「化学教育ジャーナル(CEJ)」第5巻第1号(通巻8号)発行2001年7月28日/採録番号5-9/2001年5月8日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


実験とレポートを骨格にし
「自ら考える」化学 IB の授業を実践して



東京都立武蔵村山東高等学校 堀内和夫
RXT06363@nifty.ne.jp

1.はじめに

 本報告は,前任校の都立国分寺高校(以下本校とする)で実践したものの報告である。本校はほぼ全員が大学や短大に進学する,いわゆる進学校で,約3割が理系に進学する。
 本校では95年度より(94年度から新しい教育課程に移行した)文理とも共通で,2学年で3単位の「化学 IB 」を実施して現在に至っている。
 「化学 IB 」は標準単位4単位であるので,当然教科書の内容は終わらないため何を教材にするか問題であったが,化学らしく,実験を中心に指導できると考えられる内容として,「物質の構造」と「物質の変化」を選んだ。「物質の状態」,「無機化合物」「有機化合物」は3年の選択に回した。残りの部分は文系は2単位で理系は化学 II の内容と共に4単位で実施している。
 これまでも生徒実験を多く取り入れた授業を実施してきたが,この教育課程の改編に伴い,これまでの実験をさらに改変,増加させて,実験およびレポートを中心に授業を行うことにした。この授業と実験および定期試験は2学年8クラス共通で実施した。
 このような実験とレポ−トを中心にした授業を展開するに至った背景には次のようなことがあげられる。

  1. 新指導要領で,これまで以上に探究を重視するようになったこと。
  2. これまでの化学の授業でも実験をし,考察もさせていたが,その内容があまり深くなく,生徒のレポートが似たりよったりで,中にはほとんど丸写しにしているようなものも多かった。
  3. 最近の生徒は自ら考えることが不得意で,すぐに答を聞きたがるということ。
 このような背景のもとに今回の実践では,化学の実験とレポートを通して,自ら考えさせるようにするため,「教科書の内容を越えた考察を設けること」「自由に考察を書けるように化学的感想欄を多く設けること」を重点的に改善点した。
 そして今回の実践では,生徒が主体的に実験で経験し,また自ら調べ考えながら学ぶ習慣をつけさせることを主な目的とした。
 ここでは,1年間実践した化学 IB の内容と実践の成果,実践を通しての生徒の反応などを報告する。

2.授業の内容と展開

[授業の目的] 授業の目的として次の4点を設定し,1年間の授業の最初に生徒にも説明した。
 A.身近な化学的・物理的現象に興味を持ち自ら考える習慣をつけること。
 B.科学的(化学的あるいは物理的)な考え方を修得すること。
 C.身の回りの環境やエネルギーあるいは資源の問題について考えること。
 D.センター試験レベルの化学的な知識を身につけること。
この中で,特にA,Bに重点をおいた。
[実験内容] 実験は,1回50分の授業で終わるように設定し,表2に示すように,1学期10回,2学期14回,3学期8回の計32回実施した。なお1回分は1時限の授業を基本にしているが,いくつかは2時限の授業に分割して1回分として実施したものもある。また実験は,年間授業時数の約50%にあたる。

