「化学教育ジャーナル(CEJ)」第10巻第1号(通巻18号)発行2007年12月27日/採録番号 10−2/2007年9月4日受理
URL = http://www.juen.ac.jp/scien/cssj/cejrnl.html


溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス
−固体無水物の溶解度−


芦田実*,遠藤尊士,新保佳奈美
埼玉大学 教育学部
〒338-8570 埼玉県さいたま市桜区下大久保255
E-mail: ashida@mail.saitama-u.ac.jp


Automatic Services of Calculating Data and for the Preparation of Solutions
by Using Internet - Solubilities of Solid Anhydrates -


Minoru Ashida*, Takashi Endou, and Kanami Shinpo
Faculty of Education, Saitama University
255 Shimo-ohkubo, Sakura-ku, Saitama, Saitama, 338-8570 Japan

1.はじめに
 本研究室では,インターネットを利用して学外との双方向の交流を目指し,利用者の立場に立ってそのニーズに応えるためのホームページ[文献1]を試作している.そのために,化学の質問箱を開設したり,溶液の濃度計算と調製方法のサービス[文献2〜4]などを開始している.質問箱は閲覧数(約45000件/年)や質問の回答数(約120件/年)が増加したが,その他のサービスは利用者が少ない.そこで,多くの人に知ってもらい,また利用してもらうために,本報告で紹介することにした.
 今,小学校では理科離れが進んでいる.理科(化学)の面白さは実験を通して伝えられることが多いと思われる.そこで,理科離れを少しでも減らすために,また小学校で少しでも多く理科(化学)実験を行ってもらうために,化学系実験の一番の基礎である水溶液の作り方(濃度計算と調製方法)[文献2〜4]の自動サービスを開始している.コンピュータに弱い人でも何の予備知識もなしに,いつでも必要なときに使用できる.さらにダウンロードサービスも開始するので,圧縮ファイルをダウンロードして解凍すればこのプログラムはパソコンの中だけ(オフライン)でも実行できる.前報[文献2〜4]では,塩化ナトリウム水溶液,酢酸水溶液,塩酸,アンモニア水,水酸化ナトリウム水溶液,硝酸,硫酸について報告し,ホームページですでにサービスを開始している.本報告では,新たに開発・公開した9種類の固体無水物の溶解度(溶解度曲線)に関する自動サービスについて述べる.このサービスでは溶液の濃度,溶解量,析出量(沈殿量)を計算できる.さらに,溶液の温度を上げたときの追加溶解量や温度を下げたときの析出量等を計算できる.

2.固体無水物の溶解度曲線
 作成したJava Appletプログラムで計算に使用している固体無水物の溶解度曲線(g/水100g単位,図1)とその数値(表1)を示す[文献5].さらに,質量%単位の溶解度曲線(図2)とその数値(表2)も示す.

3.利用者の操作方法
 実際のホームページ内の「溶液の作り方(濃度計算と調製方法)」のメニューから「固体無水物の溶解度」をクリックすると,最初の画面(図3)が表示される.プログラム実行画面のテキストボックスに数値を入力するときは全て半角文字で入力する.例えば,5.432E-1や1.234e5のような指数形式での入力も可能である.ただし,半角E(またはe)の後ろに半角空白を入れるとエラーになる.チェックボックスをクリックすることにより9種類(ショ糖,NaCl,KCl,KBr,NaHCO3,KHCO3,H3BO3,NaNO3,KNO3)の中から薬品を選択する.必要に応じて6つのテキストボックスの数値を変更して温度を設定する.溶質の質量(g)と溶媒の水の量(g,mL)を入力して「計算ボタン」をクリックすると,黒文字の計算値が表示(更新)される.全てのテキストボックスの数値を消すには「消去ボタン」をクリックする.ホウ酸H3BO3の計算例を図4に示す.最初の温度が60℃のとき,50.0gの水に7.0gのホウ酸を溶かすと飽和濃度に近い値(約94%)になることが分かる.さらに,飽和濃度に調節するためには,約0.44gのホウ酸を追加するか,約3.0gの水を蒸発させればよいことが分かる.この溶液を20℃に冷却すると約4.6gの固体が析出すること,80℃に加熱するとさらに約4.8gのホウ酸を溶かすことができることが分かる.上澄み液の実際の濃度と飽和濃度(溶解度)も表示している.画面の下方にはホウ酸の式量,化学的性質,注意事項等を表示している.硝酸カリウムKNO3の計算例を図5に示す.ホウ酸の場合と同様の内容である.

4.注意事項
 Java Appletプログラムを呼び出すためのhtmlファイルに,薬品の取り扱いに関する下記の注意事項を載せている.実験するときは十分に注意して欲しい.
 炭酸水素ナトリウム(重曹)NaHCO3は少し加水分解して,弱いアルカリ性になる.目に入ったり,手についたりしないように注意する.
 炭酸水素カリウムKHCO3も少し加水分解して,弱いアルカリ性になる.目に入ったり,手についたりしないように注意する.
 ホウ酸H3BO3の構成元素であるホウ素Bは有害な物質であり,平成13年に「人の健康の保護に関する環境基準」に1mg/L以下と規定された.さらに,ホウ素及びその化合物(スライムの材料のホウ砂など)の「一律排水基準」は10mg/L以下と規定された.実験後の廃液は必ず専用の容器に保管する.ホウ酸を流しに捨てる場合は水で0.057g/L以下に希釈する必要がある.これは,ホウ酸1g当たりに水17.5Lとなり,とうてい希釈できない.
 硝酸ナトリウムNaNO3は可燃物(有機物,炭,イオウ,赤リン,アルミニウム等)と混合して加熱したり,衝撃を与えると発火や爆発の危険がある.さらに,硝酸ナトリウムを加熱すると有毒な窒素酸化物と助燃性の酸素を生じる.取り扱いには充分に注意する.保管するときは可燃物と隔離して,湿気を避ける.
 硝酸カリウムは黒色火薬の原料でもあり,可燃物(有機物,炭,イオウ,赤リン,アルミニウム等)と混合し,加熱したり,衝撃を与えると発火や爆発の危険がある.さらに,硝酸カリウムを加熱すると有毒な窒素酸化物と助燃性の酸素を生じる.取り扱いには充分に注意する.保管するときは可燃物と隔離する.

