「化学教育ジャーナル(CEJ)」第5巻第1号（通巻8号）発行2001年7月28日／採録番号5-6／2001年5月 13日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html

東京都立北養護学校・東大こだま分教室 　土屋忠之
　 at.tsuchiya@nifty.ne.jp

１．「科学マジック」を発表する

　昨年度の秋、病院内学級（長期入院の子ども達が通う学校）の文化祭で「科学マジック」を中学生に演じさせるという試みを行った。このショーは、文化祭に見学に来た保護者から「子ども達の表情が、生き生きしているところが良かった」という言葉を頂いた。「科学マジックショー」は児童・生徒が楽しく取り組むことができる。また理科の教員にとっても理科の知識を基本にしているので、文化祭などの出し物で取り組みやすいものだと思われる。

　科学マジックの具体的な方法については、多くの書物が出版されている。そこで今回は「生徒が演じる」ことの重要性を中心に書かせて頂いた。

　「生徒が演じる」科学マジックショーは、以下の (1), (2) の要素を組み合わせたものである。



要素 (1) 科学マジック　：理科の知識を活用し、見ている人を 　　　　　　　　　　　　　あっと驚かせるようなマジック 　要素 (2) マジックショー：生徒自身が観客の前で科学マジック 　　　　　　　　　　　　　を演じ、分かりやすく楽しく見せる


　私自身は今まで、生徒が観客の前で演じるものはあまり見かけなかった。そのため行うことに不安があったが、生徒自身が行う方が有効だと考えて今回チャレンジしてみることにした。

２．科学マジックショーの要素 (1), (2) について

（１）理科の知識を活用する・・・要素 (1) について

　生徒が、学習した知識が活用できることを体験することは大切である。「科学マジック」は、「今まで学習した理科の知識が活用できること」を実感させる一つの方法である。
　また、生徒は「人を驚かすこと」がとても好きである。そこで科学マジックは、教師が生徒に見せるだけではなく、生徒自身が行う方がより効果的である。生徒たちは、マジックショーを演じたあと、知識の応用面を実感していた。

（２）生徒がショーとして発表する・・・・要素 (2) について

　児童・生徒は「ショーをすること」がとても好きである。児童・生徒自身が「ショー」を行うことにより、演じている内容を深く理解するようになる。また、人前で発表することを意識することにより、目的意識が強まり、意欲的に学習に取り組むようになる。生徒は、マジックショーを演じたあと、観客の反応を見てとても満足そうな顔をしていた。

３．目標は「観客をあっと驚かせる」こと

　「マジックショー」を行う上で、以下の目標をたてた。



１）演じる科学マジックの仕組みを説明できる 　２）観客をあっと驚かせる


１）ついては、理科の知識の定着をねらいにした。
２）については、演技や台詞などを分かりやすく工夫することをねらいにした。
　特に、２）を設定したことは効果的であった。やはり、生徒は人を驚かせることが好きなので楽しく取り組むことができた。また、練習の中で、「そのやり方や台詞で見ている人が驚くかどうか」という視点で、工夫すると取り組みも積極的になった。

４．マジックショーの様子

１）生徒が演じたマジック

　それぞれの生徒が行ったマジックは以下のものである。一人一つ担当を決め、発表ではａ）から順番にマジックを行った。また、司会は生徒が担当し、台本については、生徒の意見を聞きながら私が作成した。　【台本 (1) 】



ａ）水を一瞬でワインのように赤くする 　　　　　　　　　【道具と仕掛け (2) 】　【マジックの様子 (6) 】 　ｂ）トウモロコシを一瞬でポップコーンにする 　　　　　　　　　【道具と仕掛け (3) 】　【マジックの様子 (7) 】 　ｃ）スプーン曲げ 　　　　　　　　　【道具 (4) 】　　　　　【マジックの様子 (8) 】 　ｄ）風船に串を刺す 　　　　　　　　　【道具 (5) 】　　　　　【マジックの様子 (9) 】 　ｅ）上記のａ）とｃ）の種明かしをそれぞれの担当の生徒が行った。 　　＊掲載した画像について・・・文化祭当日、子ども達が演じたもの 　　　ではなく、筆者が行ったマジックの様子を載せた。


　「スプーン曲げ」「風船に串を刺すマジック」は当日の失敗が怖かったが、生徒が「やりたい！！」と言うことと、「自主的に病室で練習する」という約束をして、やらせることにした。生徒は、医師や看護婦、母親に見せながらやっていたようで、練習する様子が、病棟でも話題になっていた。子ども達は「先生達（医師）もびっくりするんだぜ！！」と楽しそうに言っていた。
　また、自主的に練習した成果もあり、みんなたった2週間しか練習しなかったのにも関わらず、日を追うごとに上達していった。

　２）文化祭当日の様子

「水を赤くするマジック」「風船に串を刺すマジック」を中心に再現した。

【マジックショーの様子の再現(10) 】

５．マジックショーは大成功

　文化祭終了後、多く保護者から文化祭の発表した物の中で「一番良かった」という評価を頂き、「子ども達が、楽しそうにやっている所が良かった」という言葉を頂いた。観客は、マジックショーや理科の不思議さにかなりビックリしたようであった。演技後、観客から生徒へマジックの種明かしや理科の知識について質問がたくさん飛んでいた。また、目標の「観客をあっと驚かせる」は一応達成されたこともあり、生徒たちは大満足であった。

６．理科の授業の中における課題について

１）「風船に串を刺す」マジックは、知識が高校レベルものであり、中学生が学習するには、高度であった。学年相当の知識を使って理解できるマジックを行う必要がある。ただ、生徒が興味を示すものであることが大切なので、知識と興味の兼ね合いが難しいと感じた。

２）「水を赤くするマジック」は塩酸と水酸化ナトリウムという危険な物質を使用する。生徒が行うマジックの場合、できるだけ危険な物質を使用しないようにした方が良い。現在、同様の効果が出る他のものを探しているところである。

３）練習などを通常の理科の授業を使用したため、あまり指導の時間が取れなかった。時間数を考えると、選択理科や総合的な学習の時間を使用するのが良い。

７．中学選択理科、総合学習への応用

１）中学選択理科ヘの応用

　普通校では、文化祭で行うのは難しいと思われる。選択理科の中で、生徒同士で発表しあう設定でやると面白いかもしれない。その場合、時間をとることができればマジックを生徒に考えさせるのが面白い。また、生徒同士でマジックの種が見破れるかどうか競争などをしても面白い。

２）総合学習的な学習の時間への応用

　衣装や舞台などを生徒が作ったり、台本を作成したりすること等も生徒自身が行うような設定にすると総合学習にも応用できる。マジックショーを総合的に学習するという感じにすると良い。また、言葉や身振りを使った表現の学習にもなる。

８．参考文献

• 田中玄伯著　「『超能力』授業入門」　かもがわ出版
  
• 野呂茂樹、工藤貴正著　「先生はマジシャン」　連合出版
  
• ジム・ウィーゼ著　山崎昶訳　「科学マジックでアッといわせよう」　丸善株式会社
  
• 「たのしい授業」編集委員会編集　「学校行事おまかせハンドブック」　仮説社
  

トップへ

CEJ, v5n1目次へ