表2 1年間の実験の項目


【1学期】
1.実験を始めるにあたって
2.基本操作1--試薬の取り方と体積の測定
3.基本操作2--ガスバーナーの使い方と溶液の加熱
4.基本操作3--上皿天秤の使い方とコーヒーの蒸留
5.基本操作4--ろ過と吸着・昇華を利用した分離・薄層クロマトグラフィ−
6.結晶の性質(1)--イオン結晶の電気伝導性
7.結晶の性質(2)--分子結晶・金属結晶の電気伝導性
8.原子量・分子量と1mol の質量
9.単分子膜を使ってアボガドロ数を求める
10.化学変化の量的関係--マグネシウムと塩酸の反応--
【2学期】
11.化学反応と熱の出入り--硝酸アンモニウムの溶解による吸熱と携帯カイロの発熱
12.硝酸アンモニウムの溶解熱の測定
13.中和熱の測定によるヘスの法則の検証
14.二酸化炭素の状態変化と−196℃の世界
15.大気圧と蒸気圧および沸騰
16.ボイル・シャルルの法則の検証
17.揮発性物質の分子量測定--気体の状態方程式を用いて--
18.酸・塩基の性質
19.簡易pHメータによるpHの測定
20.塩化コバルト水溶液の化学平衡
21.pH試験紙による身近な物質のpHの測定
22.紫キャベツの色素のpHによる色の変化
23.中和滴定(1)--食酢中の酢酸の濃度決定
24.中和敵定(2)--カルピス中の乳酸の濃度決定
【3学期】
25.酸化還元の原理(1)--マグネシウムの酸化と酸化銅(II)の炭素による還元
26.酸化還元の原理(2)--主な酸化還元反応,塩素の性質,二酸化イオウの性質
27.酸化還元滴定
28.有機化合物の関連した酸化還元反応--ビタミンCの還元性と銀鏡反応
29.金属のイオン化傾向と金属の反応
30.ダニエル電池とボルタの電池
31.乾電池と鉛蓄電池
32.水溶液の電気分解
 

〔授業計画と実験室の割り振り〕 今回の実践で最も苦労したのは実験室の割り振りであった。とにかく2年生の実験は8クラスが週1回〜2回あり,これに3年の選択の授業が加わるので,はじめからきちんと授業計画を立てて,実験室利用の割り振りを考えておかないと,8クラスがこれだけの実験をこなすわけにはいかないのである。
 そこで右の例に示すように,学期初めに,各学期ごとの計画を綿密に立てた。この実践で感じたことは,これだけの実験をもう少しスム−ズにこなすためには2つの化学実験室が必要であるということだ。

〔実験プリントおよびレポートの形式] レポートは書き込み形式のもので次の例のよう に〔実験方法〕〔実験〕〔結果〕〔考察〕〔化学的感想〕からなる。  (実験プリントの例.PDF 48 KB)




































































































 
  **実験プリントの例**  




















































 





 
  96−2年化学実験プリント(26)  




 
     中和滴定(2)
    ----カルピス中の乳酸の濃度-----
    ----カルピスウオーターとカルピスは同じか。-----
         2年    番 名前          
 
〔目的〕 中和滴定によりカルピスおよびカルピスウオーター中の乳酸の濃度を決定し、カルピ
 スをカルピスウオーターの乳酸濃度までに薄めた時、カルピスウオーターと同じ味になるかを
 確かめ味の違いについて考察する。
〔準備〕(試薬)0.1 mol/l
水酸化ナトリウム水溶液(標準溶液),カルピス,カルピスウオーター
   フェノールフタレイン溶液,万能pH試験紙,pH試験紙
   (器具)ビーカー,ガラス棒,ロート,10 ml ホールピペット,25 ml ビュレット、
 ビュレット台,三角フラスコ(各班4個),計量カップ

〔実験 I 〕カルピス中の乳酸の濃度の決定
 1.ホールピペット(10 ml 用)でカルピス原液を10.0 ml 取って三角フラスコに入れる。

          (省略)
 〔実験結果〕








 

 

初めの目盛り

中和点での目盛り

 加えたNaOH水溶液の量










 


      ml

        ml

       ml


      ml

        ml

       ml


 

      ml
 

        ml
 

       ml
 

 
  平均値
 
       ml
 
〔実験 II 〕カルピスウオーター中の乳酸の濃度の決定
 1.ホールピペット(10 ml 用)でカルピスウオーターを10.0 ml ずつ2回吸い取って三角フラスコにとる。
    (省略)
〔実験 III 〕カルピスウオーターとカルピスの味
    (省略)
〔実験結果〕






 

カルピスウオーターの味

 






 

カルピス原液を薄めたものの味

 

両者の味は同じだったか?
 


