「化学教育ジャーナル(CEJ)」第2巻第1号/採録番号2-6/1997年12月3日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html



水に親しむ 

−イオン交換樹脂を用いた実験−

福岡教育大学小学校教員養成課程理科専修

平松英史

1. はじめに

 近年、総合的な学習内容としての環境教育が注目されており、教材も数多く発案されている。本稿では水環境に親しむ実験の一つとして、値段も手頃で再使用可能なイオン交換樹脂を用い、中高生を対象とした簡易な実験を紹介する。イオン交換樹脂は高校の化学の教科書中で合成高分子化合物のうちのひとつとして取り上げられており、主にその化学的性質に関しての解説が行われている。実験は酸塩基指示薬を用いて、イオン交換反応を目で確かめるものと、イオン交換反応を利用して、水中の硬度に関係するCa2+イオンを取り除き、指示薬により、その変化を見るものである。

2. 実験

2−1 イオン交換反応を目で確かめる

原理

 水素イオン型イオン交換樹脂は樹脂中にH+イオンを内包し、このH+と外部溶液中の陽イオンとでイオン交換を行う。この実験の場合、外部溶液は塩化ナトリウム水溶液と水酸化ナトリウム水溶液の混合溶液であるから、溶液中のNa+と樹脂中のH+が交換される。

R-H+ + Na+  -->  R-Na+ + H+    (R:樹脂)

従って、溶液中のH+濃度が増えることにより、pHが下がり、指示薬の色が変化する。

準備 水素イオン型イオン交換樹脂、ブロモチモールブルー(BTB)、水酸化ナトリウム水溶液(0.01M)、塩化ナトリウム水溶液(0.1M)、蒸留水、シャーレ(直径8センチ程度)

方法

1、シャーレに塩化ナトリウム水溶液を3分の1程いれて、BTB指示薬を数滴加える。

2、この溶液に、水酸化ナトリウム水溶液を約3ml加えてアルカリ性にし、溶液の色を青色にする。

3、この容器に陽イオン交換樹脂を薬さじ小一杯分加えて樹脂の周りの色の変化を観察する。図1

4、この溶液をかくはんして、溶液全体の色の変化を観察する。 

5、次に、この溶液に水酸化ナトリウム水溶液を数滴加えて、溶液全体の色の変化を観察する。

4から5までの操作を繰り返して、色の変化を観察する。

結果

 アルカリ性の水酸化ナトリウムを加えると、溶液のpHが上がり、溶液は青色を呈していたが、水素イオン型イオン交換樹脂をこの溶液に加えると、即座にイオン交換反応が始まり、樹脂の周りから溶液の色が青から黄へと変化しはじめた。樹脂の周りからイオン交換反応が起こっていることがはっきりとわかった。

 この溶液をかくはんすると、樹脂の周りから溶液全体の色が青色から黄色へと変化していった。さらに、水酸化ナトリウム水溶液を加えると、加えた場所が青色になるが、すぐに樹脂中の水素イオンと溶液のナトリウムイオンとの間でイオン交換反応がおこり、溶液中の水酸化物イオンが中和され、溶液は黄色になった。

 さらに、水酸化ナトリウムを加えていくと、溶液が青色になり、変化しなくなった。これは樹脂中の水素イオンが全てナトリウムイオンに交換され、水素イオンを溶液中に出せなくなったためである。

 

2−2 硬水を軟水に変える

原理

 水の硬度は水中に含まれるカルシウムイオンとマグネシウムイオンに左右され、これらの含有量が高いと硬水といわれる。硬水中で石鹸を使うとマグネシウム塩やカルシウム塩の沈殿がおこり、泡立ちが悪くなる。硬水を陽イオン交換樹脂に通すと樹脂中の陽イオンと溶液中のMg2+やCa2+が交換され軟水化される。

2R-Na+ + Ca2+ --> 2R-Ca2+ + 2Na+ (R:樹脂)

 溶液中のMg2+やCa2+の確認にはエリオクロムブラックT指示薬(BT指示薬)をもちいる。BT指示薬はpH7から11の溶液中において、Mg2+やCa2+が存在すれば青色から赤色へ変色する。

 石鹸分子は長鎖アルキル基(疎水基)とカルボン酸基(親水基)から構成されており、水中で疎水基の部位が油分と、親水基の部位が水と引き合い、油分を取り囲むように集合し、分散させることにより、洗浄効果を得ている(図2)。水が硬水であれば、マグネシウム塩やカルシウム塩をつくって沈殿し、泡立ちの具合や洗浄効果が低下する。

準備  ナトリウムイオン型又は水素イオン型陽イオン交換樹脂、天然水又は炭酸水素カルシウム溶液、カラム、ビーカー、エリオクロムブラックT指示薬(BT指示薬)、pH10緩衝溶液(塩化アンモニウム70gと濃アンモニア水570mlを蒸留水に溶かし1Lとする)、石鹸

方法  

1、カラムにイオン交換樹脂をつめる。

2、試料の水をカラムに通してビーカーに集める。図3

3、カラムに通した水と通さなかった水に、それぞれBT指示薬を加えて溶液の色の違いを見る。(この時に緩衝溶液を試料水50mlに対して1mlの割合で加えて溶液のpHを7から11の範囲にしておく)。図4

4、 これと同様にして、カラムに通した水と通さなかった水にそれぞれ石鹸を加えて泡の立ち方を見る。図5

結果

 イオン交換樹脂を通す前と通した後の水とでは明らかな差異が見られた。樹脂を通す前はBT指示薬を加えると赤色に変色したが、通した後の溶液は指示薬を加えても変色しなかった。つまり、樹脂を通した後の溶液にはMg2+やCa2+が存在しないことがわかった(図4)。樹脂を通す前の水に石鹸を加えても泡立ちが悪かったのに対し、樹脂を通した後の水は石鹸を加えると良く泡立った(図5)。これは、樹脂により溶液中のMg2+やCa2+が交換され、石鹸の疎水基の部位と結合してできるカルシウム塩やマグネシウム塩が出来なくなったためである。

3. おわりに

 イオン交換反応を目で確かめる実験は、樹脂の周りから色が変化し、OHP等で投影しても交換の様子が良くわかる。硬水を軟水に変える実験では水道水や川の水、海水等、いろんな水を使うと水への興味が引き起こされるだろう。なお、Ca2+の飲料水中での推奨濃度は100mg/lである。

参考文献

白石振作他 ,“化学II”, 大日本図書(1996) ,p.65.,p.186.

福岡教育大学理科講座編 , ”「体験 身近な科学」 資料集”, 福岡教育大学理科講座(1997),p.6-2.,p.6-3.

日本化学会編,”実験化学講座15 分析化学(上)”,丸善株式会社(1957),p.20.,p.21.

 




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