5.計算方法
 Java Appletプログラムを呼び出すためのhtmlファイルに,下記のような計算方法の解説を載せている.
 入力した温度における溶解度(飽和濃度)は上の表(表1表2)から内挿法で求める.溶媒(水)の量をVo(g,mL),溶質(固体無水物)の全質量をMt(g),そのうち溶解している質量をMy(g),析出している質量をMs(g),上澄み液の濃度をUh(g/水100g)およびUp(質量%),溶解度(飽和濃度)をYh(g/水100g)およびYp(質量%)とする.さらに,飽和濃度に調節するために必要な溶質の追加・除去質量をMb(g),または飽和濃度に調節するために必要な溶媒(水)の追加・濃縮量をVa(g,mL)とすると,次式のような関係がある.これらの式と既知の値を用いて未知の値を求めることができる.

溶解度に達しているとき  Mt=My+Ms, Yh=Uh=100My/Vo, Yp=Up=100My/(Vo+My), Yh=100Yp/(100−Yp),

  Yp=100Yh/(100+Yh), My=VoUh/100, Mb=−Ms, Va=100Mt/Yh-Vo

溶解度未満のとき  Mt=My, Ms=0, Uh=100Mt/Vo, Up=100Mt/(Vo+Mt), Uh=100Up/(100−Up),

  Up=100Uh/(100+Uh), Mt=VoUh/100, Mb=(Yh−Uh)*Vo/100, Va=100Mt/Yh-Vo

6.使用したソフトウェア
 使用したOSはMicrosoft社のWindows 98 Second Edition,2000 Professional,XP Home Edition,XP Professionalである.Java Appletは多くの書籍[文献6〜11]を参考にして,Borland社のJBuilder 2005 Developerで作成し,フリーソフトウェアFFFTP 1.88[文献12]でサーバーにアップロードした.HTMLファイルはIBM社のホームページ・ビルダー 11[文献13,14]で編集・作成した.

7.おわりに
 埼玉大学および教育学部のサーバーだけでなく,学外のサーバーにも濃度計算と調製方法のプログラムを載せてサービスを開始した[文献1].学校の授業の準備や自由研究等でも利用できると思われる.今後はさらに,計算できる(水)溶液の種類を増やし,少しずつサービスを充実していく.

参考文献など(URLは全て2007年8月30日時点のものです)
[文献1] トップページアドレス 本館 http://www.saitama-u.ac.jp/ashida/
 縮小版1 http://www1.edu.saitama-u.ac.jp/users/ashida/
 縮小版2 http://www.e-sensei.ne.jp/~ashida/ (サーバー停止中?)
 別館1  http://www.geocities.jp/ashidabk1/ (閲覧のみ)
 別館2  http://ashidabk2.hp.infoseek.co.jp/
 別館3  http://www7.tok2.com/home/ashidabk3/
[文献2] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −塩化ナトリウム水溶液−』化学教育ジャーナル(CEJ),第7巻第1号(通巻12号),採録番号7-5(2003)
[文献3] 芦田実ほか『溶液の濃度計算と調製方法のインターネットによる自動サービス −酢酸水溶液,塩酸,アンモニア水,水酸化ナトリウム水溶液−』化学教育ジャーナル(CEJ),第8巻第1号(通巻14号),採録番号8-3(2004)
[文献4] Minoru Ashida, et al., Automatic Services of Calculating Data and for the Preparation of Solutions by Using Internet: - Nitric Acid Aqueous Solution and Sulfuric Acid Aqueous Solution-, The Chemical Education Journal (CEJ), Vol. 9, No. 2 (Serial No. 17). The date of issue: January 30, 2007./Registration No. 9-14/Received March 7, 2006.
[文献5] 日本化学会編『化学便覧基礎編』丸善(株)
[文献6] 高橋和也ほか『Java逆引き大全500の極意』(株)秀和システム
[文献7] 田中秀治『Jbuilder5で入門!Javaプログラミング』ソーテック社
[文献8] 松浦健一郎,司ゆき『はじめてのJBuilder6』ソフトバンク(株)
[文献9] 赤間世紀『Java2による数値計算』技報堂出版(株)
[文献10] 青野雅樹『Javaで学ぶコンピュータグラフィックス』(株)オーム社
[文献11] 中山茂『Java2グラフィックスプログラミング入門』技報堂出版(株)
[文献12] http://www2.biglobe.ne.jp/~sota/
[文献13] 『ホームページ・ビルダー 11 ユーザーズ・ガイド』日本アイ・ビー・エム(株)
[文献14] アンク『HTMLタグ辞典』翔泳社                                  元の本文位置に戻る

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