 
〔実験 IV 〕カルピスのpHと電離度

          (省略)
〔考察1〕乳酸は次のように電離する1価の酸である。
   CH3CH(OH)COOH → CH3CH(OH)COO + H
 これをもとに乳酸と水酸化ナトリウムとの反応の化学反応式を書き,これと〔実験 I 〕〔実験 II 〕
 の結果からカルピス原液およびカルピスウオーターの中に含まれる乳酸のモル濃度を有効数字
 3桁で決定せよ。
 化学反応式
 
 カルピス      
原液






































































 





 


 





 


 


 
 カルピスウオーター






 



 






 


 


 
〔考察2〕 カルピスもカルピスウオーターも酸としては乳酸が主成分であるとするとカルピス
 ウオーターはカルピス原液を何倍に薄めたものであるか計算せよ。






 



 






 


 


 
〔考察3〕カルピスウオーターおよびカルピスの成分表示をみてこの両者の味の違いはどこから
 きているかあなたなりに考えよ。またカルピスをカルピスウオーターの味に近づけるには家庭
 でどんな工夫をしたらよいかを考えてみよ。
 
     
 
     
 
     
 
     
〔考察4〕〔実験 IV 〕の結果からカルピス原液の電離度を計算し、この結果からカルピス中の乳酸
 は強酸か、弱酸かを述べよ。






 



 






 


 


 
 乳酸は強酸か弱酸か。


























 
     
 
     
 〔考察5〕乳酸について調べ、調べたことを書け。
 
     
 
     
 
     
 
     
 〔考察6〕滴定では滴定値が 10 ml 前後になる位が適当で、これより少なすぎても、多すぎてもあ
  まりよくない。これはなぜか。
 
     
 
     
 〔化学的感想〕
 
     
 
     
 
     
           約15行分続く
 

 この実験プリントの特徴は〔考察〕の内容と〔化学的感想〕にある。
〔考察〕では次の例のように教科書を越えた内容でも,考えればできるようなものも付加して,いわゆる思考力を高められるような設定にした。

〔例1〕(金属結晶の電気伝導性の実験で)
 液体状態のスズと固体状態のスズではどちらが電気を通しやすいか。あなたの考えを理
 由と共に述べなさい。
〔例2〕(ビーカーおよびアルミ缶に液体窒素を入れた時,容器の外壁の様子を観察した
 実験の後で)
 アルミ缶とビーカーで容器の外壁のようすの違いが出たのはなぜか。ガラスとアルミの
 熱伝導性の違いから考えよ。またこの実験で、アルミ缶からぽたぽた落ちた液体は何か。
 判断した根拠と、それを実験的に確かめる方法も考えよ。
〔例3〕(蒸留水のpHを測定して)
 なぜpHが 7.0 より小さい雨を酸性雨と言わないでpHが 5.6 より小さい雨を酸性雨
 というのか。今回の蒸留水のpHの測定結果と関連させて述べよ。

 また〔化学的感想〕は,単なる実験の感想でなく,実験と関連する化学的な感想および実験に関連した調査事項などを書かせるために,化学的感想とし欄も約半ページ〜1ページ分位をとった。
[レポートの提出]レポートの提出は実験日の翌々日とし,提出遅れ1日ごとに−1点とした。このように設定したのは,できるだけ実験の印象が深いうちにレポートを仕上げさせたかったからである。
実際の生徒の提出状況は,約9割が期日通りに提出した。また残り1割のほとんどが1〜2日遅れで提出していた。

3.評価の方法と生徒の化学的感想の例

〔評価の方法〕レポートの評価は考察の問題の答えより,感想の内容を重視した。それはこの感想欄に個々の実験に対する興味や深い洞察が現れてくるからである。そして基本的に次のA,B,Cの3段階で評価した。
 A(+5)−−−感想も考察も丁寧に内容もきちん書かれているもの。調べたことや自
         分で考えたことが独創的に書かれているもの
 B(0)−−−一通りやり終えたという程度のもの
 C(−5)−−−考察に空白があるものや感想が雑であったり感想が欄のほとんどを埋
         めてないもの。また他の生徒のものを写したようなもの。
 なお評価はおおむね約10%がA、約5%がC他はBとした。ただBの約半数はB°(+1)にした。各学期ごとの評価は定期試験70%,実験(レポート)30%とした。

