「化学教育ジャーナル (CEJ)」第14巻第2号(通巻 27号)発行2013年2月19日,事前公開 2012年12月31日/採録番号 14-7/2012年 1月25日受理,5月10日, 7月2日修正
URL = http://chem.sci.utsunomiya-u.ac.jp/cejrnl.html

小学校理科「水のすがた」から中学校理科「状態変化」「大気中の水」へつなげる教材開発のための雪状氷結晶成長実験

Snow Crystal Growth Experiment to develop Science Material to learn Phase Transitions and dynamic evolution of water in atmosphere in Primary and Secondary Schools

佐藤節子*,谷口佳代,中塚恵介
岐阜大学教育学部理科教育講座(化学)

Setsuko Satoh*, Kayo Taniguchi, and Keisuke Nakatsuka
Science Education, Faculty of Education, Gifu University, Yanagido 1-1, Gifu, 501-1193, Japan

E-mail: opsesamegifu-u.ac.jp

Abstract

Temperature-dependence and humid-dependence of snow-shaped ice crystal growth were examined using a cooling system and N2 gas flow containing water vapor. In the cooling system, the temperatures of a glass plate on the metal block where water vapor was condensed to grow ice crystals and water that supplied water vapor were regulated by controllers independently. Ice crystals were classified to four types, six-petaled dendrites, hexagonal plates, fan-shaped or paddle-shaped plates, and others including hollow columns. These various types of crystal glowing were recorded and mapped in a morphology diagram as a function of temperature and water vapor supersaturation. The interesting crystallization processes were presented in the science material. This material is expected to stimulate students and teachers in primary and junior high schools to learn and teach phase transitions of water and its dynamic evolution in atmosphere.

キーワード

雪状氷結晶、結晶成長、状態変化、冷却装置、樹枝状結晶

1.はじめに

 1989年に生活科が始まってから、小学校の理科は3年生から始まる。3年生で扱う理科の題材は、身のまわりの植物や昆虫、日なたと日かげ、じしゃくなどである。これらは子どもたちの視点を、子どもを中心とした家族や仲間内の世界から外に向けさせ、子どもが主体ではないありのままの自然の存在を意識させていくことを意図している。
 4年生になると、視点はさらに広がり、深まり、自然の中の変化に向けられる。月や星の動き、季節による植物や生き物の変化から、温度による物質の体積変化や状態変化にまで及ぶ。その中で4年に「水のすがた」[1]、「水のすがたのふしぎ」[2]、「水のすがたとゆくえ」[3]が出てくる。物質の状態変化を扱った手始めであり、この後、中学校理科1分野上単元2「身のまわりの物質」における「物質の状態変化」で、窒素、二酸化炭素、エタノール等の状態変化[4]に続いていく。
 「水のすがた…」の中では、ビーカーの水が加熱されて水蒸気に変わり、冷やされて再び液化する様子や試験管に入れた水が食塩を入れた氷水の中で冷やされて氷となっていく変化を観察する。そしてこれらは、やかんの口や寒い日に川面から立つ湯気や寒い日の窓ガラスの内側の水滴、湖の水面をおおう氷や、山々の頂の雪、その上の雲という大自然の変化と関連付けられる。しかし子どもたちには、ビーカーや試験管の中の出来事と大自然の出来事とがなかなか結びつかない。その後この部分は、中学校理科2分野下単元4「天気の変化」の「大気中の水」[5]につながっていく。天気の部分は地学分野であり、物質の状態変化という視点以上に地球上での水の循環という視点を強めていく。化学分野がかかわる「物質の状態変化」では水以外の物質に発展していく。
 5年になると「もののとけ方」 [6]を学び、6年で「水よう液の性質」 [7]を学ぶ。5年で食塩、ミョウバン、ホウ酸を扱い、6年で塩酸、アンモニア水、石灰水等を扱う。次第に化学的な内容を深め、児童生徒には、化学は理科室の中で行う教科というイメージが強まり、大自然とは隔絶した存在と思われていくようである。社会の中で化学は、化学工業や化学合成という化学の人為的な面から環境汚染の元凶とばかり思われがちである。しかし、大自然そのものが大きなビーカーであり、そこで自然の化学変化が起こっていることに気付かせたい。化学分野においても、もう少し自然と教室での実験観察を結びつける教材が必要である。
 
