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令和3年度研究 知的障害教育における対話的な学びを考える

○第27回 公開研究会(オンライン)

 11月20日(土)に,オンライン開催となる,第27回公開研究会が行われました。「対話性を重視した学びに基づく教育実践の創造」という研究テーマに関しては,最終年度となります。二年次までの研究を踏まえて,各学部で検討してきた授業作りのポイントをまとめました。さらに,実践を振り返り,知的障害教育における対話的な学びの在り方について,各学部から提案をいたしました。公開研究会では,授業を公開し,参会者の皆様から御意見等をいただきました。いろいろな観点から御意見をいただくことで,研究をさらに深めることができました。誠にありがとうございました。
 ここでは,各学部の動画配信について,授業場面を中心に御紹介いたします。合わせて,公開研究会当日に行った授業を語る会でのやり取りを一部御紹介いたします。研究の詳細については,令和3年度研究報告を御覧ください。

【小学部】「やってみたい」という思いを育む授業づくり〜個々の思いを活かして〜

 授業T「くるくるころころワールドを楽しもう」(小学部1・2年生)

 「回る」,「転がる」に関連した絵本を読み合いました。友達が遊んでいるものに興味を示しながら,自分のやりたい遊びを見付けて遊びました。
   
【授業改善の工夫】
(1)自分と友達の役割を調整する必要がある場面を設定し,他者の思いに触れられるようにする
(2)新奇性のある教材を用意し,やってみたい気持ちを引き出す
(3)教師が遊びの世界に誘ったり,児童同士がつながるように促したりする
(4)絵本の「回る」というテーマが分かりやすくなるように,補助教材を用意する

【授業を語る会】
「低学年において,児童同士の関わりをつくるために,どのような手立てを講じたか?」
・プレイルームに設定した自由遊びでは,まず遊びそのものに興味をもつことを大切にした。同時に,互いの遊びが見合えるように場を設定した。一方で,雨樋を使った遊びは,樋を持つ児童,ボールを転がす児童等,複数の児童がいることで遊びが成立する状況を設定した。そして,教師がつなぎ役になることも意識した。
・子ども同士の関わりを作るためには,まず大人との関係(社会性)が絆になる。「これ好きだ」という遊びを介して,大人との関わりを大切にする。また,他の子どもが遊んでいる様子を見ているなかで,興味が出てくると自然と近づいていく。その場で,他の子どもの様子を見たり,大人(教師)とやり取りを重ねたりしていくことで,「(友達のように)あんな風に遊びたいな」という気持ちが芽生えてくる。遊びというのは,子どもたちに「ごっこの世界」を上手に教えてくれる。

 授業U「みんなで色を塗ろう」(小学部3・4年生)

秘密基地作りという魅力的なテーマを共有し,充分に活動できる環境を設定することで,互いの様子を見聞きしながら活動しました。
  
【授業改善の工夫】
(1)安心して活動に取り組める環境を作る
(2)友達の活動の様子を見る場面を設定する
(3)教師は,言語以外の表現を読み取り,児童同士をつなぐ
(4)それぞれの遊びの結果が,一つの秘密基地になることが分かるようにする


【授業を語る会】
「児童のなかで共有できた目的とは?」
・「秘密基地」という言葉を共有したいとは思いはあったが,児童には難しいとも感じていた。一方で,キーワードとして用いることで盛り上がる様子も見られた。「秘密基地」という言葉に合わせて,児童が知ってる言葉(家,部屋,壁)を組み合わせることで,共有が図られたように感じている。
・「秘密基地」というテーマは,好きな児童と興味がわかない児童に分かれるように感じたが,授業者は子どもの思いをくみ取って,そこから出てきた設定を柔軟に取り入れながら対応していた。

 授業V「みんなで街を作ろう」(小学部5・6年生)

 大きな街の土台や友達の作品から発想を得ることで,街作りに向かって一人一人が作りたいものを考えて活動しました。 
  
【授業改善の工夫】
(1)自分の作った家を置いた大きな街全体を見ながら,次に作りたいものを考える機会を設ける
(2)児童の発想を広げるように働き掛ける
(3)友達の発想に興味がもてるように,作品作りの途中で「みてみてタイム」を設定する
(4)実際に作った作品を,みんなの前で発表する場を設ける

【授業を語る会】
「街そのものに対する理解は,どの程度であったか?」

・街を作るという単元であったが,当初からは街にある建物等のイメージを共有することはできなかった。例えば,ペットボトルの素材からマラカスを連想して作る等といった様子が見られた。そのため,実際に校外に出て,街にある建物や乗り物,信号等を見る機会を設けた。教師はどのようなものがあるかを言語化して伝えることを大切にした。さらに,授業後に校外に出た際にも,「あそこに〇〇があるね」等と子どもたちからの表現が見られたのはよかったと感じている。

【中学部】
友達の考えを受け止め,選択・行動する力を育む授業作り

 授業T「地図にまとめよう」(中学部1年生)