〔化学的感想の例〕前に述べた通り,今回のレポ−トの評価のポイントは化学的感想であるが,次にその良い例を示す。
───例1 14.二酸化炭素の状態変化と−196℃の世界の実験をして────────
 今回の実験で,ドライアイスを使ったが,ドライアイスはなぜなぜすぐに昇華することがないのか不思議に思い,調べてみた。するとドライアイスの昇華圧は−78.5℃で1気圧であるが,昇華熱が大きく(87 kcal/mol)昇華した二酸化炭素が固体の周りを包み込むようになるので,すぐに昇華することがないことがわかった。
 また実験 III において酸素の液体は淡青色であると知ったが,固体も淡青色であるらしい。液体酸素は,アルコ−ル,ケロシンなどと混合すると爆発するためダイナマイトの代わりやロケット燃料に使われることも調べてわかった。実験 III の9でエタノールを使ったので,もし,このエタノ−ルと液体酸素が混合したら危険だったと恐ろしく思った。今回の実験では−196℃という極低温の世界の一端をみることができてとても楽しかった。

───例2 18.酸・塩基の性質の実験をして──────────────────
 今回の実験では,「植物の灰」を入れた水」が本当に塩基性を示すということが確かめられた。アルカリの語源を調べた時から,なぜ植物の灰を入れた水が塩基性を示すのか疑問に思っていたので灰汁について詳しく調べてみることにした。植物の灰を入れた水というのは,植物に含まれているKのために塩基性を示すという。それでは紙を燃やして灰をつくりそれを水に溶かした場合はどうなるか考えた。紙はもともと植物性繊維を原料として作られているわけだから,その水溶液が塩基性を示してもおかしくはない。しかし実際には紙を燃やして作った灰汁はpHが約 7 になって中性を示す。この理由は現在使用されている紙のほとんどは,洋紙であり,それらはインキがにじむのを防ぐため,パルプで作った紙に松ヤニからつくったせっけんと,硫酸アルミニウムを加えて,松ヤニのコロイド粒子を紙の繊維に付着させる処理がされている。この処理のため洋紙のpHは 5.2 になり,燃やして作った灰汁のpHも 7 になるのである。なかなかおもしろいことがわかったと思う。紙といっても一律に考えてはいけないと思った。

〔レポートの採点〕 レポートの評価の方法は前記の通りであるが,レポートはできるだけ添削して返却した。特に化学的感想は綿密に添削した。こうすることによって生徒のやる気を喚起するようにした。生徒もこうされるときちんとレポートを作成せざるをえないようであった。しかし採点する側は大変で,4クラスをもつと1回分で約180通になり,1学期分では約2000通になるからである。
 ただここをいいかげんにやると今回の実践の効果は半減するので,がんばった。また採点の途中で前記のようなすばらしい感想に出会うと疲れも吹っ飛んだものである。

4.生徒の感想と教育効果

 今回の授業を終わってから,簡単なアンケートにより生徒の感想を聞いたが,これらの結果についてまとめてみる。
(イ)実験について------ほとんどの生徒(約90%)が講義より実験を好んでいた。また
  実験の方が教科書の内容の理解も深まるとしていた。なお計32回の実験の中で印象
  に残らなかった実験および印象に残った実験のアンケートの結果は表3の通りであった。

表3 印象に残らなかった実験,印象に残った実験,

【印象に残らなかった実験】

順位

実験内容

印象度*)

主な理由


 

実験を始めるにあたって
 

−2.9
 

☆説明ばかりでおもしろくなかった。
 


 

基本操作1--試薬の取り方と体積の測定

−2.8
 

☆基本的すぎたのと内容が細かすぎた。
☆中学の復習であった。


 