 冬の寒い日に空から舞い降りてくる雪を気にする人はそんなに多くない。しかしひとたびその形を顕微鏡や写真等で見せられると、大人だけでなく子どもたちも強く興味をそそられる。そしてその自然の妙技に自然への畏敬の気持ちを引き起こされる。
 中谷宇吉郎は雪結晶の顕微鏡写真[8]に魅せられて研究を始め、様々な形態の雪結晶を作り出す自然を解明するために、実験室で人工雪結晶を作成した[9]。それを受け継いだ研究者や世界中の研究者によって現在もなお研究は続いている[10‐16]。私たちは自然と結び付けるために、この雪結晶の成長という興味深い現象を利用することを考えた。
 これまで温度と水蒸気量を制御して、人工的に作った雪状氷結晶が報告されている[9〜16]。それらの研究においては、自然が作り出している様々な形状の雪結晶のいくつかが再現されているが、複雑な結晶形はまだ十分に再現されてはいない。またそれに至る成長過程の解明がまだ十分ではないことが述べられている [14]。そのような中で著者らは、実際に子どもたちが、雪結晶の成長していく様子を見ることのできる教材を開発しようと試みてきた。そのために成長過程を追い続けられる実験装置を組み立て、この装置で雪状氷結晶の成長過程を調べ、これまで人工的に再現された六花弁状の樹枝状結晶の成長条件を確認した[16]。本研究では、気流と水蒸気量の制御を改良した装置を用いて、雪状氷結晶の成長過程を動画として記録し、雪状氷結晶の成長過程画像を活用したウェブ教材の試作を試みる。
 自然が作り出す雪結晶を人工的に再現するためには、様々な工夫が必要で、それでもまだ私たちは、自然が作る巧妙な形状の結晶の一部の形状しか実験室で作り出せていない。小学4年生において「水のすがた」や中学校で「物質の状態変化」や「大気中の水」を学ぶ時に、人工的に作った雪結晶とその成長過程を示して児童生徒の自然現象への興味をより一層引き起こすとともに、自然がそれ以上に多彩で見事な形状の雪結晶を作り出していることに触れ、自然の巧みさを理解させたい。

2.実験

2−1.結晶育成
 先に著者らは、図1下部図2に示す冷却装置と急冷ユニット(LINKAM TC-600PMとL-600A)で顕微鏡観察用冷却加熱ステージ内の温度可変ブロックの温度を調節し、この上に置いたカバーガラス(MATSUNAMI GLASS 22×32mm 厚さNo.1 0.12〜0.17mm)上で結晶を成長させたことを報告した[16]。この時に外から送り込む水蒸気量は、温度可変ブロックを冷やすために使われて排出された窒素ガスの一部を、氷と食塩を用いて零度以下の一定温度に保った水蒸気供給用氷(水)に誘導して水蒸気を含ませた後、冷却加熱ステージに送り込むという方法で調節した。水蒸気を含ませた空気を用いる場合、水蒸気量を制御するために、まず空気中の水蒸気を除いてそれから制御した水蒸気量を含ませなければならない。この処理を省くためにこれまで空気の代わりに、温度可変ブロックの冷却に使われて排出された窒素ガスを用いてきた。しかしながらこれでは窒素ガスの流量を自由に調節できなかった。また上記の方法では水蒸気供給用氷(水)の温度を自在に変えることが困難であったので、自由に水蒸気量を変えることができなかった。本研究では図1上部に示すように、新たに恒温槽に水蒸気供給用氷(水)を入れたガラス容器を設置して、そこへ窒素ガスボンベから流量を調節した窒素ガスを送って水蒸気を含ませるという方法で、水蒸気量の制御を試みた。
 水蒸気供給用氷(水)を置く恒温槽は、図3に示すようにデュワー容器から気化した冷窒素ガスを送る送風管内にヒーターを置き、温度調節器(CHINO DB-1000)を用いて窒素ガス温度を制御して一定温度に保った。
 水蒸気供給用氷(水)をガラス容器に入れただけでは、温度を零度付近に設定した場合、融けて再び固化した氷がガラス管内の窒素ガス流入口を塞ぐ恐れがあった。これを回避するために、一辺5mm程度の小片に刻んで水を含ませたメラミンフォームをガラス容器に入れ、メラミンフォーム内で水を凍らせ、メラミンフォームの間隙に窒素ガスを通し、水蒸気を吸収させた。この水蒸気を含む窒素ガスを、氷成長の観察開始から観察が終わるまで流し続けた。
 恒温槽内に置かれた水蒸気供給用氷(水)の実際の温度は、上部から差し込んだ熱電対で測定した。この温度を0 ℃付近と−5 ℃付近に保ち、それぞれ設定温度を−7℃から−40 ℃まで(ガラス表面温度−5℃から−35℃まで)と−13 ℃から−35 ℃まで(ガラス表面温度−10℃から−30℃まで)の間で氷成長を観察した。水蒸気供給用氷(水)の温度は、ガスボンベから流す窒素ガスの流量を増やすと上昇するので、水蒸気供給用氷(水)温度の実測値が目的温度になるように、流量増加による温度変化を見て、温度調節器の設定温度を調節した。  氷結晶成長用カバーガラスへのヨウ化銀の蒸着は、以前と同様の方法で行った[16]が、この方法でガラス表面に付着したヨウ化銀を電子顕微鏡(日立 S-4300)で観察したところ、粒径300 nm程度の粒子の付着を確認した。
 水蒸気供給用氷とガラス表面の温度測定には、銅−コンスタンタン熱電対を用いた。
 
