「化学教育ジャーナル (CEJ)」創刊号/採録番号1-3/1997年8月8日受理
[要約]平成8年7月19日に出された中央教育審議会第1次答申で、「総合的な学習の時間」が提案されている。「水」を題材にした環境教育の総合学習単元を開発していく上での基礎調査として、現行の各教科で環境(水)の内容がどれくらい扱われているのか、各教科の教科書(国語・社会・算数・理科)から調査を行った。
[キーワード]総合的な学習、環境教育、環境教育で扱う概念
平成8年7月19日に出された中央教育審議会第1次答申の中で「総合的な学習の時間」の設定についての提案がなされた。「総合的な学習の時間」とは、現在、行われている各教科の多くに関わる内容(環境についてなど)を、一定のまとまった時間を設けて、その中で横断的・総合的に指導を行おうというものである。「総合的な学習の時間」の中で扱われるべき内容としては、国際理解教育、情報教育、環境教育などがあげられている。
本研究では、内容の厳選と授業時間数の削減が検討されている今、各教科の内容を削減して、新規に環境教育を導入するよりも、現行の各教科で扱われている環境的内容の抽出を行い、それらを、環境教育の目的に沿って配列する。そうすることにより、環境教育の目標のほか、各教科の目標の一部も達成され、より効率のよい環境教育カリキュラムになるのではないかと考えた。その基礎研究として、小学校各教科の現行の教科書で、どれくらい環境(水)の内容を扱っているのかの調査を行った。
割合の算出法
「環境の割合」(%)= 環境を扱っている小単元のページ数の合計 ×100
各社教科書のページ数の合計
*「水の割合」も同様にして算出
R.Rothの「環境教育で扱う概念」は、定義されたのが1976年と今から21年も昔である。1976年頃は、環境破壊、環境汚染などの環境問題が現実に起こっていた時代であり、そのことは、「環境教育で扱う概念」の下位概念の数がそれぞれ、B環境管理16・D経済18・H天然資源18・I社会―文化環境10と多く定義されていることからも読み取ることができる。R.Rothの「環境教育で扱う概念」を現在の日本の環境教育の目標(環境教育指導資料(中学校・高等学校編)、文部省、1991、p6)である「環境や環境問題に関心・知識をもち、人間活動と環境とのかかわりについての総合的な理解と認識の上にたって、環境の保全に配慮した望ましい働きかけのできる技能や思考力、判断力を身に付け、より良い環境の創造活動に主体的に参加し環境への責任ある行動がとれる態度を育成する」と比べてみた場合、環境や環境問題の理解といった人間全体の活動と環境への影響に関する概念は押さえられているが、後半部の「環境の保全に配慮した望ましい働きかけのできる技能や思考力、判断力を身に付け、より良い環境の創造活動に主体的に参加し環境への責任ある行動がとれる態度を育成する」という個人の環境を守ろうとする心情、技能の育成に関する概念が少ない。よって、個人の心情、技能の育成を「環境教育で扱われる概念」の各概念・各下位概念に追加する必要があると考えられる。例を挙げると、
などである。
「環境教育で扱う概念」は、時代の流れや環境の変化に対応して変化していかなくてはならない。つまり、「環境教育で扱う概念」は、一度定義したらそれで終わりというのではなく、常にその時代に対応した「環境教育で扱う概念」になるように追加、修正していかなくてはならないと考えられる。
国語
国語は、低い割合ではあるが、「環境」「水」に関する内容を含んでおり、学年が上がるにつれて増加する傾向にあることがグラフから読み取れる。また、扱われている内容に関しては、実際に調査を行ってみて、第1学年〜第3学年では、動植物の形態的特徴についての説明文が多く、第4学年〜第6学年では、それに自然保護の内容を含んだ説明文が増えていく。これは、他教科の内容と関連させているということが考えられるほか、子供の理解の状況についても考慮した内容の配置であると考えられる。
社会
社会は、小学校学習指導要領の目標及び内容に「環境」「水」が記載されているため、どの学年でも「環境」の割合は大きい。さらに「水」に関しても平均3割と高い割合を示している。学年が上がるに連れて扱う環境の範囲が自分たちの周囲から世界規模に膨らんでいる。さらに、第6学年の上巻では、扱う内容がすべて我が国の歴史であるため、「環境」に関する内容としては足尾鉱毒事件しか扱われていない。