 宇都宮市の中心部について調べました。見学を通して気付いたことを,二人組になって話し合いながら,地図にまとめる紹介カードを作りました。
  
【授業改善の工夫】
(1)友達の思いに関心をもてるよう,友達の作成したメモや写真を使用して活動することを伝える
(2)机を横に並べ,二人組で伝え合う活動を設定する
(3)思いを表出したり,伝え合ったことに納得したりできるよう,写真を活用したやり取りを設定する
(4)安心して取り組め,関わり合いが広がるよう教師が支援(仲介・代弁など)する
(5)友達が気付いたことや疑問に感じたことに,関心がもてるよう活動を工夫する

【授業を語る会】
「子どもの発信を代弁する際に,気を付けていることは?」
・過剰な支援や先回りした支援にならないように配慮しながらも,その時々の子どもの様子を見ながら支援した。普段の様子とつなげながら,「発信がありそう」と感じられた場面で,そっと促すように対応した。また,発信したことが友達に伝わっていないと感じられた場面では,端的な言葉や身振りを用いて代弁する等してやり取りをつないだ。

 授業U「ポスターにまとめよう」(中学部2年生)

 栃木県や県庁に焦点を当て,調べたことや見学して分かったことをまとめました。友達と役割を分担して,一つのポスターにまとめていきました。
  
【授業改善の工夫】
(1)友達と役割分担して,一つのものを作る場面を設定する
(2)生徒の得意な方法を活かせる教材や学習環境を整える
(3)友達を見たり,伝え合ったりできるように座席の配置を工夫する
(4)やり取りを重ねながら,生徒の思いを分かりやすく代弁する
(5)出来上がったポスターをみんなで見合う機会を設定する

【授業を語る会】
「子どもの考えを代弁する際に,教師の思いが強すぎて誘導してしまうことはないか?」
・自分から表出するのが難しい生徒の考えを代弁するときには,普段の生活を踏まえて予想される考えをいくつか示している。それでも選べないときには二択を提示する。状況によっては,生徒が納得できていないこともあるが,その際には「こういう考えもあるよ」と伝え,子どもの反応を見ながら支援にあたる。

 授業V「実際に飲み物を用意しよう」(中学部3年生)

 相手が気持ちよく思う振る舞い方を意識して手伝いができるように,ロールプレイを取り入れ,互いの気付きを伝え合いながら取り組みました。
   
【授業改善の工夫】
(1)考えたことを踏まえて,実際に体験できる場を設ける
(2)生徒同士の気付きが共有できるよう,実践ごとに相互評価する時間を設ける
(3)相手を意識した振る舞いについて,生徒の気付きをまとめ,確認する

【授業を語る会】
「学校で学んだことを,家庭で般化するための工夫とは?」
・授業の後に,学校で学んだことについて,家庭で取り組んだかどうかを生徒に聞いてみた。その際に聞かれた言葉や反応等を保護者と共有することで,家庭での取組に少しずつつなげた。

【高等部】自分の考えを整理し,表現する力を育む授業作り

 授業T「情報モラルを知ろう」(高等部Aグループ)

 「かつての級友達に,SNSを使って写真を送る」という問題事例に対して,どのような写真を送るのがよいのかを,グループに分かれて考えました。
  
【授業改善の工夫】
(1)状況を踏まえて考えるための知識を示す
(2)課題を分かりやすく示すとともに,一人一人が課題解決に向けて活動できるグループを編成する
(3)活動(写真撮影)を通して,自他の考えを伝え合う機会を設ける
(4)安心して意見を伝え合うことができるように,視覚的な支援を活用する
(5)異なる意見を認め合い,その良さを活かす

【授業を語る会】
「子どもが安心して発言できるための工夫とは?」
・グループ編成は,普段からの関係性を踏まえて設定した。その際に,話すことが比較的得意な生徒と難しい生徒を組み合わせるようにした。また,導入においては,話し合う(考える)ための前提となる知識を確認した。そして,話し合いがスムーズに展開できるように,話型シートを活用した。

 授業U「写真アプリを使おう」(高等部Bグループ)

 自分の好きなものをテーマに,仲間と写真を撮り合ったり,写真を見てもらったりする中で,互いの写真の面白さを認め合いながら撮影しました。
  
【授業改善の工夫】
(1)「好きなものを撮影する」という学習課題を設定することで,意欲を引き出す
(2)撮影したいと思える対象物を用意し,活動の見通しを分かりやすく示す
(3)生徒同士で撮影したり,写真を見せ合ったりする場面を設定する
(4)教師は,言語以外の表現を読み取り,生徒同士をつなぐ
(5)撮影した写真を生徒同士で見て紹介したり,認め合ったりする環境をつくる

【授業を語る会】
「次の授業を,どのように構想しているのか?」
・撮影した写真は,個人で楽しむもの,外部に発信したいものがあると捉えている。外部に発信したい思いを取り上げ,例えば「Aという写真は誰にだったら見せていいのか,送っていいのか」というテーマで授業を展開することを構想している。身近な話題で考えるならば,LINE等を使って写真を送る際,「家族だったら?友達だったら?」と考えることで,適切に発信できる力を育てていきたい。


※「研究について」に戻ります。

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