2−2.観察
 ガラス面上で成長する氷結晶の様子は、デジタルマイクロスコープ(KEYENCE VH-5500)にワイドレンジズームレンズ(KEYENCE VH-Z100)を接続して、取り込んだ画像をコンバータ(I・O・DATA TVC-XGA2)を介してパソコン(SONY VAIO PCV-RZ75P)に取り込み、同期してパソコンディスプレイで観察するとともに記録した。ワイドレンジズームレンズは基本的に400倍に固定し、画像観察と記録は、以前と同様にSONYのソフトウェアGiga Pocketを用いた [16]

3.実験結果と考察

 水蒸気供給用氷(水)温度が0 ℃付近(0 〜−2 ℃)、窒素ガス流量が1.0から3.0 L/minにおいて、様々なガラス表面温度で成長した氷の写真の一部を図4に示す。
 ガラス表面温度−11 ℃から−14 ℃までの範囲で、六花弁状の樹枝状(完全分離型[16])結晶が観察されたが、水蒸気供給用氷(水)の温度が0 ℃から−2 ℃の範囲の中でも温度が高い(水蒸気量が多い)ほうで各花弁が幅広く育つ傾向を示した。また窒素流量が増加しても幅広くなる傾向を示した。窒素流量が多いほど、単位時間に運ばれる水蒸気量は増加すると推測されるので、この傾向は水蒸気供給用氷(水)の温度における傾向と合っている。
 水蒸気供給用氷(水)温度が−5 ℃付近(−4 〜−6 ℃)で、窒素ガス流量が2.5から3.0 L/minでの様々なガラス表面温度で成長した氷の写真を、図5図6に示す。水蒸気供給用氷(水)温度が−5 ℃付近では水蒸気量が少なくなるため、窒素ガス流量が2.0 L/min未満では結晶ができにくかった。ガラス表面温度−11 ℃から−14 ℃の間で六花弁状の樹枝状結晶が観察されたが、それぞれ−11 ℃と−14 ℃では、6枚の花弁の各形状が幅広く、扇形(不完全結合型 [16])に近かった。水滴からあるいは水滴が確認されぬまま図6に示すような六角板状に成長する結晶が観察されたが、同様な成長が、水蒸気供給用氷(水)温度が−1 ℃においても、ガラス表面温度−21 ℃、窒素ガス流量2.0 L/minにおいて確認された。
 ガラス表面温度と水蒸気供給用氷(水)温度における飽和水蒸気圧の差(Δp )から水蒸気の過飽和量(Δρ(g m-3))は、次式を用いて求めることができる。