算数
算数は、小学校学習指導要領の目標及び内容に環境に関する内容は含まれてはいない。しかし、実際に調査を行った結果を見ると割合こそ低いが「環境」「水」に関する扱いが見られた。例えば、表やグラフの事例や問題として扱われている。算数で扱われる内容は、環境と直接関係することはほとんど無いが、環境を考えていく上で必要不可欠な表や図などの作成や読み取りの能力を培うという点で重要である。
理科
理科は、社会と同様小学校学習指導要領の目標及び内容で「環境」「水」を扱うことが記載されているため、どの学年でも「環境」を扱う割合は大きい。さらに「水」に関しても平均2割と高い割合を示している。特に第6学年の下巻では、水・大気・周囲の自然について考える内容を扱っている。
このように、扱っている量は異なるが、各教科とも「環境」「水」の内容を含んでいることが読み取れる。
今回調査した国語・社会・算数・理科の教科書から教科別に、また教科間の比較を行うと次のような特徴を読み取ることができる。
国語
国語の教科書で扱われている内容を見ると、第1学年〜第3学年では、動植物の形態的特徴についての説明文が多く、第4学年〜第6学年では、それに自然保護の内容を加えた説明文が増えていく。そのため、R.Rothの「環境教育で扱う概念」のG適応と進化・H天然資源 が多く扱われているといえる。また、自然保護の内容では、文末に読者に対する訴え(環境に対してどう考えるか。自分に何ができるか。)を扱っているものが多い。そのため、国語(特に高学年)では、R.Rothの「環境教育で扱う概念」のM個人 も多く扱われているということがいえる。グラフの結果からもG適応と進化・H天然資源・M個人 が多く扱われている概念であるということを読み取ることができる。
社会
社会は、人間の経済活動が環境に与える影響について扱っている。R.Rothの「環境教育で扱う概念」の14概念のうち、B環境管理・D経済・H天然資源 が多く扱われ、環境変化については、F環境生態・I社会―文化環境 が多く取り上げられている。これは、社会科という教科の特性であるということがいえる。
算数
算数は、数式を導き出すための例題や問の中に環境教育的内容を扱っている例が多く、数式を導き出すという算数の目標だけを考えるのであれば、環境教育的内容でなくても問題はない。しかし、グラフからR.Rothの「環境教育で扱う概念」の14概念のうち、D経済・H天然資源 が多く扱われていることが読み取れる。これは、D経済・H天然資源は、表やグラフの例や問として扱いやすいからであると考えられる。
理科
理科は、グラフから環境教育で扱う概念の14概念のうち、G適応と進化 が多く、次いで、H天然資源 が多く扱われていて、その他の概念の扱いが少ない。理科は、自然事象を客観的に説明する教科であるため、R.Rothの「環境教育で扱う概念」の14概念のうちB〜F、I〜Nを扱いにくいと考えられる。が、例外的に人間が引き起こした環境問題と理科の内容を関連させて扱っている事例(例:水溶液と酸性雨)がある。また、第6学年の下巻の最後の単元は、環境に対する人間の在り方について扱っている。この単元は、R.Rothの「環境教育で扱う概念」の多くの概念が取り上げられている。
教科間の比較
教科間の比較では、以下のa〜fのようなことを読み取ることができる。
全体を通して、以下のようなことが考察できる。
「(f)環境や人の成長・健康に関する内容をはじめとして各教科間で重複する内容は、総合的な学習等を行うまとまった時間を設定することや各教科間の関連的な指導を一層進めることなどを考慮し、精選を図る」
の具体的事例を明らかにしているもので、環境(水)に関わる総合学習単元の作成を行う上で有効な資料になると考えられる。
国語(第1〜6学年) 大阪書籍・学校図書・教育出版・東京書籍・日本書籍・光村図書
社会(第3〜6学年) 大阪書籍・教育出版・東京書籍・日本文教出版・光村図書
算数(第1〜6学年) 大阪書籍・学校図書・教育出版・啓林館・大日本図書・東京書籍
理科(第3〜6学年) 学校図書・教育出版・啓林館・大日本図書・東京書籍