「化学教育ジャーナル (CEJ)」第7巻第1号(通巻12号)発行2003年 9月20日/採録番号7-8/受理2003年 8月29日 URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


インターネット教材としての動的周期表の開発

Development of Dynamic Periodic Table of the Elements Suitable to Internet Educational System
矢野敬幸
Takayuki Yano
yano@virgo.higashi.hit-u.ac.jp
(一橋大学化学研究室)

1.はじめに

 著者等は大学における自然科学教育を補完する目的で、インターネットを利用した教育システムの開発を進めてきた1,2,3)。その重要な一環としてインターネット環境にふさわしい教材ソフトの開発がある。単にテキストや図をホームページとして提供するだけでは、もてる環境を十分に生かしたとは言い切れない。このような立場から、化学の教育にとって必須ともいえる周期表の動的教材化を試みてきた。すなわち、気候や風土の違いが地図上の位置により系統的に色分けできるように、周期表の上で、元素の占める位置によって化学的・物理的性質が系統的に変化する。紙に印刷された周期表では不可能なその種の変化をも表現できるようにしたインターネット上の周期表を動的周期表と名付けて既に発表した。今回はその動的周期表をさらに大幅に改良したので報告することとした。

2.動的周期表の利用方法と基本的性能

 動的周期表はJava2のj2sdk1.4.1_02バージョンで作成したため、これを閲覧するにはブラウザはJava2対応であることが必要である。使用されているコンピュータで動的周期表がうまく表示されないときは、Windows マシンであればJava2をインストールすることで多くの場合、動作するようになる。Macならば OS Xであればそのまま閲覧できる。
 動的周期表が呼び出されると、表示用ウインドウが現れる。その中にスクロールバーが表示された小さいウインドウがあり、次の4つのパラメータをユーザーが指定することができる。温度、イオン化エネルギー、電子親和力、電気陰性度である。温度バーを動かして温度を設定すると、各の元素はその最もありふれた同素体の沸点、融点に応じて、物質の3状態の一つを示す色表示がなされる。イオン化エネルギーのバーを動かすと、0から10eVの値が設定され、周期表ではその設定値以下のイオン化エネルギーを持つ元素が赤色で示される。他の2つも同様で、設定値以下の親和力あるいは陰性度を持つ元素はすべて青色あるいは黄色で示される。
 ランタノイドとアクチノイドの位置には空欄が設けてあり、その位置をマウスでクリックすると、別表としてこれらの元素が現れたり消えたりするようにしてある。「金属性を表示」としたボタンをクリックすると、その元素が金属か半導体か非金属かによって色分けされる。
 周期表中の元素を直接クリックすると、その元素が選択されてその属性が周期表の下段に設けた枠内に示される。

3.今回の改良点

 元素を選択したときに、元素名と同時にダブルクリックするとその元素の同素体の写真4)も表示されるようにした。元素に対する親しみを持たせる上で効果があると考えられる。同様の観点からその元素の発見された年(時代)と発見者名も表示するようにした。元素の発見者を誰にするかについては微妙な点もあるが、おおむね「元素の事典」5)によった。また元素の沸点や融点、および原子量のデータは化学便覧6)に基づいた。
 また元素の属性として従来はK殻からQ殻までに存在する電子数をそれぞれ示していたが、化学的により重要な外殻の電子配置を示すように変更した。さらに「電子配置」ボタンをクリックすることで、別ウインドウとして各シェル内の電子を模式的な円形の軌道上に示していたが、単に電子数だけでは情報不足なので、電子スピンに関する情報も得られるように変更した。すなわち「詳細電子配置」ボタンをダブルクリックすると、各シェル毎に対を構成する電子と不対電子の数も分かるようにそれぞれを青い色と赤い色で示すようにした。

4.おわりに

 本研究開発にあたり、元素の写真も表示するようアドバイスしかつ親切に写真のついた周期表を送っていただいた岡山理科大の西本教授に感謝する。また本研究は科学研究費課題番号14580184によりサポートされているものであることを付記し謝意を表する。

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参考文献等

1) Journal of Chemical Software, vol 3, 1997, pp.165-176
2) Journal of Chemical Software, vol 5, 1999, pp.1-14
3) Journal of Chemical Software, vol 7, 2001, pp.153-159
4) Periodic Table of the Elements, Time-Life Books (1987)
5) 馬淵久夫編集,“元素の事典”,朝倉書店(1994)
6) 日本化学会編,“化学便覧改訂4版”,丸善株式会社(1993)


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