ここで18は水1molの質量(g)、Tはガラス表面温度(K)、Rは気体定数であり、蒸気圧をPa、体積をm3で表した場合、8.31 (J K-1 mol-1)である。各温度での飽和蒸気圧は、報告されている値を用いた[11]
 図7は、式(1)で求めた過飽和量を縦軸に、ガラス表面温度を横軸にして上記に示した結晶形をまとめたものである。水蒸気供給用氷(水)温度が0 ℃付近と−5 ℃付近のいずれでも、ガラス表面温度−11 ℃から−14 ℃の間で六花弁状の樹枝状結晶が観察されていることが明瞭にわかる。この実験結果は、以前の私たちの結果[16]とよく一致する。
 六角板状結晶(完全結合型[16])は、水蒸気供給用氷(水)温度が0 ℃付近の場合には、六花弁状樹枝状結晶が観察される温度領域より高いあるいは低い温度で、水蒸気供給用氷温度が−5 ℃付近では、六花弁状樹枝状結晶が観察される温度領域より低い温度でのみ観察された。水蒸気供給用氷(水)温度が0 ℃付近でガラス表面温度が−15から−18 ℃付近では、初めから六角板状に成長する結晶も多少あったが、初めに六花弁状樹枝状結晶ができ、その花弁が次第に幅広く成長して扇形となり、それらがつながり、六角板状に成長していく結晶や初めに扇形が出現してそのあと六角板状に成長していく結晶が多くあった。ガラス表面温度−8.5から−11 ℃でも扇形から六角板状に成長していく結晶はあったが、−15℃以下に比べて六角板状結晶に成長する頻度は高くはなかった。−18 ℃以下の温度では、顕微鏡下で確認できた時にはすでに花弁の幅の広い扇形(不完全結合型)結晶で、そのまま扇形として成長するものと初めから六角板状に成長する結晶が混在していた。水蒸気供給用氷温度が−5 ℃付近の場合も、ガラス表面温度−14℃以下で、初め扇形が現れ、次第にそれらの花弁がつながって六角板状となった結晶もあったが、−20℃以下では初めから六角板状結晶となるものが多かった。
 角柱で骸晶と呼べる結晶は、水蒸気供給用氷(水)温度が0 ℃付近ではガラス表面温度が−5 ℃から−8 ℃において現れたが、この形状の結晶は再び−24 ℃以下でも観察された。水蒸気供給用氷温度が−5 ℃付近では、測定した−26、−30、−35 ℃ で骸晶を観察した。
 結晶は水蒸気を含む窒素ガスを流し始めて数十秒で析出したが、図4,5,6の大きさまで成長するのには2,3分を要した。六花弁状樹枝状結晶から扇形となり、それらがつながり、六角板状に成長していく場合や扇形から六角板状に成長していく場合には、5,6分の時間を要した。この観察の間、水蒸気を含む窒素ガスは、流し続けたままである。
 先に著者らは、この樹枝状結晶が出現する温度領域の高温側と低温側にかなり高い割合で、扇形結晶が出現することを報告した[16]。今回私たちは、樹枝状結晶が出現する温度領域の近傍において、時間とともに樹枝状結晶から扇形になり、さらに六角板状に成長していく結晶や扇形から六角板状に成長していく結晶を観察した。また同じ六花弁状樹枝状結晶においても、水蒸気供給用氷(水)温度と窒素ガス流量によって花弁の幅が変化することがわかった。花弁の長さと幅の成長が、温度と水蒸気量に大きく影響を受けていることも明らかになった。これら形状の微妙な違いや時間による形状の推移は、装置の改良により水蒸気供給用氷(水)温度と窒素ガス流量の制御が可能になった結果、明らかになったことである。