基本操作2--ガスバーナーの使い方と溶液の加熱

−2.7
 

☆中学の復習であった。
 


 

原子量・分子量と1 mol の質量

−1.9
 

☆実験の内容自体が思い出せない。
☆抽象的だった。


 

単分子膜を使ってアボガドロ数を求める

−1.4
 

☆計算がめんどうであった。
 


 

結晶の性質(1)--イオン結晶の電気伝導性

−1.4
 

☆あまり日常的なものでなかった。
☆実験の内容自体中学生的であった。


 

硝酸アンモニウムの溶解熱の測定

−1.1
 

☆どんな実験をしたかも思い出せない。
☆測定が温度だけなので退屈だった。


 

中和熱の測定によるヘスの法則の検証

−1.1
 

☆実験の操作が単純だった。
☆計算が面倒であった。


 

化学変化の量的関係--マグネシウムと塩酸の反応--

−0.75
 

☆計算が面倒であった。
 

10

 

揮発性物質の分子量測定--気体の状態方程式を用いて--
 

−0.74

 

☆計算が面倒であった。

 

【印象に残った実験】

順位

実験内容

印象度*)

主な理由







 

二酸化炭素の状態変化と
 −196℃の世界




 

 6.4





 

☆液体窒素で花などを凍らせる実験はテレビで見ていたが,実際間近で見るととても驚異であった。
☆液体窒素が机の上を粒々になってころがるのがおもしろかった。
☆ドライアイスで作った鉄砲がおもしろかった。



 

中和滴定(2)--カルピス中の乳酸の濃度決定

 3.0

 

☆カルピスが飲めたのが良かった。
☆カルピスとカルピスウオーターの味の違いを初めて知った。



 

有機化合物の関連した酸化還元反応--ビタミンC の還元性と銀鏡反応

 1.9

 

☆銀鏡がきれいだった。
☆ビタミン C の性質に触れられ,ビタミン C の大事な性質を考察できた。




 

基本操作4--ろ過と吸着・昇華を利用した分離・薄層クロマトグラフィ−
 

 1.7


 

☆きれいに色素を分離できた。しかも同心円状に分離したのが不思議だった。
☆生物でやったことを思い出せた。生物の時よりきれいにできた。




 

乾電池と鉛蓄電池


 

 1.4


 

☆乾電池の中身を見たのは初めてで,大変興味深かった。
☆充電・放電と電圧の関係が実験によって理解できた。





 

pH試験紙による身近な物質のpHの測定


 

 1.2



 

☆指示薬の色の変化によってpHが求められるのが不思議だった。また色素の色の変化がきれいだった。
☆身近なもののpHの測定なので興味深かった。




 

中和滴定(1)--食酢中の酢酸の濃度決定

 

 1.2


 

☆色々な器具を使い,いかにも化学者らしい実験だった。
☆中和点で色が変化するときの緊張感がたまらなかった。



 

紫キャベツの色素のpHによる色の変化
 

 0.78

 

☆紫キャベツの色素でもpHが測定できることが驚異であった。
☆色の変化が多彩で非常にきれいだった。



 

ダニエル電池とボルタの電池

 

 0.72

 

☆簡単な装置で電球がついたり,モーターが回ったりするの不思議だった。
☆電池の原理がわかった。


10


 

水溶液の電気分解



 

 0.47



 

☆電気分解を利用して文字を書いたのが印象的だった。
☆実験をしながら電気分解の原理が理解できた。
 

*)アンケートで印象に残った実験,残らなかった実験を5つずつあげてもらった。これを印象に残った実験の
   1位10点,2位8点−−−5位2点,また印象に残らなかった実験の1位−10点,2位−8点−−−
   5位−2点とし,調査対象の全平均の値を印象度とした。

