 =3.87倍
 つまり、状態変化に伴う体積変化(182倍)と単なる熱膨張(3.87倍)との両方の影響で、703倍が得られる。状態変化に伴う体積変化の方が、単なる熱膨張よりも、桁違いに大きいことが分かる。


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