 以前に、−20 ℃において過飽和量1.5 g m-3付近を境としてこれより大きな過飽和量で六角板状結晶、小さな過飽和量で扇形結晶がより数多く出現しており、−18 ℃では過飽和量1.8 g m-3付近で両者がかなり混在し、これより大きな過飽和量で六角板状結晶、小さな過飽和量で扇形結晶がより多く現れ、その境界が1.5から2.2 g m-3付近に存在する傾向を報告した[16]。今回、時間とともに結晶形が変化しながら成長していく姿も見つかり、このような境界の存在は確認できなかった。
 本実験では、外から水蒸気を含ませた窒素ガスを送り、冷却したガラス表面に水蒸気が接触して水滴がつき、その中でヨウ化銀を種として氷が成長するところを観察している。送入した水蒸気を含む窒素ガスは、水蒸気供給用氷の間を通る間に冷やされるが、このあと室温に置かれたユニチューブ(φ6×8.5mm)を通って加熱冷却ステージに入るために、ステージへ入る段階で室温に近い温度となっている。これがステージに入るので、ステージ空間内の雰囲気の温度勾配は大きく、またガスの流れがある状態となっている。従って本実験における過飽和量は、中谷らの対流型人工雪装置やその装置のわずかな対流をも除くために設計された小林らの拡散型人工雪装置[10,11]のような繊細さと厳密さを保った条件における値ではない。
 本来、過飽和状態は、清浄で安定な状態において、その温度と圧力における安定相が出現するための核となるものが存在しないために生じる過冷却によって起こる。そのような状態の時に外から土壌粒子やダスト等の刺激があると、それらを核として水蒸気は小さな水滴あるいは氷核となり雲を形成し、そのときに成長中の形として複雑な形の結晶が成長していく[18]。粒径が小さいほど水滴の蒸気圧が高いために、小さな水滴は蒸発して、結晶がさらに成長していく。湿った温かい空気が上昇して冷却するとともに土壌粒子やダスト等を核として凝縮して雲を作り、その中での雪状氷結晶が成長するという大気中の状態を作り出すために、本実験ではあえて室温に近く湿度を20%前後にした窒素ガスを送入して行った。自然に生じる過冷却が、本実験のような大きな過飽和度とはなりえるのかは疑問である。また本実験のステージ内では、温度可変ブロックを冷却するために液体窒素から気化させた窒素ガスを送っている送風管(図1のA)が最も温度が低くなるので、この部分で氷が成長していることも考えられ、過飽和量が実際にこのような大きな値になってはいない可能性もある。しかし、送風管Aの影響はいずれの温度においても同様にあると思われるので、図7の縦軸がずれることはあろうとも、本研究での各温度での結晶成長過程の観察は、形態形成を理論的に考える上で意味があるであろう。
 今回、私たちの観察では、自然に観察される雪結晶のような六花弁型よりもっと複雑な樹枝状結晶を観察することはできなかった。自然に見られる複雑な雪結晶に近い形状の雪の成長の様子も見ることができれば、なお子どもたちの興味を引くであろう。
 本実験では、ガラス表面上で成長していく結晶の成長過程を観測し続けることができる。W. A. Bentleyら[8]や小林[17]が観察した自然の様々な形状の平面型雪結晶が、どのような要因や時間の推移で変化して成長していくのか調べるために、今回、窒素ガス流量と水蒸気供給用氷(水)の温度を調節できるように装置を改良した。著者らは、水蒸気を含む窒素の流量を頻繁に変化させた時に、六花弁状氷結晶の各花弁にさらに枝分かれが現れる兆候を観察して報告した[19]。今後その結晶成長をさらに調べ、六花弁状氷結晶より細かく枝分かれした複雑な結晶成長の動画を記録してウェブ教材に組み込んでいく予定である。実験室でのこの成長過程を明らかにすることで、自然の雲の中での雪結晶の成長過程の一端を明らかにできるであろう。