  この結果をみると,おおむね高校生らしい実験(中学とは違うという印象を与える
  実験)や,身近な内容の実験,劇的な変化のする実験が印象に残っているようだ。逆
  に基本的な実験で中学の復習的なもの,測定が多く考察に計算を要するものなどの実
  験の印象が浅いようである。
  また文系クラスと理系クラスの差も見たが,大きな違いはなかった。ただ文系で
  は基本操作4の薄層クロマトグラフィーの実験が理系よりも上位にランクされてい
  た。これは,緑茶の中に含まれる色素が5〜6種類に同心円状に分かれ,きれいで印
  象的であったため,理科的と言うよりは芸術的という印象が強かったせいであろうか。
(ロ)レポートについて------ない方が良いという生徒も若干いたが,ほとんどの生徒(約
  85%)がレポートの提出は勉強になるから良いというものであった。確かに最初はや
  や不満も出たが何回かやっていくにつれて,どちらかというと,レポートを書くことに
  のめり込んでいったようだ。
(ハ)一歩進んだ考察の内容について------難しすぎるという意見も若干あったが,「考え
  る訓練ができるので大変よい。」という意見が半数以上であった。
(ニ)レポート提出時期-------もう少し考える時間がほしいという意見も多かったが,約
  半数は実験内容の記憶の新しいうちに書いた方がいいので,このままで良いという意
  見であった。
(ホ)何を参考にしたか。-------教科書や図解集などの参考書などが主であったが,以
  外と百科事典や国語辞典が多かった。これは調べ方がわからないためではないかと思
  われた。このことは以前から気になっていたので,化学室に「理化学辞典」「化学大辞
  典」などの辞典や大学1,2年向きの専門書を参考書として置くことにした。

 以上のように今回の実践は全体的に生徒には好評であった。さらに次のような二次的効果があることが生徒の感想からわかった。
  1. この実験とレポートの中身について,生徒同士や家庭内で議論になったりした。そして特に身近なことについては生徒が親に教えるというようなこともあった。1つの教科の内容について生徒同士や家庭で議論をするということは,大変好ましいことではないかと思う。
  2. 「塩素系洗剤と酸性洗剤の混合の実験」「カルピスとカルピスウオ−タ−の違いの実験」などを通して身近なものの品質表示などに注目するようになった。
  3. 1年の生物でペ−パ−クロマトグラフィ−の実験をやった後で,2年になって薄層クロマトグラフィ−の実験をやったので,教科を越えた関連性を学ぶことができた。
  4. レポ−トの内容によっては,メ−カ−のお客様相談室に電話したり,インタ−ネットを利用したり情報を得る手段が次第に多彩になっていった。

5.おわりに

 この実践で得た最も大きなことは,生徒はやらせれば,難しい内容にも積極的についてくるもであることが実感できたことであった。さらに生徒は本質的に実験が好きであり,指導のしかたによっては,理科離れはくい止められることが実感できたことである。
 また実験中心で演習が少ないと,大学入試に十分対応できないとよく言われるが,この実践では,考察や化学的感想を考えることで十分実力がつき,大学入試にも十分対応できた。センター試験での平均点は全国平均より10点弱高得点になった。
 しかし課題がないわけではない。まず第一にこれだけの実験を8クラス規模の学校で実施するには実験室が1つではかなり窮屈で,実験の準備にも支障があった。特に何種類かの実験が重なるとたいへんであったがこれは理科助手の先生や他の化学科の先生の協力でなんとかしのげた。できれば2つの実験室が欲しかった。
 また実験を終わってレポートを提出した後のフォローの時間が少なかった。このフォロ−があればもう少し生徒の理解が進むと思われたので,今後放課後を利用した指導など効果的な方法を考えたい。現状では良いレポートを印刷して配布するのが精一杯であった。
  課題を解決するための情報源の発掘も重要で,今後インターネットなどの情報をどう利用するかというような指導も是非必要であると思った。また参考図書の充実も重要な課題である。
  同じ実験を何年か続けるとマンネリ化するので,新しい実験を工夫する必要もある。そして新しい実験の計画を立てても,ものによっては新しい器具をそろえなければならないので,予算的な措置も欲しいところである。


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