4.ウェブ教材の試作

4−1. ウェブページ作成の基本
 著者らは、これまでもウェブ理科教材を作り、報告してきた [20,21]。そこでは児童生徒の興味を引き起こすために、子どもたちが実際に体験しにくい、あるいは小中学校では手軽に実験できない自然の面白い現象や事物を、インターネットを通した映像として提供すること、必要な情報や画像上を自由に飛び歩くことのできるウェブという道具の特性を生かして、教室で教員が教材として活用し易いように、また子どもたちも使いやすいように、スクロールなしのモニター画面の大きさを1ページとする作りとすることを述べた。本ウェブ教材においても、このことを基本にした。また今回もできるだけ説明文を少なくし、結晶成長の動画を中心に、そこに早くたどり着ける教材とすることを心がけた。
 ウェブ教材は、Windows付属のNotepadファイルにHTML文書として書き込んで構築した。絵の作成や画像ファイルの編集にはWindows付属のPaintを用いた。
 マイクロスコープからの映像信号は、SONYのGiga Pocketにより変換して、パソコンに.jpegあるいは.mpegという拡張子をもった画像ファイルとして保存した。これらの画像をDVgate Plusを用いて編集した。
 
4−2.試作ウェブ教材の内容
 試作したウェブ教材「雪の結晶」 [24]という入口には六花弁状の樹枝状結晶画像を用いた。目次を作ると文字での説明が増えるので、雪結晶の作り方を簡略に示したトップページの模式図の中に、もう少し詳しい実験装置のページへの入口と、温度と水蒸気量の違いのよってできた様々な形の氷結晶画像をはりつけた表のページ(図8)への入口を設けた。表の中には16種類の氷結晶画像を配置して、このそれぞれをクリックするとそれぞれの成長過程の動画を十数秒から数十秒以内で見ることができるようにした。
 この教材は、小学校4年「水のすがた…」 [1-3]、中学校新しい科学1年「物質の姿と状態変化」 [22]、2年「雲のでき方と水蒸気」 [23]で、児童生徒への興味付けとしての利用や、水の状態変化や露点を学んだあとの視覚的な補助教材としての利用が期待できる。特に今年度改訂された中学校新しい科学2年「雲のでき方と水蒸気」 [23]には、自然の雪の結晶写真とともに中谷宇吉郎の研究が紹介されているので、この教材における結晶成長の動画は、さらに生徒の興味を引き付けることが期待できる。

5.まとめ

 本研究では、水蒸気供給用氷(水)温度と水蒸気を含ませ送り込む窒素ガス流量を制御できるように改良した装置を用いて、ガラス表面で成長する氷結晶の成長過程を観察した。図4から図6に示した種々の形状の雪状氷結晶を観察するとともに、ガラス表面温度−11から−14 ℃において、六花弁状の樹枝状結晶が成長し、その花弁の幅が、水蒸気量が多いほど広くなっていることを確認した。またこの温度以外の温度領域では、出現した六花弁状の樹枝状結晶が、時間とともに扇状になり、そして六角板状に成長していく姿、扇状が出現して六角板状に成長していく姿を観察した。
 私たちは、記録したこれら様々な形状の雪状氷結晶成長過程の画像を用いて、ウェブ教材を試作した[24]。これらは、小学校と中学校において水の状態変化や天気にかかわる大気中での変化を学ぶ上で、児童生徒への興味付けと視覚的補助教材としての利用が期待できる。まだ画像が鮮明でない点などさらに改良が必要である。加えて、大人も子どもも多彩な雪結晶の形に魅了されるので、今後、現在得られつつある六花弁状の氷結晶より複雑でしかし巧みな造形の妙を動画として示したいと考えている。
 
 ガラスに付着したヨウ化銀の観察には、岐阜大学生命科学総合研究支援センター機器分析分野にある共用の電子顕微鏡(日立 S-4300)を用いた。

参考文献

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[4] 平成18年度用 未来へひろがるサイエンス第1分野(上),啓林館,p. 57.
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[6] 平成23年度用 新編新しい理科5,東京書籍,p. 108.
[7] 平成23年度用 新編新しい理科6,東京書籍,p. 130.
[8] W. A. Bentley and H. J. Humphreys, Snow Crystals, 再版(初版は1930年), Dover Publications, Inc., New York, 1962.
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[22] 平成24年度用 新しい科学1年,東京書籍,p.108.
[23] 平成24年度用 新しい科学2年,東京書籍,p.222.
[24] http://www1.gifu-u.ac.jp/~edkagaku/sato/index2.html


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